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第三百六十一話 炎寄せ?

そして朝、俺は何となく目を覚ました。左半身がとても温かい。ヴァッシュを腕枕しながら寝ているからだ。ふと、彼女に視線を向ける。スヤスヤとよく眠っている。今、何時だろうと視線を移すと、何と俺の顔の上にコンスタン将軍の顔があった。


「うへや!」


変な声と共に飛び起きる。と同時にヴァッシュも目を覚ました。


「なっ!? お父様!?」


ヴァッシュの声も裏返っている。彼女はもちろんパジャマを着ているが、それでも、シーツを手繰り寄せると、それで体を隠した。


将軍は相変わらず無表情のままだ。一体何をしに来たのだと問いかける前に、彼は口を開いた。


「サエザル殿が間もなく出立なされる」


そう言うと彼は踵を返して部屋を出て行ってしまった。俺とヴァッシュはしばらく唖然とした表情で固まった。


「いや、こんなことをしている場合じゃない。あのレンガを見せないと」


俺はベッドから飛び降りると、昨夜作り出した黒いレンガを手に取った。


「……ごめんなさい。着替えてすぐに行くわ」


ヴァッシュが恥ずかしそうな表情を浮かべている。確かに、その姿で人前に出るのはよろしくはない。俺はゆっくりでいいよと声をかけてその場を後にした。


◆ ◆ ◆


「サエザルさん!」


玄関に到着すると、彼は馬車に乗り込むところだった。見送りにはコンスタン将軍一人が立っていた。


「……ずいぶん早くに出立されるのですね」


「ああ。外に仕事もあるのでな。それに、貴族というのは大人数で見送りたがるのでな。儂はそれが嫌いでな。コンスタン将軍に無理を言って、朝一番に出発させてもらうのだよ」


「そうですか。ですが、その前に、これを見てもらえませんか?」


俺はそう言って黒いレンガを差し出す。サエザルはこれが一体何であるのかがわからないようで、少し驚いた表情を浮かべている。それでも元の表情に戻ると彼は、俺が差し出した黒レンガを受け取った。


「……何じゃ、これは?」


彼はそう言うと、手に持っていたレンガを何度も撫で、様々な角度から見て観察を始めた。そして、懐から小さなルーペを取り出すと、それでレンガをじっと観察した。


「これは、何じゃ?」


俺を睨む眼光が鋭くなっていて、少しビビる。


「一応、レンガです。土を焼いて俺が作りました」


「お前さんが作ったぁ? 嘘を言うな。レンガというものは一晩やそこらで作れるようなものではない。それとも何か、儂と話をする前に作っておったのか?」


「いいえ。昨日の夜、俺が土魔法で作りました」


「土魔法で作ったぁ?」


サエザルが頓狂な声を上げた。いきなり大きな声を上げられたので、体がビクッと震える。


「お前さん、嘘を言うな。土魔法などでレンガが作れるか!」


「いいえ。彼の話は本当よ。昨日、私の目の前でそれを作ったのよ」


着替えたヴァッシュがやって来てそう言った。サエザルがヴァッシュとレンガを交互に見比べながら何かを言おうとしているが、口をパクパクさせるだけで何も言わない。


サエザルはスタスタと歩き出す。一体どこに行くのだろうと見守っていると、彼は手に持っていた黒レンガをポイと地面に投げた。そして、ブツブツと詠唱を始めると、右手をレンガに向けた。


ボン、ともポンともつかぬ音が聞こえた。気がつくと、地面にあった黒レンガが燃えていた。火に包まれていたわけではない。何やら水蒸気のような透明に近い白い煙が立ち昇り、その周囲に時おり、小さな炎が立ち昇っている。


「これだけの高温に晒しても崩れぬとは、やはり、強度はあるようじゃな。じゃが、これだけでは判断することはできぬ。溶鉱炉は毎日休まずに火を起こし続ける。それに耐えうるものではなければならぬ」


そう言うとサエザルは俺にスッと視線を向けた。


「ひと月の猶予をくれ。この黒いレンガ、儂の許で吟味したい」


「わ……わかりました」


「ひと月の間、このレンガをドワーフの里において炎寄せを行う」


「炎寄せ?」


「ああ。ドワーフの里には二十四時間三百六十五日稼働し続けている炉がある。そこにこのレンガを入れる。ドワーフの炉は鉄が容易に溶ける温度を保っている。その温度にこれがひと月間耐えることができたならば、お前さんの溶鉱炉建設を手伝おう。ああ、一つ確認しておくが、このレンガ、作るのにどれだけの日数がかかる。一つ作るのにひと月やふた月もかかるのでは、手伝う話はなしだ」


「作るのは問題ありません。すぐに作ることができます」


俺はそう言って両手を前に出して目を閉じる。地面にドスッと鈍い音がする。目を開けるとそこには黒いレンガが落ちていた。


「せっかくですから、炎寄せにはこのレンガをお使いください。足りないのであれば、いくらでも作ります。ただこのレンガ、重たいので、あまりたくさんは持てないと思いますけれど……。あれ? どうしました?」


サエザルは目を丸くして俺を睨みつけている。


「おっ、おっ、おっ、お前さん……。そのレンガを、土魔法で? 土魔法で? 土魔法でつくったったったったととのかぁ~」


……どうしたんだ。何を慌てているんだ?

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