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第三百四十八話 晩さん会の準備

そして、約一時間後に、ヴァッシュとパルテックは慌ただしく戻ってきた。俺はその間、クレイリーファラーズを部屋に呼んで、インダーク帝国のことを聞いていた。といっても、帝都はリョーサイというところで、城壁に囲まれたとんでもなくデカいところだとか、皇帝は暗愚だが、宰相、ニウロ・アマダ他、優秀な人材がいるお蔭で何とか国としての態勢を保っているといった程度の情報しか得られなかった。


それよりも、インダークにはトーリという場所にアルメテという七色の羽をもつオウムがいるらしく、彼女は何としてもそこに行ってみたいと熱弁をふるっていた。どうやら、あわよくばアルメテを捕まえて、屋敷の裏の森で放し飼いにしたいらしい。ただ、あそこはソメスの木のお蔭もあって、今ではラーム鳥の楽園と化している。そんな中に新しい鳥を持ち込んで生態系が崩れはしないかといった心配が出てくる。ちなみに俺はラーム鳥の大群を何度も見ているが、クレイリーファラーズは一度も見ていないらしい。本人は否定しているが、おそらくかなりの確率でラーム鳥に嫌われているのだろう。確かに、毎日飽きもせずに巣の周りをうろつかれては、鳥たちも迷惑というものだ。


ヴァッシュが部屋に帰ってきてすぐに、若い軍人がやって来た。俺たちを歓迎する晩餐会の打ち合わせだ。要は、ダンスをいつ踊るのか、どんな曲をリクエストするのか、といった事柄だ。


踊る順番はいつでもいいらしく、帝国側は歌を披露してくれるらしい。こちらの世界は晩餐会と言えばダンスであるというイメージが強かったために、歌を披露するというのはとても新鮮に感じた。


敢えて歌ってくるというのは、相当自信がある証拠だ。ということは、その後に踊るとなれば半端ないプレッシャーがかかってくる。そう考えて俺は、最初に踊りたいと要請した。ヴァッシュは何も言わなかった。


曲は当然、「アリア・テーゼ」だ。というより、それしか知らない。曲調や細かい段取りはヴァッシュが指示してくれた。


思ったよりも早く打ち合わせが済んでしまった。若い軍人が退出した後、ヴァッシュはやおら立ち上がって、お稽古をしましょうと言って俺を立たせた。


結局、時間ギリギリまで稽古は続いた。俺はクタクタになりながら衣装に着替えたが、時間の迫る中で慌てて着替えたため、ズボンのボタンを留め忘れた。それを目ざとく見つけたクレイリーファラーズが俺の頭の中に話しかけてきて、実にウザかった。


『あれあれ~。何かお忘れではありませんかぁ~。あ、もしかして、敢えてかな~敢えてそうしているのかなぁ? 俺の44マグナムを見ろってか? いや~ん。皆さんご立派な領主様と言っていらっしゃるけれど、なるほど、そちらの方もご立派と言うことですかね~。いいですわねぇ~立派なモノをお持ちで』


……黙ってボタンを締めたのは言うまでもない。そして、ポンコツ天巫女へのお仕置きを誓ったのも言うまでもない。


話を元に戻す。時間がなかったにもかかわらず、ヴァッシュは美しいドレスを着用して現れた。ワンピースのように袖を通してファスナーを上げて終わり、と言うわけではない。彼女のドレスは夥しい数の紐が結ばれている。それらを間違いなく、しかも、彼女の動きに支障が出ないように、着崩れしないように絶妙な塩梅で締めねばならない。それをあの短時間で着せてしまうパルテックの腕は、さすがと言う外はない。


まるで見ていたかのように、すべての準備が整ったそのとき、若い武官が現れて、ご案内しますと言って俺たちを誘導した。


いつも将軍が職場に向かう際に使っているという扉が開かれ、そこから、いわゆる表向きの屋敷に入る。相変わらず長い廊下が続いていたが、突き当りの扉を開けると、そこは大きなホールになっていた。大きな丸テーブルがいくつか置かれ、それぞれに正装した人が座っていた。人数としては二十人くらいだろうか。男女半々といったところで、夫婦で参加しているのかもしれない。


俺たちの姿を見ると、皆立ち上がって拍手する。何となく、歓迎されているムードが醸し出される。そんな中、コンスタン将軍夫婦が俺たちの前に進み出てきた。彼は軍服を着込み、体に勲章をたくさんつけている。妻のリエザはドレスを着込み……ちょっと厚化粧をしている。


彼はスッと右手を出して俺たちについて来いと促して席に案内する。コンスタン将軍夫婦の隣のテーブルだ。将軍夫婦と俺たち夫婦のテーブルだけ四角い。俺の隣に将軍が座り、それぞれの隣に妻が座る形だ。


目の前にはステージがあり、それを囲む形でテーブルが配置されていた。ハウオウルたちは俺たちのすぐ隣の丸テーブルに腰かけている。そして、さらにその隣のテーブルには、軍服を着た武官三人が腰を下ろしていた。


一方、将軍夫婦の隣には二つの丸テーブルが並び、その後ろにも、二つのテーブルが並んでいて、それぞれに夫婦らしき人たちが腰を下ろしていた。皆、正装をしている。おそらく、帝国内でも将軍に近い、かなり身分の高い人たちなのだろう。


「それでは、始めるとしよう。準備を」


将軍が俺に向かって口を開く。準備を、っていきなり踊るんかい?

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