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第三百七十六話 反省しきり

俺とクレイリーファラーズは一言も言葉を交わすことなく後宮を出た。俺たちがドアから出ると、すぐに扉が閉められた。お前たちは邪魔だから金輪際ここに来るなと言わんばかりの扱いだ。


扉の前には、上品そうな女性が控えていて、ご案内しますと言って廊下を歩いて行く。俺たちは黙って彼女に付いて行った。


案内された先は、いわゆる車寄せと呼ばれる場所だった。つまりはこの王宮の出口で、そこには馬車が停まっていた。要するに、お役御免というわけだ。


馬車に乗り込むと、疲れが一気に押し寄せてきた。


「よかったですね」


不意にクレイリーファラーズが口を開く。何がよかったんだと聞きたかったが、あまりにも疲れていたため、彼女に視線を向けることで感情を伝える。


「お姫様に会えたじゃないですか。どうですか、話をされて。うまく進むといいですね」


……コイツは何を言っているんだ。さっきの様子を見ていただろうに。彼女の心を掻きまわしただけで終わってしまったじゃないか。俺は反省しているんだ。


「まあ、あの女の人には嫌われちゃいましたけれどね」


「……」


そりゃ嫌われるだろう。見せたくない場所に土足で踏み込んだのだから。まあ、もう二度と会う可能性はないだろうが、シーズを通じてクレームを入れる可能性はある。そうなったらそうなったで、ひたすら謝るしかない。ただ、シーズのことだ。長いお説教になるだろうけれど。


クレイリーファラーズは、満足そうな表情を浮かべている。あの光景を見てどうしてそんな表情ができるのか、俺には全く理解できないが、相手にする気力が残っていなかったので、この天巫女から視線を逸らせて、窓の外ばかり見ていた。


程なくして馬車はシーズの屋敷に着いた。扉がひとりでに開いたかと思うと、おかえりなさいませという声が聞こえてきた。どうやら、執事さんが開けてくれたらしい。その声に促されるようにして俺は馬車を降りた。


「きゅ~」


部屋に帰ってくると、ワオンが我先に俺に飛びかかってきた。彼女を抱きしめて、ようやく心が落ち着いた。


「どうだったの? 大丈夫だった?」


ヴァッシュが出迎えてくれる。心配そうな表情だ。俺は大丈夫だと短く答えて、目の前にあるソファーに寝転がった。ハウオウルやパルテックの姿も見える。


「お城では、何を聞かれたの?」


「東宮殿下とどんなやり取りをしたのか、というのを中心に聞かれたよ。どうやら、あの方が本当に帝位に就く意思があるのかどうかを確認したかったらしい」


「それで、何か命令は下されたの?」


「特に何もないよ。俺は聞かれたことを答えたら、部屋から下がるように言われただけさ」


「……王女様には、会ったの?」


「会った……と言えるのかな。部屋に入ることはできたんだけれど、王女様自身はベッドの下に隠れちゃって、その姿は見ていないんだ。髪の毛だけかな、見られたのは」


「……ベッドの、下?」


ヴァッシュが怪訝そうな表情を浮かべる。確かに、王女がそんなところに入るなんて、考えられないよね。


「本当に俺に会いたくなかったらしい。お付の女官さんも冷たい対応をされたよ。ただでも、伝えたいことだけは伝えたから、まあ、俺としてはよかったものの……。やっぱりね、人の触れられたくない部分に土足で踏み込んでしまった感は否めない。少し、反省している」


「……まあ、起こってしまったことは仕方がないわ。あとは、なるようにしかならないし、なったらなったで、そのときに考えればいいのよ」


「……そうだな、ありがとう」


ヴァッシュと会話をしていると、精神的な疲れが、まるで溶けるようになくなっていくような感覚を覚える。本当に、彼女が側にいてくれてよかったと、心から感謝する。


「今日はゆっくり休みましょう。そして、明日、これからの予定を考えましょう」


そう言って彼女は周囲に向かって頷いた。ハウオウルもパルテックも、笑顔で頷いた。


俺は食事もそこそこに、早めにベッドに入った。俺の様子のためか、皆の食事も少し遠慮がちだった。そこも少し反省している。あ、クレイリーファラーズだけは、がっつりと食事をしていて、お代わりまで要求していたのだが。


シーズは帰ってきた気配がなかった。いや、きっと帰って来ていないのだろう。帰ってきたら来たで、俺を呼び出すはずだ。


ベッドに入ると、ヴァッシュが抱きついてきた。と同時に、いつもは部屋の隅で寝ているワオンまでが俺の隣にやって来た。そんなに俺の顔がひどかったのだろうかと、ここでも少し反省した。結局その夜は、俺、ヴァッシュ、ワオンと三人川の字になって眠りに落ちた。


翌朝は早くに目が覚めた。隣を見ると、ヴァッシュもワオンも静かに寝息を立てていた。二人を起こさないように静かにベッドから降りて、備えてあったグラスに水を注いて一気に飲み干す。もうひと眠りしてもいいが、何だか目が冴えてしまっている。まあ、誰もいるわけはないのだが、取り敢えず応接室に向かうと、そこには人影があった。


「やあ、ノスヤ。私が座ったとたんにやって来るとは、お前もなかなかカンが掴めてきたな」


……何でシーズがここに居るんだ?

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