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第三百九十四話 安心する

そんなこんなで、俺たちはラッツ村に帰って来た。やっぱりここはいい。いつも見慣れた景色だが、その景色が俺を癒してくれてホッとする。


これもいつものことだが、村人たちが総出で迎えてくれて、俺たちの帰還を喜んでくれた。とりわけ、レークがいの一番に俺たちを迎えてくれて、皆で再会を喜び合った。


一方の王女はというと、王都を出るときとは別人のようになっていた。


もちろん、この村にも彼女のことを知る者はなく、ちらりと彼女に視線を向けることはあっても、ただそれだけだった。また領主が新しい召使でも連れてきたのかと思ったくらいの感じだった。


王都のあの、凄惨な生活を知る者もなく、プレッシャーをかけてくる者もいない。彼女は堂々と集まった民衆たちに視線を向け、ラッツ村を珍しそうに眺めていた。さらに彼女は、ハウオウルにいつの間にか懐いていて、彼のことをじい、じいと呼んで折に触れて話し込んでいる。


取り敢えず彼女の住まいだが、当面は俺の屋敷に住んでもらうことにした。幸いにして、二階の部屋が空いている。そこを使ってもらうことにして、風呂と手洗いは共用ということにした。とはいえ、王女様ではあるので、風呂は彼女に先に入ってもらうことにしたが、彼女はそこには頓着せず、別にいつでもいいと言って笑っていた。


ヴァッシュに聞いて驚いたが、彼女は入浴の作法というか、自分で自分の体を洗った経験がなかったそうだ。常に多くの侍女にかしずかれて、身の回りの一切合切をやってもらっていたため、そうなるのは仕方がなかったようだった。当然、通常着る服も、複雑な、リボンを結んだりするようなことはできなかったらしい。そんな彼女に、ヴァッシュとパルテックは一から丁寧にそうしたことを、この旅の間中教えていたようだった。お陰で今は彼女はちゃんと入浴することができるし、服も自分で着られるようになっていた。あの、後宮の女官からは姫様に何ということをと怒られるかもしれないが、俺は、たとえお姫様でもこうしたことは大切なことだと思うのだ。


村に到着したのが、夕方近くということもあり、その日は一旦お開きとした。大体、俺が帰還すると大なり小なりのお祭りのような催しが開かれるのだが、それも明日以降に打ち合わせしようということになった。


その日の夕食は俺が腕を振るって、串カツを作った。せっかく油を使うのだからとからあげとポテトフライも作った。最初は作るつもりはなかったのだが、クレイリーファラーズがそんなことを言ってきて、仕方なく作ることになったのだ。ヤツはさらに焼き芋をデザートとして作れと言ってきたが、自分で作れというと、キレながらキッチンを後にしていった。


俺が作業をしている隣で、ヴァッシュとパルテックがサラダやスープを作ってくれていた。お陰で、この夜の食事はいつにもなく豪華なものとなった。


食材は多めにつくり、それらをレークに家族へのお土産とした。さらには、ヴィヴィトさん夫婦にもそれらを持たせて帰らせた。最初はこの三人も一緒に食事をしていけと言ったのだが、さすがに遠慮されてしまったからだ。この三人は、俺が留守の間、毎日この屋敷に来て掃除をしてくれていた。お陰で、屋敷は以前と変わらぬ状態を保つことができていた。


王女はからあげを気に入ったようだ。もちろん、串カツもサラダもモリモリ食べている。以前は心配する程食が細かったが、今ではこれだけ食べられるようになり、顔色も良くなってきている。やはり人は環境だよな、と妙に感心してしまう。ちなみにクレイリーファラーズは……やっぱりフライドポテトを食っていた。それを想定して山盛り作っていたのだが、その半分以上を平らげている。もちろん串カツも食べている。ちゃんと朝昼と食べているにもかかわらず夕食をモリモリ食べられるのは、ある意味で才能だと思う。食べるだけなら横綱級だし、もしかしたら、相撲の世界でもやっていけるんじゃないかと思ったりもする。


食事が終わると、ハウオウルは宿屋に帰ると言って退室していった。王女には先に風呂に入ってもらい、次に俺も勧められるままに風呂に入った。出てくるとワオンがすでに静かな寝息を立てていた。彼女も彼女で長旅に疲れていたのだろう。


寝室に入ってベッドに横になる。やっぱり、慣れたベッドはいい。体にしっくりくる感じがする。別にこれまでの宿屋のものがダメだったというわけではないのだが。


寝室も丁寧に掃除が行き届いているし、ベッドもシーツもパリッとしている。本当にヴィヴィトさん夫婦とレークたちには感謝の言葉しかない。


今夜はゆっくりと寝られそうだな、などと思っていると、ヴァッシュが入ってきた。王女様は、と聞くと、彼女はさも残念と言わんばかりの表情を浮かべた。


「王女様の部屋には、ベッドが一つしかないじゃない。それとも、私と寝るのがイヤになったのかしら?」


「そんなことはないよ」


彼女はゆっくりとベッドに入ってきた。その彼女を俺は少し力を込めて抱きしめた。


「やっぱり、ヴァッシュと一緒にいるのが、一番安心する……」


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