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第三百九十一話 エイビーの町、ふたたび

俺たちはそのまま宿屋を後にした。クレイリーファラーズは朝食が食べられなかったと言ってブーブー言っていたが、起きて来なかったのが悪いのだ。馬車の中でも愚痴っていたが、完全に無視した。


それからまた、別の町で一泊して、俺たちはエイビーの町に着いた。正直言うとここに寄るのは遠回りになる。だが、この町から王都に行く際にはぜひ寄ってくれと言う知らせが届いていたのだ。


「ノスヤ様!」


馬車が町に着くや否や、人々が飛び出すようにして馬車を囲んだ。慌てて馬車から降りると、町長の屋敷に通された。ちょっと心配したが、皆、見事なほどに王女を無視してくれた。とても綺麗な女性なので、一瞬目を向けることはあっても、ただ、それだけだ。王女もこの二日間の旅で慣れたのか、突然机の下に潜り込むなどの行為は一切見られなくなった。それどころか王女はなんだか楽しそうだ。彼女にとっては会う人会う人が初めて見る人種なので、その人々を観察するのが面白いらしい。ときおりニコニコと笑みさえ浮かべる始末だ。


しばらくすると町長のトノロが数人の男たちとやって来た。彼は満面の笑みを浮かべている。


「ようこそ、お待ちしておりました統監様。奥方様もご機嫌麗しく。まずは、これをご覧ください」


トノロが懐から紙包みを取り出して俺たちの前に置いた。中には小さな石のようなものがあるらしいのはわかり、俺はてっきり菓子か何かかと思っていたのだが、包みを開けて見て驚いた。何とそれは金だった。


「ニーロフートリー帯を割ることができました。ノスヤ様の言われた通り、マオサロンの木を岩盤に打ち込んだところ、ゆっくりと、本当にゆっくりとですが割れていきました。お陰様で、数カ所ですが、岩盤の下まで到達することができ、金脈を発見することができました。きっとこのまま進めば、さらに多くの金を得ることができるかと存じます」


「おお、それは……すばらしいですね」


俺も思わず立ち上がってトノロらの手を握る。あとは溶鉱炉を建設できれば、鬼に金棒だ。


ヴァッシュたちも金を見て目を白黒させている。本物だろうかと訝っているようだ。王女も目をキラキラさせて金を触っている。そんな様子をハウオウルとパルテックは優しい笑みを浮かべながら見守っている。……クレイリーファラーズが悪そうな顔をしている。これは、確実に盗もうとしている。だが、さすがはヴァッシュで、金をクレイリーファラーズに渡さずにトノロらに返した。クレイリーファラーズの顔が、怖い。


「いえいえ、ご返却には及びません。この金はノスヤ様に献上します」


ちょっと気が引けたが、ありがたく受け取ることにする。クレイリーファラーズがすかさずパクパクと口を動かした。たぶん、だが、カモン、ナウッ! と言っている。渡すわけないだろう。


俺はその紙包みをヴァッシュに渡した。彼女はそれを押し頂くようにして受け取り、懐の中に入れた。


「あと……ノスヤ様宛の書簡が参っております」


トノロはそう言って一通の書簡を取り出して俺に渡した。差出人はドワーフのサエザルからだった。そこには、ドワーフの里において炎寄せを行った結果、俺が作ったレンガは相当の耐火性が認められ、溶鉱炉に使用が十分に可能であると書かれていた。ついては、自分をはじめとするドワーフ三十人を連れて溶鉱炉建設にあたるので、レンガを三十万個取り急ぎ用意してもらいたいこと、その上で、ドワーフたちの住まいと食事を用意して欲しいと書いてあった。仕事の開始は、この手紙を送った日付から二か月後を目途とすると書かれてあった。


「……ちなみに、この手紙が届いたのは、いつでしょうか」


「ひと月前、いや、ひと月半くらいでしたか」


「ひと月半ん!?」


思わず頓狂な声を上げてしまった。ということは、あと二週間ほどしかないと言うことだ。その間に三十万個のレンガを作らねばならない。ドワーフ三十人の宿泊場所はトノロらに任せるとして、レンガだ。俺の魔力が持つだろうか。二週間ということは十四日、三十万個ということは、一日何個作らなければならないのだろうか。ええと……。


「ご領主」


ハウオウルが何とも言えぬ表情を浮かべながら話しかけてきた。何でしょうと彼に向き直る。


「ドワーフはせっかちな者が多い。二週間と言いながら、一週間は早めに来ると思った方がええな」


「いっ、一週間?」


一日四千五百個のレンガを作らなきゃいけないのか……。たぶん、おそらく、確実にブッ倒れるな……。


ちょっと気が遠くなる。一時間に何個作らなければならないのだろうか。ああ、数学をもっと勉強しておけばよかった。あ、これは数学じゃなくて、算数の問題か。いずれにせよ、もっと勉強しておくべきだった。親が勉強しろと言っていた言葉は、真実だったのだなと妙に感心してしまう。


俺は真っ白になっているが、ヴァッシュと王女は楽しそうだ。溶鉱炉という施設を作って、そこで大量の金を生産するのだと言う説明を聞いて、面白そうだと目を輝かせている。


どうしてもっと早く言ってくれなかったのだとトノロに言ってみるが、統監宛ての書状を開封するわけにはいかなかった、だからこちらに寄ってくれと言ったのだと言われてしまった。


しゃーない。頑張って、レンガを作るか……。

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