表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
382/396

第三百八十二話 行きたくないけど行かねばならない

父上……。正直、ノスヤの父親の記憶はない。ただ、ヴァッシュの気持ちもわかる。彼女は俺の妻として、舅に挨拶をしたいのだ。というより、それが礼儀だと思っているのだ。


前回、ニタクの許を訪れた際、彼女は父親が不在である点を訝しんだ。だが、敢えてそれは聞かなかったらしい。当主が不在というのはそれなりの理由があるはずで、大抵は病気か、罪を犯して追放されているかのどちらかであるのだそうだ。彼女は彼女なりに、ユーティン子爵家の当主がどうしているのかを調べたらしい。それで、父が税を納められずに蟄居させられているのを知ったのだそうだ。


ただ、シーズは父には会うなと言っていた。俺も、あのニタクの父ならば相当の人物……。つまりは、かなり上級者向けの人物とみている。そんな男と対峙する気力は持ち合わせていないし、何より、あのニタクともう一度会いたいとは思わないのだ。会えば会ったで、色々とイヤミを言われるだろうし、無心もされるだろう。まともな精神状態で帰って来られる自信が、俺にはなかった。


「わかった。ただ、王女様の件もあるから……ちょっと考えさせてくれ」


俺はそう言うのが精いっぱいだった。


色々と考えてみた結果、取り敢えずクレイリーファラーズに相談してみることにした。彼女ならば父のことをある程度は知っているだろうし、最悪、彼女を伴って屋敷に乗り込み、何か不都合なことがあったときには、天巫女の能力でその場を収めてもらおうと考えたのだ。


俺はキッチンに向かい、そこでポテトフライを山と作った。そして、それをもって彼女の部屋を訪ねた。


「……」


ありがとうの一言もなく、この天巫女は無表情のままポテトフライを口の中に放り込む。食べるスピードが異常に早い。それに見事な食べっぷりだ。鷲掴みにして、そのまま口の中に放り込むというスタイルだ。俺の話など、心ここにあらずの状態だ。何だか、喋るのが面倒くさくなってきたし、せっかく作ったポテトフライが無駄に思えてならなかった。


「……というわけなんです」


「……ゲフッ」


まさかゲップで返事を返されるとは思わなかった。俺は自分でもわかるくらいに、不快感を表情に出した。


「……どうしても会いたいというのであれば止めませんけれど、あまりお勧めはしませんね」


「……やっぱり?」


「ちょっと想像すればわかると思いますけれど、あのニタクの父親です。あのニタクを育てた親なのですから、あのニタクより強力ということです」


「そのくらいは俺にだってわかりますよ」


「まあ、救いがあるとすれば、今のあなたは侯爵、父親は子爵というところです。子爵と侯爵ではずいぶん差がありますし、基本的に、子爵が侯爵に偉そうな口を利くというのはあり得ないことです。それに何より、あなたの後見はあのシーズですから。普通だったら向こうから挨拶に来なければならないです。ただ、今この時までなにも音沙汰がないということは、向こうはあなたが挨拶に来て当然と思っているのでしょう」


「ということは、イヤミを言われて無心されるのは確定、か……」


「まあ、マウントを取りに来るのは確実ですよね。その上で、毎月幾ばくかの仕送りをしろ、くらいは言ってくるでしょうね」


「……面倒くせぇな」


「でしょ? だから止めた方がいいですよ」


「ただなぁ。ヴァッシュの気持ちを考えると……なぁ」


「じゃああのブサイクを連れて行くと同時に、ジジイとババアも連れて行って、何かヤバイ流れになるのであれば、あのジジイに何とかしてもらえばいいんじゃないですか?」


「……ヴァッシュに謝れ。あんなにキレイでかわいい女性はそうはいないわ。それに、どうしてあなたは行かないのです? あなたは確か、ユーティン家の家庭教師だったはずでしょ?」


「……つまんないことを覚えているんですね」


「いや、それが今までの基本路線だろうが」


「まあ、一緒に行ってくださいと頭を下げて頼むのなら、考えてやらないこともないこともないこともないですよ」


「オメーも来るんだよ。でなきゃ、辻褄が合わないだろうが」


そう言って俺は席を立って、彼女の部屋を出た。そして、その足でハウオウルの部屋に向かう。


「フ~ム。まあ、奥方の気持ちもわからんではないし、それが当然と言われれば当然のことじゃ。まあ、儂でよければ付き合いますぞい」


「そうですか。ありがとうございます」


ハウオウル先生が一緒に来てくれるのはありがたい。その後二人で話し合い、一応、表向きは先生とパルテックは俺の家来ということにして、何か無茶な要求を突き付けられたら、そのときは間に入るということになった。


「ご領主は今や侯爵というお立場じゃ。たとえ父とはいえ、子爵が侯爵に大きな口を利くことは許されん。まあ、子が父の爵位を超えることは珍しいが、事例がないことはない。そうした場合はまず、爵位の上下が優先される。お父上もそれを知らぬはずはない。まあ、さらっと挨拶だけをしてそのまま帰ってくればええ。心配には及ばん」


その言葉で俺はようやくホッと安心することができた。


そして、翌日、俺たちは父がいるニタクの屋敷に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] クレイジーさんには食い気しかないのか? まあ、無いだろうな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ