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第三百七十話  なんかズレてない?

皆が退室してしまうと、部屋が一気に物寂しくなった。何となく、ガランとした雰囲気で、ちょっと気温も下がったようにすら感じる。


「どうしたのだ。いきなり藪から棒にそんな話をするなんて」


シーズは微笑を湛えたまま俺に視線を向けている。クレイリーファラーズは……まだいる。特にこちらの話を聞いている風でもなく、心ここにあらずと言った感じで座っている。シーズもそんな彼女を咎めることをしない。まるで、空気のような扱いだ。


「いっ、いや、その……。力になれないかなと……」


「力? お前が王女をどうにかできるとでもいうのか?」


「いや、別に、どうにかしてやれるかどうかまではわかりませんが、その……話は聞いてあげられるのではないかと思ったので……」


「話を聞く? 部屋から一歩も出てこない王女とどう話をするのだ。それに、お前は男だ。男性は後宮には入ることはできない」


「あっ、そ、そう、です、か」


「一体どういう風の吹き回しだ?」


シーズの顔から笑みが消えている。これは……アカンやつだ。何か、シーズの逆鱗に触れたらしい。王女のことはそこまでタブーのことだったのだろうか。


「ノスヤお前、インダークの東宮から何を吹き込まれた? 何をして来いと命じられたのだ」


「えっ? あの……いや……その……」


「隠さなくてもいい。私にはわかる。大体お前が王女のことなどに興味を持ったり、首を突っ込んだりする男か。そんなお前が突然王女のことを聞きだした。それはつまり、インダークの東宮から何かを吹き込まれた以外に考えられない。一体、何を言われた。正直に言え。私を怒らせるな」


……怖い。何なのだろうか、この威圧感は。そんなに怒ることはないじゃないか。わかったよ。言いますよ。正直に言えばいいんだろうが。


俺はそんなことを心の中で呟きながら、東宮殿下との会話を正直にシーズに話した。


「……本当にそれだけか?」


「本当にそれだけです」


「本当にそれだけです」


さっきまで心ここにあらずの状態だったクレイリーファラーズが何故か返答している。黙っていなさいよ、と思ったが、シーズは反応を示さない。どうしたのだろうか、クレイリーファラーズのことが嫌いになったのだろうか。そのシーズは俺から視線を外して、何か考え事をしている。この無言の間が何とも居心地が悪い。


「……単なる戯言と解釈できなくもないが、インダーク帝国としては、我が国の内情も把握しておきたいところだろう。まあ、いい。あとのことは、私に任せておくといい」


シーズはそう言って再び不気味な笑みを浮かべた。


「あの……国王陛下がお亡くなりになったというのは……」


「うん? 別に敢えてお前の口から言うこともないだろう。確かに公には発表していないが、そんなものは公然の秘密であって、他国の者たちはすでに知っていることだ」


「……あの、公表しないのは?」


「王女があんな状態では、公表できるものもできないだろう。まあ、大体国王や皇帝が見罷ると一定期間はその死を秘匿するものだ。……なるほど、そういうことか」


シーズはニヤリと笑った。一定期間秘匿すると言うが、長すぎるだろう。少なくとも数年間は秘密にしている。それにしても、どうしてコイツはこんなイヤな笑い方をするのかね。


「インダークの東宮は、王女に関心があると見える。確かに以前、デュアル王女との婚儀を提案したことがあったが、そのことを心配しているのだろう」


「婚儀、ですか?」


「ああそうだ。向こうの宰相であるニウロ・アマダと宰相様とが平和条約をお前の屋敷で調印したことは覚えているだろう? そのあと、宰相様からお二人の婚儀について打診したことがあるのだよ。もっとも、インダークからは何の返答もなかったがね。まあ、部屋から出られない王女を無理やり嫁がせるわけにもいかないし、形だけの婚儀でも結べればと思ったのだけれど、そう上手くはいかなかった。東宮はそのことを心配しているらしい。今度会ったら言っておけ、王女は息災であられる、と」


そう言ってシーズは満足そうに頷く。何だか、大変な勘違いをしているような気がするのは俺だけだろうか。あの東宮殿下の振る舞いは、どう考えても、何かを考えて行動しているようには見えなかった。少なくとも俺には、思ったことをそのまま口にしているだけで、悪意や策略などというものはないと俺は感じている。まあ、あれが芝居でできているのであれば、相当な名優であるし、東宮などをやるよりも役者としてデビューする方が遥かに世のためになる。


まあ、シーズはこういう性格だ。猜疑心が強い男だ。こういう見方もあるのだなと参考にさせてもらうことにしよう。


と、そんなことを考えていると、シーズがガバッと俺に視線を向けた。


「せっかくだ、ノスヤ。お前、王女の許に行ってみろ。お前のことだ。もしかすると、何かが変わるかもしれない。後宮には、私から話を付けておいてやる」


……男は後宮に入られないのと、違うのかい?

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