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第四十八話 農民たちの意見

次の日、俺はいつもの通り畑の様子を見に行った。皆、いつもと同じように作業をしてくれている。俺は全員を集めるように言い、そして、集まった彼らに対して口を開く。


「昨日の村長が言っていた肥料ですが、俺の畑には必要ないと判断しました。本当に害虫と雑草が駆除されるのかどうかが分かりませんし、それに、作物の味が落ちてしまう可能性もあります。皆さんの作業が減らないのが心苦しいですが……」


「いいえ、領主様。今のままで我々は大丈夫です。領主様には、我々の借金を肩代わりしていただきました。その領主様が決められたのです、何で我々が不満を言いましょうか。それに、我々も、あの肥料で味が落ちるのはイヤです。それに……」


俺の言葉に、マンリさんが口を開く。彼の話に、皆、頷いている。彼は言いにくそうに周囲を見廻しながら、さらに言葉を続ける。


「ウチのオヤジが言っていたんですが、雑草が生えてこなくなるようなものは、肥料じゃねぇ。毒だって言うんです……。雑草ってものすごい生命力で、毟っても毟っても生えてくるもんだ。そんな雑草が生えてこなくなるなんて、ものすごい毒だと。だから虫も寄りつかないんじゃないかって言うんです」


俺は彼の話を聞きながら大きく頷く。


「その話に、俺も賛成です。確かに、雑草を毟る手間、虫から作物を守る手間はかかるかもしれませんが、雑草が生えてくるのは土が健全な証拠でしょうし、虫が食べるってことは、それだけ美味しいから食べるのであって、虫も食べない作物を食べても、きっと美味しくはないと思います。俺の畑は、今まで通りでいきたいと思います。ただ、どうしても、村長の肥料を使いたいというのであれば、言ってください。できるだけ、相談に乗りますので」


そう言って俺は、畑を離れて、村に向かった。


ちょうどギルドの前に来ると、何故か行列ができていた。職員と思われる女性と男性が列整理に当たっている。一体何事かと思っていると、中からギルド長が現れた。彼は俺に気が付き、にこやかな笑顔を湛えながら近づいて来た。


「これは領主様、視察ですか?」


「ええまあ、畑の様子を見にいっていました。毎日の日課ですね。ところで、この行列は……?」


「ああ、村長の所でクエストが出ていましてね。肥料を撒くという簡単な仕事である上に、報酬も高いことから、希望者が殺到しているのです」


「なるほど……。でも、こんなに希望者がいたんじゃ、選ぶのが大変そうですね」


気が付くとギルド長は行列を眺めながら、やや寂しそうな表情を浮かべている。


「いいえ。募集している人数が多いので、おそらく全員が応募できると思います。何といっても、100人近く集めていますからね」


「ひゃ、100人ですか?」


「あの広大な村長の畑に肥料を撒くのですから、100人でも足りないでしょう。おそらく、このギルドが動員できる冒険者の限界が100人だと考えての募集だと思います。クエストは基本的に受け付ける方針にしていますが、冒険者たちがこぞって楽なクエストに応募するというのは、少々寂しいですね。それに、本来、応募してもらいたい魔物の討伐などのクエストに人が集まらなくなっています。しばらくは、緊急を要するものについては、私を始めとしたギルドスタッフで対応しようと思いますが、これが続くとなると……ちょっと頭が痛いですね」


俺はその表情を見ながら、何とも言えない気持ちになる。確かに、魔物の討伐が滞れば、この村の周囲の治安も悪くなるし、何より、冒険者たちが狩ってきた魔物、特にオークなど、肉が食べられるものであれば、安く村の店に卸していたのだ。このまま冒険者たちが村長のクエストにかかりっきりになってしまうと、村で色々な問題が発生する可能性が高くなるのだ。


「まあ、そうならないように、我々としても状況を見て村長と調整をしますがね」


彼はいつものさわやかな笑顔に戻る。俺は、ギルド長との話もそこそこにその場を切り上げ、ギビッドさんの店に寄って昼食用の弁当を引き取り、屋敷に戻った。


「ただいま」


「んゆー」


ワオンがパタパタと俺に走り寄ってくる。俺は彼女を抱きかかえ、そのままダイニングの椅子に座る。そして、昼食用の弁当をテーブルの上に置いた。


「畑の人たちはどうだったですか?」


クレイリーファラーズがあくびをしながら俺に話しかけてくる。俺は畑であったことを彼女に話した。


「うん、その通りだと思います。雑草もそうですが、何より作物の味が落ちるのが一番いけません。そうなると、今食べている食事も美味しくなくなるということですから。この村の作物は味がいいと鳥たちも言っています。鳥たちのためにも、作物の味は落とすべきではありません」


鳥のためかい……と俺は思わず苦笑いを浮かべる。その後、俺たちは村長の肥料を使いたいと言ってくる人がいた場合に、どのように対処するかを手短に話し合い、昼食の準備に取り掛かるのだった。


結局、農民たちから村長の肥料を購入したいと言ってくる者は皆無だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 某鉄腕ダッシュで使ってた虫に有効な液体を作れたら良いですな
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