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第三百八十五話 秘匿せよ

瞬く間に、王女の出発の日がやってきた。その間、アルマイトさんの許に行ってワオンの体調を見てもらったり、王都で必要なものを買いそろえたりしていたのだが、本当に、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。


クレイリーファラーズは、まあ、お察しの通りだ。ちなみに、内緒だが、彼女は少し太った。服がキツキツになっている。本人は全力で否定して、ただ、服が縮んだだけと言っているが、明らかに太っている。そりゃ、あれだけ食べればそうなるよと思うのだが、その詳細については割愛する。大体、想像の通りで合っていると思う。


王女の出立は、なかなか変わったものだった。本来は俺たちが王宮に赴いて迎えに上がるのが筋だが、それは王女側から拒否された。俺たちはシーズの屋敷で待つように言われ、出発の準備を万端に整えて待っているところだった。どうやら、王女のラッツ村行きは秘匿されているようで、彼女は裏口からひそかに出発するのだそうだ。


朝から準備を整えて待っているが、待てど暮らせど到着の知らせはない。かれこれ三時間近くも待っている。もうすぐ昼になる。ちょっとお腹がすいてきた。


だが、ヴァッシュらは一切表情を崩さぬまま静かに待っている。会話を交わすこともあるが、いつものように盛り上がることはない。一言二言を交わすとあとは沈黙するという状態だ。


あ、一人だけ雰囲気が違う者がいた。クレイリーだ。イライラしている。察するところお腹がすいたのだろうが、これはもう、放っておくことにする。


そのとき、突然部屋の扉が開いた。ノックもなくいきなりだ。驚いて視線を向けると。何とそこにはシーズが立っていた。


「出立しろ」


彼は出し抜けにそう言った。


……言い方ってものがあるだろう、と俺は心の中で呟く。王女が到着されたので出立の準備をするのだ、とか何とか、言い方があるはずだ。ノックもせずに入ってきていきなり出立しろというのは、いくら何でも乱暴すぎる。


そんな俺の気持ちなど知ったことはないと言わんばかりに、シーズはスタスタと俺たちの前を歩いている。相変わらず歩くのが早い。ハウオウルやパルテックが付いてこられないだろうと思いながら後ろを振り返ると、二人ともちゃんと付いて来ている。ああそうか、確か、マジックアイテムを装備していると言っていたっけな。クレイリーが少し遅れているが、まあ、リカバリーできるだろう。


玄関のホールを出ると、そこには四台の馬車が止まっていた。二台は俺たちのものだ。もう一台は王女のものだろう。あと一台は……?


その一台の前には、何やら厳めしそうな面付きの男が立っていた。立派な髭を生やして、いかにも偉そうと言った雰囲気だ。その男はシーズを見るや、スッと腰を折ったが、あまり彼にはいい感情を抱いていないのはよくわかった。


シーズは足を止めると俺たちに振り返り、これまた出し抜けに口を開いた。


「ノスヤ、すぐに出発してもらいたい。できるだけ人の目に触れるのを避けたいのだ」


「は……はい」


「ああ、紹介しておく。侍医のドルムントだ」


紹介されたドルムントは、俺たちにちょっとだけ頭を下げた。


「今回の旅に関しては、ノスヤ、お前に全権を委任する。お前がすべての責任をもってこの旅を取り仕切れ。以上だ」


シーズはそう言うと俺たちを見たまま数歩後ろに下がった。


「出発しましょう」


ヴァッシュが小さな声で呟く。その声に促されるようにして俺は馬車に乗り込んだ。


◆ ◆ ◆


「……ずいぶん待たせるなと思いきや、慌ただしい出発になったな」


俺は誰に言うともなく呟く。そんな俺にヴァッシュが真っすぐな視線を向けてきた。


「シーズ様が言っていたでしょ。人の目に触れたくないと。おそらく、王女様の行啓に関しては秘密にしたいのでしょうね」


「何のために?」


「それは、外に出られるとわかったら、王女様の立場が悪くなるからじゃない?」


……確かにそうだ。外に出られると思われて色々引っ張り出されるようなことになれば、ヘタすれば自ら命を断ちかねない。なるほど、さすがはシーズだなと妙に感心してしまう。


「……そう言えば護衛が付いていないように見えたけれど、それもつまり、できるだけ秘密にしておきたいから、か」


「そう言うことになるわ。そういう意味では、私たちが負う責任は重大だわ」


「確かに、な」


改めてえらいことになったなとは思うが、もう、引き返すことはできない。ここはひとつ、腹をくくるしかない。


馬車は思った以上の速さで王都を出た。いつもは渋滞するなどするのだが、この日はそうしたことが一切なかった。


車窓に映る景色を眺めながら、俺は一抹の不安を感じていた。問題となるのは宿だ。王女を泊めるだけでも大変なのに、あの王女の纏うニオイだ。あれはさすがに宿の主人もイヤがるのではないか。もし、宿泊を拒否された場合はどうしようか。野宿という手もないわけではないが……。


そんなことをあれこれ考えていると、車窓の風景が変わってきた。ポツポツと人家が見えてきた。どうやら、本日の宿泊予定の町に到着したようだ……。

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