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第三百六十八話 想定の範囲内?

それからは案の定、シーズからの質問攻めが始まった。コンスタン将軍のこと、屋敷の内部のことまで事細かく聞かれた。調度品がインダーク製のものかどうかなどと、知ってどうするような事柄まで聞かれたのだ。


ヴァッシュは一切表情を変えずに俺とシーズのやり取りを聞いていた。そして、折に触れて俺に替わって答えてくれるなどして、助けてくれたのだ。彼女にとってみれば、自分の両親のこと、育った家のことを根掘り葉掘り聞かれたので、決して気分はよくなかっただろう。にもかかわらず、そうした雰囲気を一切出さずに淡々と対応したのは、さすがだと言える。


「なるほど。それでは東宮が本気で帝位に就くつもりだな」


粗方話を聞き終わるとシーズは、そう言って天を仰いだ。何か、迷っているのだろうか。この男がこのようは姿を見せるのは珍しい。


「独裁にならねばいいがな」


シーズは誰に言うともなく呟いた。そのとき、ヴァッシュが口を開いた。


「お父様がいるわ」


シーズはゆっくりとヴァッシュに視線を向けると、その通りだと言わんばかりに大きく頷いた。


「ただ、あなたのお父上がお亡くなりになった後は、どうかな?」


部屋がシンと静まり返る。さすがに見かねたのか、ハウオウルが口を開いた。


「まあ、そんなことは今、考えんでもええじゃろう。それとも、あの殿下が帝位を継がれると、困ったことになるのかの?」


「困ったことにはなりません。我が国とインダークの同盟関係は盤石です。東宮が帝位を継承したところで、我が国は何の被害も受けません。私が心配しているのはむしろ、インダーク帝国内部のことですよ」


「インダーク帝国内部のこと、かの?」


「ええ。これは推測の域を出ませんが、東宮は父である皇帝に直接退位を迫り、そのまま帝位に就くつもりでしょう。まあ、話しが早くていいのですが、家来たちとなるとそうはいかないでしょう。これまで父帝に仕えてきた者たちをそのまま横滑りで登用するとは考えにくい……。新帝は新帝の考えがあることでしょう。誰をどの役職に任命するのかは知りませんが、今のノスヤの話を聞く限り、細心の注意を払って計画的にコトを進めているようには見えない。帝位を奪いに行くのであれば、継承後を見据えて、それなりの者を味方につけておいて、遅滞なく権力を継承していくことが大切ですが、そうではなさそうだ。東宮が思いのままの政治をするという形になれば当然、反発する者が出てくるのは必定……」


「だから、コンスタン将軍が付いておられるのではないのか?」


「その将軍は積極的に東宮に力を貸すとお思いですか?」


「それは……」


「私の見立では、将軍は仕方なく東宮のわがままを聞いているだけに過ぎない。これがもっとコトが進んでくると、将軍としても関わり方を考えるのではないでしょうか。どう思う、ノスヤ?」


いきなり俺に話を振られてしまったので、言葉に詰まる。さあ、どうでしょうかと小さな声で言うのが精いっぱいだ。


「我々としてはインダーク帝国内で反乱が起こることが最も懸念する事柄です。東宮が無事に鎮圧してくれればいいのですが、もしそれが、逆の結果となったときは、我々も対処を考えねばなりませんから」


「シーズ殿、お前さんは、それはどのくらいの確率で起こると予想しておいでなのかな?」


「それなりに高いと見ています。だからこそ、このノスヤには、東宮との連絡役と監視役を担ってもらおうと思っています」


「ええっ?」


「重要な任務だ。しっかりやれ。ヘマをするな」


……正直言ってやりたくはないです、という言葉を飲み込む。そう言ったところで、シーズは考え方を変えないだろうし、イヤだと言ったところで、わかりましたというまで鬼詰めされるのがわかっているからだ。まあ、これはある程度想像していたことなので、想定の範囲内っちゃ想定の範囲内だ。


「……一応、殿下がお見えになられたときは、そのときのことを報告します」


「うん、そうだな。それだけではない。できるだけ、東宮をお前の屋敷に足が向くように仕向けることも忘れるな。それと、可能であればソフィア王女も娶れるのならば娶ってしまえ」


「もし、差し支えなければ、そちら様とご結婚いただければ……」


「そちら様、と言うと?」


俺はスッと両手をシーズに差し出す。意味を察したのか、彼の顔がみるみる赤く染まっている。


「ばっ、バカなことを……。つっ、つまらないことを、言うな」


……何を照れる必要があるんだ? やっぱり、俺にはこの男のことはよくわからない。そんな俺の心境を察してか、シーズはオホンと咳払いをすると、スッと姿勢を正した。


「ああそうだ。お前に一つ報告がある。父上が屋敷に戻られたぞ」


「ち……父上?」


「ああそうだ。屋敷に戻られてニタクの兄貴を怒鳴り散らしているらしい」


「ええと……」


「私とお前の昇爵で恩赦が発令されたのだ。蟄居先のアラマから戻られている」


そう言えば、このノスヤの父親というのは会ったことがなかった。前回はニタクしか居なかった。蟄居って言った? 何か犯罪的なものをやらかしたのだろうか。何だかまた、厄介なことに巻き込まれそうだ。お腹が痛くなってきた……。

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