第三百六十三話 類は友を呼ぶ
「へぇ……ここが君の屋敷かい? 意外と小さいんだねぇ」
屋敷に着くなり東宮殿下は、キョロキョロと辺りを見回した。とりあえず座って下さいと椅子を勧めるが、彼は上機嫌の様子でダイニングやキッチンを見廻している。この調子では、俺たちの寝室にも踏み込んできかねない。何となく、そこに彼が入って来るのは、イヤな感じだ。
「にゅ~」
ワオンが俺の腕の中で鳴き声を上げている。一体何なんだこの男は、と言っているのだろう。
「ところで、あの神木を見たいのだけれども」
「その扉……勝手口を開けると行けますよ」
殿下は勢いよく扉を開けて外に出た。
「おお……見事なものだねぇ」
タンラの木を見上げながら、彼は目を細める。きっと、タンラの実を食べさせてくれと言ってくるのだろうと考えていると、彼は思ってもみない言葉を口にした。
「これは……ソメスの実じゃないか!」
彼はそう言うと、その場にしゃがみこみ、ソメスの実を観察し始めた。
「にゅぅぅぅぅ~」
ワオンが怒っている。確かにそこは、彼女の縄張りだ。彼女はあそこで遊ぶし、用も足す。言わば、ワオンの部屋のようなものだが、殿下はそこに土足で踏み込んだことになる。
「これだけのソメスの木……初めて見た。これは君が育てたのかい? 大体この木は山の中に自生しているもので、人の手では育てられないと聞いていたけれども、やればできるんだねぇ。これだけのソメスの木があり、これだけのタンラの木が育ったとなると、ここには大量のラーム鳥が生息しているんじゃないのか?」
「ま……まあ、そうですね」
「どこだ? ラーム鳥はどこにいる?」
「あ……あちらの森に……」
「そうか!」
殿下は爛々と目を輝かせて森へと走っていった。
◆ ◆ ◆
「いや~なかなか見つからないものだねぇ。さすがはラーム鳥だねぇ」
森をぐるりと見廻した東宮殿下は上機嫌で戻ってきた。確かにあの鳥は、森の木々と色が同じなので、見つけることは難しい。クレイリーファラーズでさえも、見つけることが困難な鳥なのだ。そのクレイリーファラーズは、腕を組みながらニヤニヤと笑みを浮かべている。完全にマウントを取ったときの顔だが、そもそもこの森は彼女のものではないし、ラーム鳥を飼っているわけでもない。だが、俺の心など知ったことではないとばかりに、彼女は口を開いた。
「まあ、あの鳥は警戒心が強いですからねぇ……慣れていない人には、絶対にその姿を現しませんよ」
「ほう、じゃあ、君はラーム鳥を見たことがあるのかい?」
「当然ですわ。私は雛の成長から巣立ちまで見守りますし、ラーム鳥の大群が、ソメスの実を食べに来る光景を見たこともありますわ」
「ラーム鳥の大群が? 本当かい?」
ラーム鳥の大群を見たのは俺だろうが、という言葉を飲み込む。というより、俺が言葉を挟む余地すらないほどの議論が始まっていた。
「どの程度のラーム鳥がいる?」
「200ほどですかね」
「カセリは」
「50」
「ロウは」
「80」
「80? 80? 40ではなくて?」
「80 。その中でもトワイが50です」
「ということは、レルも50くらいか」
「レルも80です」
「80? で、200か」
「その通りです」
「優秀だねぇ」
「お褒めにあずかり、光栄ですわ」
……二人の会話が全くわからない。数字が飛び交っているだけで、一体何を言っているのだろうか。一瞬俺は宇宙の言葉で会話をしているのではないかと思った程だ。ただ、こう、何と言うか、二人の間に変な絆が生まれようとしている気がしてならない。
東宮殿下もクレイリーファラーズのことを気に入ったらしい。彼は上機嫌で彼女に向き合うと、満足そうに頷いた。
「君は相当の実力者だねぇ。ラーム鳥をここまで慣らせているとは。噂には聞いていたけれども、まさか本当にラーム鳥の食事風景を見たことがある人がいるとは。これだけの実力があるのだ。コラホシやデルドロなどにも挑戦してみるといいんじゃないかな」
「ご冗談を、殿下。さすがに、この私をもってしましても、コラホシやデルドロは手に余りますわ」
「そうかな。僕は両方ともに屋敷の庭で育てているけれど、何の問題もなく順調に育っているよ」
「えっ? それは……どうやって、捕らえたのですか?」
「雛から育てたのさ」
「雛から育てたぁ!?」
「そうさ。成鳥になるとなかなか姿を見せないからね。八方手を尽くして雛を手に入れて育てたのさ。いつも僕に懐いていてね。かわいいものだよ。ここ数日はオージの屋敷に行っていたから、少し機嫌が悪くなっているかもしれないね。特にデルドロは僕じゃないとエサを食べないんだ」
殿下はそう言ってニコリと笑う。
「少し村の様子を見てくるよ。ああ、案内はいらない。君たちがくると警戒されてしまうからね。心配ない、少ししたら戻るよ」
そう言って殿下は颯爽とその場を後にした。その後ろ姿を、クレイリーファラーズは震えながら見送っていた。
「まっ、幻と言われるコラホシを手に入れているって……? 育成最難関のテルドロまでも手に入れている……」
そこまで言うと彼女はクルリと俺たちを振り返った。
「ヤツはオタです!」
……アンタもな。
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