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第三百七十一話 わからねぇよ!

俺の戸惑いをよそに、シーズは相変わらず不気味な笑みを浮かべ続けている。


「何なら、今すぐ行くか?」


「は?」


今すぐ? コイツは何を考えているのだろうか。一人でテンションが上がっているので、俺の顔色など眼中にないらしい。


「いっ、いや……さすがに、今からは……。準備などがありますので……」


「準備? 何だ、芸でも披露するつもりなのか?」


……アホか、という言葉を必死で飲み込む。なんでそんな考え方になるのだ?


「いっ、いや……そういうわけではないのですが……。ハウオウル先生らもお疲れでしょうし、やはり、王女様の許に行くのは、後日改めての方が……」


「ふぅ~ん。まあいい。ただし、お前も知っての通り、後宮は男子禁制だ。そこを無理を押してお前を送り込むのだ。私が言いたいことは、わかるな?」


「つまりは、後宮に入ることができるのは、俺一人……」


「そういうことになる。そうなれば、王宮にはお前ひとりで行かねばならない。考えてもみろ、ご老人たちは後宮に入ることができないのだ。お前が戻ってくるまでどこかで待つ、と考えているのかもしれないが、関係のない者たちを入れるほど王宮は優しい場所ではない」


「ううっ」


「それに、だ。私はこれから王宮に向かう。そのついでにお前も一緒に連れて行こうと思ったのだがね」


「ええっ?」


……それはイヤです、という言葉を飲み込む。マジで俺一人しか入れないらしい。せめてヴァッシュだけでも、とは思ったが、この雰囲気では拒否されるのが関の山のようだ。クレイリーファラーズに視線を向けるが、彼女は俺から視線を外した。行く気はないようだ。


「ああ、そこの奴隷ならば連れて行って構わない」


「はへぇ?」


思わず奇声を発してしまった。ヴァッシュはダメで、このポンコツ天巫女はいいという基準がよくわからない。クレイリーファラーズも目を丸くして驚いている。どうやら、天巫女の力を使ったわけではなさそうだ。


「人間じゃないからね。お前のペットならば問題ない。むろん、お前の仔竜も問題ない」


「……」


人間として見ていない、という点に衝撃を受ける。まあ、一人で行くよりは、マシだが、ワオンはどうしようか。さすがに連れて行くのは気が引ける。


「ちょうど、お前の奴隷も一緒にいるのだ。これから王宮へ行こうじゃないか」


……圧力が凄まじい。クレイリーファラーズに視線を向けるが、彼女は小さく首を左右に振った。その気持ちはよくわかる。だが、シーズはそんな俺たちの気持ちなど知ったことではないと言わんばかりに、馬車を用意しろと命じた。どうあってもこの男は、自分のペースを押し通すつもりらしい。


程なくして、シーズの従者が入室してきて、ご準備ができましたと報告する。この一連の流れを見ていると、ヤツは俺がこの屋敷に到着したらすぐさま王宮に連れて行くつもりだったようだ。


「さあ、行こうじゃないか」


シーズは立ち上がりながら促してきた。もう、ここに至ってはどうなるものでもないので、仕方なく立ち上がる。クレイリーファラーズは……面倒くさそうに立ち上がった。


シーズはずんずん玄関に向かって歩いて行く。せめて、ヴァッシュやハウオウルに王宮に行くと伝えたかったが、それすら許されない雰囲気だ。そのときふと、後ろから付いて来ているクレイリーファラーズが口を開いた。


「こうなっては仕方がないですね。久しぶりに、ゴールデンコンビ復活でやるしかありませんね」


……ゴールデンコンビって何やねん。いつから俺たちはそんな間柄になったのだ。それに、復活って、俺はこの天巫女とコンビを組んだ覚えは一切ないのだが。


そんなことを考えていると、すぐに玄関に着いてしまった。目の前には豪華な装飾が施された馬車が停まっていた。俺は黙ってシーズの後に続いて馬車に乗り込み、彼の前に腰を掛けた。そしてクレイリーファラーズも乗り込んできて、俺の隣に座った。


「実はこれから、私は会議に出席することになっている。ノスヤ、お前も一緒に参加するといい」


「えっ? 王女様は?」


「そんなことはどうでもいい話だ」


「どうでもいいって……」


「別に会いに行きたければ会いに行くといい。おそらく王女様は会いはしないだろう。それよりも、重要なのは本日の会議なのだ。この会議は、宰相様をはじめとした、各機関の責任者が集う会議、言わば最高幹部会議なのだ。そこでお前を全員の前で紹介する。お前は、先ほど私に話をしたインダークの東宮の件を話すのだ」


「……それって、何の意味が?」


「わからないのか。相変わらず察しが悪いな。インダークの動向は、宰相様をはじめとした幹部たちが最も注意を払っている事案だ。それを皆の前で披露するのだ。私の言っている意味が、わかるな?」


……正直、わからない。シーズがなぜ、これだけテンションが上がっているのかも俺にはよくわからない。宰相様たちはインダークの動向を注視していることは理解できる。彼らがどこまで情報を掴んでいるのかは知らないが、東宮殿下は皇帝の退位をほのめかしていた。その点を聞きたいのだろうか。そして、シーズは俺を上手く使ってその情報を仕入れたことで、さらに自分の手柄を喧伝したいのだろうか。つまりは俺は、政治的に利用されるということか。


『うわぁ、面倒くせぇな。あの連中と顔を合わせるのかよ。勘弁してください……』


クレイリーファラーズが俺の頭の中に話しかけてきた。ちょっとなに? あの連中って。ああ……お腹が痛くなってきた……。

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