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第三百五十八話 この旅の目的

目が覚めると、目の前にヴァッシュがいた。頭がボーっとしている。あれ? 何だか怒っているように見えるけれど、どうして彼女は怒っているのだろうか。俺は何か、悪いことでもしたのだろうか……。


「いつまで寝ているのよ。早く起きてちょうだい」


ああ、寝てしまっていたのか。と天井を見つめる。まだ、頭がボーっとする。


「早く起きてちょうだい」


そう言ってヴァッシュは俺のほっぺにキスをしてくれた。それでようやく目が覚めた。


「きゅー」


と同時に、ワオンが俺に向かってダイブしてきた。それを腹の上でまともに食らう。ドスッという音と共に、完全に目が覚める。


「わかったよ、起きるよ。それにしてもよく寝たな……。ワオン、お前も大きくなったのか? 前より重くなっていないか?」


「きゅー?」


ワオンは俺の顔を覗き込みながら不思議そうな表情を浮かべている。俺は彼女を抱きかかえながらベッドから出た。


「おお、お目覚めになったか」


部屋から出ると、ハウオウルとパルテックが椅子に座って、にこやかな笑みを投げかけてきた。俺は、少し寝すぎてしまいましたと言って、彼らの傍の椅子に腰かける。


「さ、ボヤボヤしている暇はないわよ。着替えなきゃ」


「着替えるのか?」


「そうよ。これから夕食会よ。お父様がドワーフを紹介していただく大事な会だから、服装に気を付けないといけないわ」


「ああ……」


忘れていた。ここに来たのはドワーフを紹介してもらうためだったのだ。あの東宮殿下と内親王殿下とのやりとりが強烈すぎて、すっかり忘れていた。そう言えば、昨日の歓迎会には、ドワーフらしき人物はいなかったな、などと思いながら、ワオンをパルテックに預けて俺は元居た部屋に戻った。


陽は完全に落ちていた。窓の外は漆黒の闇が広がっていた。俺はヴァッシュに指定された衣装を唯々諾々と着ていく。最後にヴァッシュが俺の周りを廻って最終確認をして、ようやくOKがでた。


「すぐに着替えるから、あなたは外で待っていて」


「いや、手伝うけれど」


「何を?」


「着替えを」


「いいわ。恥ずかしいから、外で待っていてよ」


そう言ってヴァッシュはまるで追い出すようにして部屋の外に出した。


「おお、なかなか良い衣装じゃな。男前が引き立ちますぞい」


ハウオウルがそんなこと言ってからかってくる。冗談はやめてくださいよと言いながら、彼の前に座る。すぐにワオンがパルテックの腕から抜け出してきて、俺の膝の上に座る。


「ああ、面倒くせぇ」


突然そんな声が聞こえたかと思うと、クレイリーファラーズが部屋から出てきて椅子に腰かけた。彼女もドレスを着込んでいるが、あれは確か……昨日と同じ衣装だ。


階下から足音が聞こえてきて、燕尾服のような衣装を着た初老の男が、俺たちの前に立つと、スッと一礼して、準備ができましたので、ご案内しますと言う。ちょっと待ってくださいと、部屋の扉の前まで行き、ドアをノックする。


「ヴァッシュ、準備ができたみたいだよ」


すぐ行くわと部屋の中から声がする。すぐに扉が開いて、化粧を施したヴァッシュが現れた。うん、かわいい。めちゃかわいい。思わず顔がにやけてしまう。


「何を笑っているのよ。さ、行きましょう」


彼女はそう言って俺たちを促した。


案内された部屋は、昨日とは別の部屋で、少し広い会議室のような、長机と椅子が置かれた部屋だった。部屋の奥には暖炉があり、何だか映画の一場面に出てきそうな部屋だった。


その暖炉の前に、コンスタン将軍夫婦と小柄な老人が立っていた。口と顎に長い髭を生やしている。どうやら、この人がドワーフらしい。


将軍夫婦は俺たちが入室してくるのを見ると、スッと一礼した。そして将軍が右手を挙げて、俺たちに席に座るように促した。ええと……。この場合は、俺が上座に座らなければならないから……などと考えていると、突然、ドワーフが口を開いた。


「ああ、メシを食べながら話をするのは、儂の性に合わん。先に話を済ませようではないか。儂はサエザル・アドバンス。見ての通りのドワーフじゃ」


そう言って彼はどかりと席に着いた。えらいせっかちな爺さんだなと思いながら、俺はそこにいた全員を紹介する。


「……えらい大人数で来るのだな。お前さん方貴族は、どうしていつもいつも大人数を連れてくるのだろうな。結局喋るのは一人か二人じゃろう。その者だけでよいではないか」


彼はそう言って首を振り、ブツブツと何かを呟いている。いや、食事会に呼ばれたからみんなで来たんじゃい、と言いたかったが、そこはぐっと堪えることにして、俺たちはサエザルの前に座った。


「で、お前さんらが作りたいのは、何じゃ?」


「溶鉱炉です」


「無理じゃな」


彼はそう言うと、コンスタン将軍に視線を向けた。


「話は終わりじゃ。儂は帰らせてもらう」


「ちょっとお待ちくださいませ」


コンスタン将軍の妻であるリエザが青ざめているが、彼は立ち上がるとヤレヤレと言った表情を浮かべた。


「溶鉱炉などと簡単に言うが、鉄を溶かす施設だ。鉄が溶ける温度にも耐えうる資材が必要じゃ。お前さん方は、何でもってその溶鉱炉を作るつもりじゃ。そんなことは考えとりゃせんじゃろう? それすらも儂に丸投げするつもりか? そんな仕事は御免被るわい」


彼はそう言ってスタスタと扉に向かって歩き始めた。

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