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第三百八十七話 正しいか、間違っているか

結局、俺たちはそれからどうすることもできずに、用意された部屋に向かった。提供された食事を摂り、風呂に入ってベッドに向かう。先に風呂を済ませたヴァッシュがボーッと天を仰いでいる。その傍ではワオンが寝息を立てている。


「王女様、これからどうするの?」


「うん……」


何かが違う。と俺もヴァッシュも同じことを考えていた。王女は人の目を異常に気にしているように思えた。部屋から一切出て来られない王女。きっとそれは彼女にとっても本意ではないだろう。その気持ちは俺にもよくわかる。俺も部屋にひきこもっていたが、快適かと言われれば答えは否だ。何とかしたいという思いはあった。でも、どうしていいのかがわからなかったので部屋にひきこもっていたのだ。


これはあくまで俺の予想だが、彼女は自分のことを人が笑っているのではないかと思っている可能性がある。それは俺も同じことを考えていたからだ。部屋から出られなかった俺が、この世界に転生させられて、曲がりなりにも人と触れ合いながらここまで生きて来られたのは、前世の俺を、あの、ひきこもっていた頃の俺を知っている人がいないというのが大きい。


「環境をガラッと変える方がいいかもしれないな」


「どういうこと?」


「ちょっと、冒険してみてもいいんじゃないかと思うんだ」


「どうするのよ」


「そうだな……明日の朝、ハウオウル先生も交えて、一度、相談しようか」


「その前に、私には教えてくれないのかしら?」


「つまりは、王女のことを知らない人たちのところに向かうんだ。貴族の屋敷だと、どれだけ秘密にしたところで、あの方が王女だとバレてしまうだろう。そうならないように、一庶民に身をやつしてもらいながら移動するんだ」


「どうするのよ」


「馬車はまあ、あのままでいいとして、ちょっと変装してもらおうかな。服と髪形を変え、あの爪も切ってもらう。王女様に提案してみるよ」


「……何だか、面白そうね」


「結構重大な任務なんだけれどね」


「わかっているわよ」


そんな会話を交わしていると、いつしか夜は更けていった。


◆ ◆ ◆


翌朝、俺たちは朝食を食べた後、すぐに王女の部屋に向かった。扉を開けると、医師であるドルトムントがベッドの前にいた。彼は俺たちの姿を見ると形式上そうしなければいけないので、仕方がないと言った雰囲気でお辞儀をした。そしてすぐに視線を王女のベッドに向けた。


相変わらずそこはカーテンで覆われていて、中の様子を窺い知ることはできない。そんな王女に向けて、ドルトムントは口を開いた。


「いい加減になされませ王女様。私も職務上、あなた様の体調を診ねばならないのです。我が儘を言わずに、このカーテンをお開け下さい」


相変わらず王女からの反応はない。そんな状況に業を煮やしたのか。ドルトムントの声が大きくなる。


「いい加減になさいませ! あなた様には我がリリレイス王国の未来がかかっておるのです。あなた様には男の子を、次期皇帝を生まねばならない義務があるのです。そんなあなた様が、このような生活をなさっていていいわけがありません。体を清潔にして病から身を守らねばならないのです。しっかりと食事を摂って体力を向上させねばなりません。それもこれも、男子を、次期皇帝を生むために必要なことです。今のあなた様では、王子を生むどころか、お子を授かることさえできないでしょう。さあ、我が儘を言わずに、私の言うことをお聞きください」


「待て」


思わず声が出てしまった。ドルトムントはジロリと俺を睨みつけた。お前は黙っていろと言わんばかりの顔だったが、俺は止まらなかった。


「さすがにそれは言い過ぎです。そんなことを言うのは止めてください」


「私の何が間違っているのですか。私は正しいことを申したまでです」


「正しい、間違っているの問題ではありません。王女様に、そのようなことを言うのは止めてください」


「仰る言葉の意味がわかりかねます。私は、王女様のためを思い、ひいては、リリレイス王国の将来のために申し上げているのです」


「その気持ちはわかりますが、それでも、王女様にそうしたこと言うのはやめていただきます」


「私は、医師です。私は王女様の健康、ひいては、リリレイス王国の未来を守る使命があります」


「……どうあっても、今のような話を止める気はない、と?」


「王女様が、私の言うことを聞いてくれるまで、私は何度も申し上げます」


「わかりました」


「ご理解いただけて、何よりでございます」


「今からあなたを王都へ強制送還します」


「は?」


「あなたに、王都への帰還を命じます」


「どういう意味でしょうか」


「聞いての通り、王都へお帰り下さい」


「お気は確かですか統監様。私は医師です。王女様の健康を守る責務を担っております。私がおらねば、王女様の健康は維持できません」


「そうとも思えません」


「何ですって?」


「あなたがいることでむしろ、王女様に悪影響を与える、ひいては健康を害することになると判断しました。そのため、あなたを王都に強制的に送還します」


「私は……」


「私は、兄シーズから、この度における全権を与えられています」


「クッ……」


ドルトムントの顔が歪んだ。

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