表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/396

第三百五十五話 ひきこもり!?

東宮殿下は確かに、王は死んだと言った。そう言えば、記憶を紐解いてみると、何度か王都に行っているが、国王に会ったことはない。体調が悪くて臥せっていると聞いた。それが真実かどうかなんて考えもしなかったし、王様なんて人種は、そうめったに人前に姿を現さないものだと勝手に信じていたということもある。それならそうと言ってくれればよかったのに……。


「うん? どうした?」


東宮殿下が怪訝な表情を浮かべている。彼は俺の顔を覗き込むようにして、さらに言葉を続けた。


「まさか君、王が死んでいたことを知らなかったのかい?」


「いっ、いや、それは……」


「ああ、喋らなくていい。緘口令が敷かれているのだろう? それを君は忠実に守っているわけだ。律儀な男だ。でもね、王の死については、我が帝国は元より、周辺国はとっくに把握している。王の死を秘匿し続けるなど、できないことだよ」


「は……はあ……」


何だか、殿下が勝手に良いように取ってくれたようなので、それに乗っかることにする。彼はじっと俺の目を見つめたまま、さらに言葉を続けてくる。


「で、話を元に戻すけれど、リリレイス王の皇子とはどんな人だい?」


「あ……え……その……。いや、そういう人がいたとかいなかったとか、聞いた気がしたので……。まあ、王様というのは、色々、その、子供も多いというイメージが……」


「ああ。まあね。余に憚るような子供というのはよくある話だけれども、リリレイス王の子供は王女一人しかいないはずだ。嘘だと思うのであれば、君の兄に聞いてみるといい」


……聞けるわけないだろう。聞きたくもないわ。聞いたらややこしい状況に陥るのは目に見えている。あの、何とも言えぬ気色の悪い笑みを浮かべながら、一体誰から聞いた? などとネチネチ質問してくるのだ。そんなのは頼まれたってイヤだ。


「まあ、とはいえ、王女があんな状態なら、宰相メゾ・クレールも、君の兄上も苦労するね。お察しするよ」


殿下は両手を挙げながら首をすくめている。王女があんな状態? 病気でもしているのだろうか?


俺の感情を察したのか、彼はずいっと俺に顔を近づけて、まるで内緒話をするかのように呟いた。


「もう、三年になるのだろう? 部屋から出て来なくなって」


「え?」


「知っているさ。我々を見くびらないでもらいたいね。こう言っては何だが、リリレイス王国は、ついこの間まで我々の仮想敵国だったんだ。その国の情報は、どんな些細なことでも把握している。我々の情報収集能力を、ナメない方がいい」


殿下はドヤ顔をしているが、俺にはそんなことには全く興味がなく、むしろ、別のことを考えていた。


「それは……ひきこもり……?」


「ひきこもり? なんだい、それは?」


……この世界ではひきこもりという言葉は存在しないのか。ちょっとイラッとしてしまった。いや、イラッとしても仕方がない。俺はゆっくりと深呼吸する。


「いえ、何でもありません」


「まあ、これだけ見ても、我が帝国の力は感じてくれたと思う。ということで、妹、ソフィアを娶ることは、君にとっても有益だと思うんだ」


……どこが有益やねん、という言葉を飲み込む。こんな人を妻に迎えた日にゃ、リリレイスの情報が筒抜けになってしまう。それはきっとシーズが許さないだろう。よしんば、俺がこの女性を妻に迎えますと言ったら、あの男は俺を勘当するだろう。それだけで済むならいいが、俺の想像を超えることをやって来そうな気がする。ああ、考えただけでも恐ろしい……。


それより気になるのは、王女だ。三年間もひきこもっているならば、心の中はボロボロになっているかもしれない。俺も二年間ひきこもっていたが、精神的な辛さは今でも覚えている。もう一度、あの現場に帰りたいかと問われれば、答えはノーだ。


あのときの俺は、後ろめたい気分でいっぱいだった。両親が心配しているのも、世間体が悪いのもよくわかっていた。でも、外に出れば笑われるし、この先の人生も人並みに遅れる自信はなかったし、それは無理だということもわかっていた。この現状を何とかしたい、何とかしなければならないと思っていたが、その方法がわからない。いや、方法は知っていた。ハロワに行って仕事を探して働く、もしくは、勉強をして高卒資格を取り、大学に行くということだ。でも、それをする気力がなかった。その気力が湧いてくるまで待っていたら、二年が経ってしまったという感じだ。


……もしかすると、王女も同じ境遇なのかもしれないな。


そんなことを思ってみるが、じゃあ、お前に何ができるのかと言われてしまえば、結局俺には何もできない。うん、何もできない気がする。


「そんなに考え込むことはないと思うのだけれどもねぇ」


殿下の声で我に帰る。彼の表情からは早くウンと言えと言っているように見える。いいえ、結構ですと言おうとしたそのとき、ソフィア内親王が口を開いた。


「じゃあ、いいわ。私が話をするわ。今からあなたの奥方のところに参りましょ」


「へ? あの……」


「だから、あなたは奥方様に遠慮しているのでしょ? 要は、奥方様がいいと言えばいいのでしょ? 今から話をしに行くわ、付いて来て」


……まったく、何を言い出すんだよぉ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ