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第三百五十六話 ブッ飛んだ提案

ソフィア内親王は、狼狽える俺を尻目に、スッと立ち上がった。それに釣られて東宮殿下も立ち上がった。二人とも俺を見ている。お前も早く来い、と言っているようだ。


「あの……先ほども言いましたように、そのお話しは、結構ですから……」


「だから、今から奥方様にそのお話しをしに行くんじゃない。早く行きましょう」


「いや、本当に、大丈夫です。それに、俺は、きれいなお姉さんが苦手なので……」


「克服すればいいさ。ヴァシュロンだってそれなりの美女だ。その美女を傍に置いておいて、きれいな女性は苦手だというのは、説得力に欠けるねぇ」


東宮殿下が意地悪そうな笑みを浮かべている。チラリとコンスタン将軍に視線を向けるが、彼は相変わらず無表情のままだ。


「あの……お話しは、お話しはよくわかりました。ただ、その件については、その件につきましては、即答することは適当でないと考えております。大変に、非常に、デリケートな問題でございますので、こうした事柄は、議論に議論を重ねたうえで結論を出すべきものと承知しております」


……自分でも何を言っているのやらわからない。何だか、どこかの官僚のような受け答えになっている。俺が自分でもわからないのだ。東宮殿下たちには当然伝わっていない。二人とも、キョトンとした表情を浮かべている。


「……つまり、何が言いたいんだい?」


だから、さっきからその女性はイヤだと言っているんだという言葉を飲み込む。俺はちょっとした間をおいて、改めて口を開いた。


「その……許可を取らないといけません」


「許可ぁ? 誰のだい?」


「その……。シ、シーズです。兄の、シーズです。兄に無断で、そんなことを決めた日には、俺は、クビになってしまいます……」


シーズ、と聞いて二人は顔を見合わせている。おお、咄嗟に出た話だが、どうやら効果はあったようだ。


そんなことを考えていると、東宮殿下は、ゆっくりと自分の席に腰を下ろした。


「……確かに、あのシーズが君とソフィアの結婚を許すとは思わないね」


殿下はそう言って天を仰いだ。一方で俺の予想は違っていた。俺がソフィア内親王を妻とすると言えば、あの男は、それはいい、そうしろ、と言いそうな気がする。ヤツのことだ、内親王を人質にすることだろう。俺が一緒にいたくないと言えば、彼女を王都に幽閉するくらいは平気でやる男だ。てゆうか、シーズの独身じゃないのか? 奥さんがいるという話は聞いたことがない。で、あれば、俺に嫁ぐよりシーズに嫁ぐ方がいいんじゃないか。


そう言おうと思ったが、とっさに口をつぐんだ。何となく、だが、この殿下は、シーズの許に絶対に妹を嫁にはやるまいとわかったからだ。


「……やはり、君はシーズの支配下にあったのか」


東宮殿下は、さも残念そうな表情を浮かべながら首を左右に振った。……当り前だろうという言葉を飲み込む。まさか、俺がシーズから独立していると思っていたのだろうか。逆に聞きたい。どこをどう見てそう思ったのだろうか。シーズは嫌いだし、兄と思ったことなど一度もないが、今回ばかりはあの男のお蔭で危機を乗り切った。心の中でお礼を言うことにしよう。


「僕の調べでは、君はあまりシーズに連絡を取っていない。てっきり、シーズとは心が通っていないものだと思っていたのだけれどもねぇ」


……すごいな。そこまで調べているのか。確かにシーズに対して頻繁に連絡は取っていない。というより、連絡を取りたくないだけだ。なるほど、シーズの支配下にあれば、常日頃から報告や相談の連絡をすることだろう。そこにいくと俺は、よほどのことがない限りあの男に連絡はしない。その点を見て、俺を抱き込もうと思ったのか。この殿下は、やはり優秀な人なのだなと、変に感心してしまう。


「どうするのよ?」


ソフィア内親王がさも、不満であると言わんばかりの表情で口を開く。東宮殿下は大きなため息をつくと、ゆっくりと彼女に視線を向けた。


「一応、外交ルートで打診をしてみるよ。まあ、可能性は低いだろうが」


その言葉に内親王は目を閉じながら首を左右に振り、ゆっくりと椅子に腰かけた。


……イヤな沈黙が訪れる。ちょっと、この空気はイヤだ。早く立ち去りたい。そう思ったそのとき、コンスタン将軍が立ち上がった。


彼は無言のまま俺たちを眺めている。これは、もうこの話は終わりにしろと言っているのだろう。ヤレヤレと思っていたら、内親王が俺の方向に身を乗り出してきた。


「じゃあ、こうしましょうよ。あなたの子種を私にちょうだい。それでいいじゃない」


「はあっ!?」


思わず大きな声を出してしまった。自分でもびっくりするほどの声量だ。だが、そんな俺の狼狽えた様子など知らないと言わんばかりに、内親王はさらに言葉を続ける。


「それだと、あなたの奥方様にバレる心配もないし、あなたの兄上から咎められることもないわ。それでいいじゃない」


……ブッ飛びすぎだろう、この女性。ヤバイよ、この女性、マジでヤバいよ。


「もう、そのくらいで、よかろう」


突然、コンスタン将軍が口を開いた……。

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