【完結御礼】追加エピソードⅡ 増量
2024年、本当にお世話になりました。お礼の意味も込めましての、追加エピソード投稿でございます。
楽しんで読んでいただければ、嬉しいです。
王女がラッツ村にやって来てから一週間。ノスヤらの生活はいつもの様子を取り戻しつつあった。
王女は毎朝やって来るレークとヴィヴィトさん夫婦とたちまち打ち解け、今では二人の掃除を手伝うまでになっていた。後宮の奥深くで育った彼女にとって、目の前で行われる掃除という行為は珍しいものに映ったらしく、三人の気さくな性格も相まって、今では自分のシーツを干すなどしている。
そんな彼女だが、ノスヤたちには一つ、気がかりなことがあった。彼女があまりにも痩せすぎているということだ。
何より彼女は食が細い。朝などは、パンを半分、料理も、一口二口食べると、もう終わってしまう。最初などは料理が口に合わないのかと心配したほどだ。だが王女はそんな心配など無用とばかりに、料理は美味しいと言うし、この村の環境が気に入っていると言って憚らなかった。
とはいえ、ノスヤとヴァッシュはその体躯を見るにつけ、いつも心を痛めていた。あれでは骨と皮だけで、見た目にも健康そうには見えなかったからだ。
「やはり、食が細すぎるのよ。何とか、もう少し召し上がっていただくことはできないかしら……」
夜、寝室で二人きりになったとき、ヴァッシュが出し抜けに口を開く。ノスヤも、腕組みをしながら考えている。彼とても、俺がもっと美味しい料理を作れたら、王女様ももっとたくさん食べてくれるはずなのにと、責任を感じていたのだ。そのとき、彼の頭の中に何かが閃いた。
「そうだ。あの人に相談してみよう」
そう言って彼は嬉しそうな表情を浮かべた。
◆ ◆ ◆
「で? なに? 相談って」
そう言ってノスヤの前で尊大な態度を取っているのは、クレイリファラーズだった。彼女は出されたリンゴをシャクシャクと音をさせながら、あっという間に完食する。相変わらず、惚れ惚れするような食いっぷりだなと思いつつ、ノスヤは口を開く。
「王女様の事なんだけれど、見ての通り、あのお方は少し痩せすぎだと思うのですよ。もう少し、太った方が絶対にいいに決まっているのです。そこで、あのお方が太れるように、相談したいのですよ」
「何でそんなことを私に?」
「だってほら、特技、大食い。趣味、増量じゃないですか」
「しっ、失礼な! いやしくも女子に向かって大食い? 増量? 失礼にも程がありますっ!」
「……また、太ったよね?」
「ちがいますっ! 服が縮んでいるだけですっ!」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。で、何か、知恵はありますか?」
「知恵も何も簡単ですよ。息。息をしていればいいの。大きく吸って大きく吐く。それを繰り返していれば一週間に二キロは増えていきます」
「それは、アナタだからできる芸当でしょ?」
「そんなことはないですよ。でも簡単ですよ。お腹いっぱい食べればいいのです」
「あーそれは無理かも」
「どうして?」
「あなたの場合は、お腹いっぱいになっても食べられるでしょ? 王女様はお腹いっぱいの状態から食べると戻してしまう可能性があります。お腹を壊してしまう可能性があります。それだと意味がなくなりますよ」
「チッ、面倒くせぇな」
「何て?」
「いや、別に? だったら、間食をすればいいのです。十時、三時、九時、十二時ぐらいでいけば、すぐに太れますよ」
「それだけ食べられりゃ、ね。うん、でも確かに、三時のおやつというのはいいかもしれませんね。何か、おすすめはありますか?」
「一番太るのが、おもちですね。あれにタンラのジャムをかけたヤツ。メチャメチャ美味いけれど、メチャメチャ太るんだよ、あれ。あれを王女に差し上げるのがいいんじゃないですか」
「なるほど、試してみます」
「ただなぁ。ある程度食べないと効果はないと思いますよ」
「大丈夫です。あなたのようにドカ食いはできないでしょうけれど、元々食が細いのです。たとえ一口でも二口でも、食べられれば効果は出るはずです」
「ま、それでダメなら最後は油ものです。夜寝る前にフライドポテト山盛り食べれば、それはもう、一瞬で……」
「貴重なご意見ありがとうございました」
そう言ってクレイリファラーズを帰らせると、彼は早速餅を手配し、それにタンラの実で作ったジャムをかけてみた。なるほど確かに美味い。タンラの実の滋養分が体に染み渡るようだった。
「……ん! 美味じゃの」
王女はそれを一口食べて気に入った。彼女はそれを毎食後、デザートとして出すことを希望したのだった。それから数か月経つ頃には、彼女の体躯はすっかり通常の女性と同じようなものに回復していた。
体が大きくなったことに王女は少し戸惑いを見せていたが、その姿はいかにも健康そうに見え、また、すこし色気すらも感じるようになっていた。ノスヤやヴァッシュをはじめとした、村人全員か、彼女の回復ぶりを喜び、称賛したことで、王女はまた一つ、自分に自信を取り戻すことにつながるのだった。
そんな彼女にはその後、数人の男から求婚されることになるのだが……。それはまた、別のお話し。




