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第三百四十一話 おお、やったな!

屋敷に帰ってくると、全員が一斉に俺に視線を向けた。


「将軍はお帰りになったよ」


「え? 帰ったの?」


「帰りましたよ。付き従っていた武官の方々も皆さんお帰りになりましたよ」


「ええ~つまんない」


クレイリーファラーズがさも残念、という表情を浮かべた。これは後で聞いた話だが、彼女は別にあのイケメン武官を男妾にするつもりではなかったのだそうだ。どちらかと言うと、あの二人でBLプレイを見たかったのだと言う。あまりにバカバカしくそれ以上は聞いていないのだが。


将軍が帰ってしまったということで、パルテックは心配そうな表情を浮かべている。一方でヴァッシュは余裕の表情だ。そんな中、将軍がドワーフを紹介してくれると聞いたハウオウルは満足そうな笑みを浮かべながら口を開く。


「ホッホッホ。それは最高の結果じゃな。ドワーフは気難しい者が多い。ツテがなければなかなか仕事をしてくれぬが、あの将軍ならば、優秀なドワーフを紹介してくれるじゃろう。それにしても奥方、なかなか強かじゃな」


ハウオウルの言葉に、ヴァッシュはニコリと微笑んだ。


「ツテのない中で優秀なドワーフを雇うには、かなりの金額が必要なのじゃ。方々に贈り物をしてドワーフに渡りをつけてもらわねばならぬ。それが一回で紹介してもらえることになった。金百枚ならば、十分に元が取れるぞい」


「え? そうなのですか?」


「ドワーフは気難しい。優秀であればあるほど、その傾向は顕著じゃ。しかし、優秀なドワーフは決して依頼された仕事を途中で投げたしたりはせぬ。己の技術に誇りを持っておるのじゃな。そんな人物が来てくれれば百人力じゃ。きっと、ご領主の役に立つじゃろうて」


「お父様はやると言ったら必ずやるお方だわ。大丈夫よ」


ヴァッシュが自信満々に胸を張る。パルテックは相変わらず不安そうな面持ちだが、ヴァッシュの堂々とした振る舞いを見ていると、何だかうまくいきそうな気がしてきた。


「……そう言えば、皆さん食事はまだでしたよね? 俺が作りますよ。しばらく待っていてください」


「おイモ! 甘いの全種類! その後で油で揚げたヤツをお願いします。お塩たっぷりで!」


クレイリーファラーズがそんなことを言っていたが、俺は華麗に無視をした。


◆ ◆ ◆


「ごめんください」


皆で食事をしている最中に来客があった。今日はレークがいない。彼女には家で待機しているように言ってあるのだ。パルテックが出て行こうとするが、それを手で制して俺が出て行く。そこには、若い犬獣人の男が立っていた。


「トノロさまからのお手紙です」


「ああ。ご苦労様」


そう言って俺は男にチップを渡す。彼はいりませんと言っていたが、この金で、馬車で帰ってくれと言って受け取ってもらった。きっとエイビーから数日かけて歩いてきたのだろう。せめて帰りには馬車で帰ってもらって早く、家に帰してやりたかったのだ。


トノロからの手紙は、ニーロ・フートリー帯が砕けたと喜びの内容がつづられていた。何でも、岩盤に穴を開けてマオサロンの木を刺したらしい。彼らは半信半疑だったようだが、先日、夜にけっこうな雨が降ったらしい。それで、朝、起きて見てみると、硬い岩盤が割れていたのだそうだ。このままいけば、金脈のある場所までそう時間はかからないだろう。まずは一度、俺にエイビーに来てもらいたいと書かれてあった。


そのことを皆に報告する。ハウオウルが呵々大笑して手を叩いた。


「何と……。その報告がもう少し早ければ、将軍を喜ばせることができたな」


「いいえ。大丈夫よ。これからすぐに知らせればいいのよ。まだ屋敷には帰っていないはずだわ。途中で追いつけるわ」


「まだ金が出たというわけではございません。報告は、金が出てからでも遅くはございません」


パルテックがそう言ってヴァッシュを嗜める。彼女はわかったわと言って小さなため息をついた。


「岩盤が砕けたからには、金脈までは辿り着けることだろう。近いうちにエイビーの町に行こうと思います」


「おお。そうじゃな。儂もお供させてもらいますぞい」


「ええ。皆で行きましょう。な、ヴァッシュ」


俺の問いかけに、彼女は嬉しそうに頷いた。ワオンも状況を察したのか、尻尾を振りながら俺を見つめている。ワオンも一緒に行こうなと声をかけると、彼女は嬉しそうに後ろ足で立ち上がり、バンザイのポーズを取った。


「おお~よくやった~よくやったぁ~♪ 金~金~金~♪ ゴールド! ゴールド! ゴールド! イエスっ! ゴールド! ゴールド! ゴールド! イエスっ! ゴールデンラッキーゴールデン~♪」


歌のような、能楽の謡曲のようなものが聞こえてきた。それはクレイリーファラーズの声だった。彼女はクルクルと廻りながら、踊りのような、ラジオ体操のような、不思議な踊りを踊っていた。折に触れて腕を上下に挙げている。あまりの奇妙な動きに、ヴァッシュをはじめ、皆がドン引きをしている。


「ちょっと、何をやっているんですか?」


「決まっているでしょ。祝福の歌を歌っているのですよ。作詞・作曲……私! その名も『おお、やったな金!』。今作ったばっかりなので、サビはないですけれども、金だけにそれもいいでしょう」


「確かに金は錆びないですけれども……。それがクレイリーファラーズさんの実力ですか?」


「どういう意味ですか!」


プリプリと怒るクレイリーファラーズ。皆には俺の言葉の意味が伝わらなかったようで、一様にポカンとした表情を浮かべていた……。

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これも偏に、読者の皆様のおかげでございます。厚く厚く御礼申し上げます!

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