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第三百六十二話 気が変わった?

「お前さん、一体何者じゃ?」


サエザルが目を丸くしている。さすがに、神様から授かった能力だとは言えない。そのとき、ハウオウルが口を開いた。


「ホッホッホ。驚かれるのは無理はない。このご領主はな、相当な魔法の才能を持っておいでなのじゃ。儂は魔法の手ほどきをしたが、これほどの才能を持ったお方は、これまで会ったことはないぞい」


「お……お前さんが、この土魔法の手ほどきをしたというのか……?」


「まあ、そんなところじゃ」


サエザルは俺とハウオウルを交互に眺めていたが、やがて、何かに納得したように、コクコクと何度も頷いた。


「……まあ、事実としてこの黒いレンガがあることは確かだ。まずは、このレンガが使えるかどうかを調べるのが先じゃ」


そう言って彼は馬車に乗り込み、扉を閉めた。


「それではまた、連絡をする」


馬車は走り出し、見る間にその姿を消した。


「……大丈夫でしょうか」


「ああ、心配はいらん。ドワーフは嘘はつかぬ民族じゃ。しかも、彼らの技術力が上がるかもしれぬことじゃ。確実にひと月後には、その結果を知らせてくるじゃろう」


「技術力が、上がる?」


「高温に耐えうるレンガを活用すれば、彼らも色々なものが作れるじゃろうて」


ハウオウルはそう言ってカラカラと笑った。俺はよくわかるようなわからないような感覚を覚えていた。


◆ ◆ ◆


朝食を食べ終わると、すぐに荷造りにかかる。といっても、荷物は多くないために、俺はすぐに荷造りを完了してしまった。ヴァッシュはダンス用のドレスなど色々と持ち物が多いために、結構時間がかかっている。俺も手伝おうかとも考えたが、それはパルテックが甲斐甲斐しく手伝っていたために、敢えて何もしないことにした。


ようやくすべての準備が完了し、俺たちはラッツ村への帰途に就くことになった。帰り際には、コンスタン将軍夫婦が見送りに立ってくれた。妻のリエザはヴァッシュに、いつでも気軽に帰ってらっしゃいと言って、なんだか寂しそうだった。


ヴァッシュが馬車に乗り込むのと入れ違いに俺は馬車を降り、コンスタン将軍夫婦の許に行き、懐から布袋を取り出した。


「これを……どうぞ」


「……」


「持っていただければわかります」


将軍は相変わらず無表情のまま、俺の差し出した袋を受け取る。中を検めると、キッと鋭い視線を俺に向けた。


「まあ……これは、金……」


「お預けします。十年後に、取りに伺います」


「……」


「何も言わずに、預かって下さい。十年後に、返してください。彼女の、願いでもあります」


そう言って俺は馬車をチラリと見る。


「……あなた」


リエザが将軍に視線を向け、ゆっくりと頷く。将軍は一切反応を示さなかったが、手に持っていた袋をリエザに手渡した。


「ノスヤ様……。ご厚意……感謝申し上げます」


リエザは目に涙をいっぱい溜めながら深々と腰を折った。俺は、また、近いうちに参りますと言って馬車に乗り込んだ。


ガタガタと揺れながら馬車が動き出した。ワオンは両前足を窓にかけて外を眺めている。ヴァッシュはその頭をやさしく撫でている。


「……ありがとう」


彼女は窓の外を見ながら、まるで呟くように言った。俺は笑みを浮かべて、車窓の景色に視線を向けた。


こちらに来るときは感じなかったが、車窓に映る景色がとても美しいものに思えた。これは何だろうか。精神的なゆとりができたからだろうか。


そんなことを考えながら俺たちは無言のまま、うつりゆく車窓の景色を楽しんでいた。そのとき、遠くの方から馬のひづめの音が聞こえてきた。それはどんどん近づいて来る。もしや早馬か何かかと思ったが、その馬は俺たちの馬車に横付けする形で止まった。


「いや、早いね。ようやく追いついたよ」


馬上にいたのは何と、インダークの東宮殿下だった。彼は手綱を忙しそうに捌きながら笑みを浮かべていた。


「で……殿下、どうなさったのです?」


「う~ん、ちょっと気が変わってね」


「気が、変わった?」


「このまま帝都に帰るのは何だかつまらなくてね。せっかく君と知己を結ぶことができたんだ。噂のラッツ村を見て帰ろうと思ってね」


「ハア? ラッツ村を見て帰るぅ?」


「ああ。ラッツ村はそんなに大きくはないんだろう? 噂の神木を見て、村を一回りしたら帰るから、心配しなくていいよ」


「心配しなくていいって……。本当に一人で来るつもりですか? あの……護衛とかは……」


「護衛? 必要ないだろう。君たちがいるんだから」


「は……ははは……」


あまりにもブッ飛んだ話しに俺は呆然とする。ようやくしんどい状況から解放されたというのに、また、厄介ごとを背負うのか……。神も仏もないというのはこのことだ。


俺の戸惑いをよそに、東宮殿下はご機嫌で馬を操っている。隣のヴァッシュに視線を向けてみるが、彼女はたった一日のことだからと言ってすました顔をしていた。ただ、インダークに帰還するときには、さすがに一人で帰らせるのは問題があるので、誰か迎えに寄こすようにコンスタン将軍に使者を出した方がいいと言っていた。この東宮殿下のことだ。誰にも言わずに出てきた可能性がある。下手をすれば、将軍の屋敷では上を下への大騒ぎになっている可能性がある。


「おお! あれが神木かい? 予想していたより大きいねぇ」


俺たちの心配をよそに、東宮殿下の頓狂な声が響き渡った。

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