表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
369/396

第三百六十九話 教えて欲しいこと

俺の混乱をよそに、シーズは突然笑い声を上げ始めた。


「ハッハッハッハッハ! 父上は毎日兄上を怒鳴り散らしているそうだ。弟たちに先を越されるとはどういうことだと。大体、ニタク兄にそんな才覚は微塵もないことは、父上が一番よく知っておいでだろうに」


一体何が可笑しいのか、俺には全くわからない。ただ、シーズもあのニタクが嫌いなんだなということだけはよくわかった。


「シーズ殿、一体全体、我々には何が何だかわかりませんぞい」


ハウオウルが助け舟を出してくれる。俺も同じ気持ちだったのだ。


シーズは真顔になると、さも、申し訳ないと言った表情になり、落ち着いて話し始めた。


「そうですね。ご老人には知らないことでしょう。我が父タクオは、数年前に発生した大飢饉の際、税を納められなかった廉で強制隠居となり、アラマに蟄居となりました。ノスヤ、お前の村に難民を受け入れてもらった、あのときだ」


「あー」


懐かしい話だ。確か、そのときが初めてこのシーズと対面したのだった。収穫した農作物を全部寄こせと言ってきたのだった。あのときも、ハウオウル先生に助けてもらったのだ。


聞けば、父親のタクオは王に納める税を納めきれなかったらしい。こういうことは、貴族としては恥とされる行為で、実際、タクオは俺にさらなる徴税を科そうとしたらしい。ただ、その前にシーズが勅命をもってラッツ村に向かい、表向きは、村の作物を根こそぎ奪ってしまった。進退窮まった父・タクオは家の宝を売って税を納めようとしたが、とても足りなかったらしい。そして彼は捕らえられて、先ほどの処分を食らったというわけだ。


シーズ曰く、彼が自らラッツ村を訪れたのは、俺を助けるためだったのだそうだ。父・タクオの使者がやってくれば、それこそ根こそぎの徴収が行われたという。それを、一年分の収穫物で納めたのだと彼は言うが、それは確か、ハウオウル先生との話し合いでそう決まったのではないかと記憶しているが……。そんなことを言った日には、色々とややこしいことになりそうなので、今は黙っておくことにする。


「……その父は、私とノスヤに爵位を抜かれたことがよほどショックだったらしい。その憂さを兄で晴らしているというわけです」


「……せっかくお父上がご赦免になったのじゃ。息子として、お祝いの一つも言上するべきじゃとは思うがの?」


「ハッハッハ。ご老人も面白いことを言われるのですね。私もノスヤも今は侯爵という身分です。侯爵がわざわざ子爵家に赴いて祝いを述べるなど、あってはならぬことだと思いますが……。インダーク帝国ではいかがですか?」


シーズの視線がヴァッシュに向けられた。彼女はじっと、真っすぐな視線をシーズに向ける。


「確かに、帝国では侯爵が子爵の家に出向いて挨拶をする、という風習はないわ。本来なら、子爵が侯爵のお屋敷に出向くというのが筋だわ。でも、私だったら、屋敷に呼んで喜びを分かち合うわ」


「……なるほど。自分の屋敷に呼ぶ、か。ノスヤ、お前はどう思う? あの父上と兄が、ここにやってくると思うかい?」


「いっ……いえ……」


「来るわけがない。来られやしないよ。そもそも、そんな誘いをすること自体、あの二人にとっては、屈辱以外の何物でもないはずだ」


シーズはそこまで言うと、スッと姿勢を正した。


「まあ、ノスヤ。お前が父上に礼を尽くすかどうかは勝手にするといい。よかったら、ラッツ村に招待してやってはどうだ? お前の招待なら、父上もやってくるかもしれないよ」


そう言ってシーズは再びクックックと笑った。


俺はこの様子を見ながら、タクオという父親に会うのはよそうと考えていた。あのニタク兄も相当の意地悪な男だ。その上をいくのだから、これは俺などひとひねりにされてしまうだろう。そんなことは、マジで御免だ。


「まあ、せっかく王都まで来たのだ。ゆっくりしていくといい。家の者も、お前が来るのを待ちかねていたようだ」


そう言ってシーズは笑みを浮かべた。相変わらず不気味な笑顔だ。


「あの……ひとつ、教えてもらいたいことが、あるのですが……」


「何だ」


「あの……国王様の、ことです」


「なに?」


シーズの雰囲気が変わった。ちょっとビビったが、俺はさらに言葉を続ける。


「国王様はすでに他界されていて、その上、その王女様は自室でひきこもっていると聞きましたが……」


「すまないが、遠慮してもらえないだろうか」


シーズが突然、ヴァッシュに視線を向けた。笑みを浮かべているが、今までのそれとは全く別物だった。


その圧力に押されるようにしてヴァッシュが席を立ち、スッと一礼して、スタスタと部屋を後にして行った。それに続くように、ハウオウルとパルテックが部屋を出て行った。パルテックに抱かれているワオンが心配そうな表情をずっと俺に向け続けていた。


で、クレイリーファラーズは……呆然と座ったままだ。え? 私、どうしたらいいのよと言わんばかりの顔だ。いや、あなたはここに居なさいよ。心細いでしょうが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ