第三百九十五話 エピローグ
それから数年がたった。
ラッツ村は、以前とは見違える程に発展した。野山は開墾され、見る間に家々が立ち並ぶようになっていた。言うまでもなくそれは、色々なところから人々が移ってきたからだ。
エイビーの町では大量の金が産出されるようになり、その一部はリリレイス王国にも納められ、国を潤す結果となっていた。それだけでなく、俺が治めている西キョウス地区は飛躍的に収穫量が上がり、さらに国を潤すことに繋がっていた。
こう言っては何だが、このラッツ村をはじめとする西キョウス地区だけで、この国の基礎を支えていると言ってよかった。
別に俺は望んでいないが、国から功がありと見なされて公爵に叙された。と同時に、兄のシーズ、シーアの二人も公爵に叙されて、シーズの権勢はますます高まっていった。
俺は政治に事に関してはほとんど興味がないので、そうしたことはすべて兄のシーズに任せっきりにしていて、ラッツ村を中心とする西キョウス地区の人々が安心して暮らせるように全力を傾けた。ヴァッシュはそのために人が増えているのだと言っていたが、本当にそうだろうか。
ちなみに、ヴァッシュとの間には、二人の子供を授かった。男の子と女の子だ。あまり子供は得意ではなかったのだが、自分の子供はやはりかわいいもので。俺も率先して子育てに参加している。ヴァッシュにとっては邪魔かもしれないが。何より、ワオンが子供たちの面倒を見てくれている。自分がお姉さんだと思っているのか、ずっと子供たちの傍に付いて遊び相手になってくれているし、何か危険なことがあると、服を噛んで止めてくれたりしている。彼女も以前の仔竜の姿から、ドラゴンらしい風貌になった。今ではちょっと大きめな犬くらいに成長している。アルマイトさんの話では、もう二回りほど大きくなるのだとか。
ハウオウルは死ぬまでこの村にいることを約束してくれた。そして彼は妻を娶った。相手は、パルテックだ。何の気なしに俺が二人が一緒になればいいのにね、と言ったことが契機となって、あれよあれよという間にそうなってしまった。俺は二人のために、屋敷の近くに住まいを拵えて、今ではそこに住んでもらっている。年齢を考えて、完全バリアフリーにしているので、使いやすいと二人からは感謝されている。
そう、あの王女様だが、王都に帰った。
この村で二年ほど過ごしたが、その間にすっかり回復した。元々頭のよかった人で、心が落ち着いてからは色々な案を出すなど、政治家の才能を見せ始めた。その上、この村で出会った男と恋に落ち、結婚するという離れ業を見せた。彼女は女王として即位することを条件に、宰相やシーズたちに自分の結婚を認めさせたのだった。あの時の啖呵は、実に格好がよかった。
そして最後に、クレイリーファラーズだが……。彼女は、旅に出た。
西キョウス地区を馬車に乗って歩き回っている。そして、気が向いたときにふらりと村に帰って来ては、また出ていくというのを繰り返している。そう言えば昔、そんな映画があったなと思いながらも、俺は彼女を見守り続けている。帰ってきたら必ずイモ料理を出せとせがまれるのが面倒くさいのだが。
……それにしても、まさかこんなことになるとは思いもよらなかった。どうしてこんなことになったのか。シーズなどからよく不思議がられるのだが、俺もよくわからない。敢えて言えば、人から感謝されることをやり続けたから、か。やっぱり人から感謝されると嬉しいし、さらに頑張ろうと思えてくる。そして、助けた人たちがさらに手を貸してくれる。そうしたことの繰り返しだと思うのだ。
ただ、これだけは言える。人生は何が起こるかわからない。だから、面白いのだ……。
ひきこもり転生、これにて完結です。長い間のお付き合い、ありがとうございました!




