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第三百四十話  金よりも……

俺は唖然とした表情でリエザの後姿を見送り、そして、ゆっくりとヴァッシュに視線を向けた。


「何よ」


「いや……。まさか、ドワーフを紹介してくれとは……」


「ちょうどいいじゃない」


「まあ、そう、なんだけれど……」


「ドワーフだって、優秀な人もいれば、そうじゃない人もいるのよ。ギルドに募集を出そうかと思っていたけれど、お父様なら知り合いを辿れば優秀なドワーフを紹介してくれるはずだわ」


ヴァッシュは腕組みをしながら、まるで自分に言い聞かせるようにして頷いている。


「姫様……」


パルテックが呆れたような表情で話しかけてくる。だが、ヴァッシュはチラリと彼女に視線を向けただけで、再びリエザが去ったドアに視線を向け直した。


「わかっているわ。お父様たちが借金を背負ったのはすべて私のせい。だから、何としても、お父様たちの借金を私の手で返したいのよ。そのためには、エイビーの地下に埋まっている金を掘り出すのが一番手っ取り早いわ」


「そうは申しましても、エイビーの金はご領主様のものです。ひいては、このリリレイス王国のものになります。それにまだ、それは産出しておりません」


「でも、金があるのは確かだわ。それに、もし、岩盤が砕けたとしても、金を精製するのにドワーフの力がいるわ」


彼女はそこまで言うと、俺に真っすぐな視線を向けた。


「本当に申し訳ないけれど、エイビーの町から出た金を、お父様たちに分けてあげて欲しいの。この通りよ」


そう言って彼女は深々と頭を下げた。俺は思わず彼女を抱きしめた。


「わかった。わかったから、そんなことはしなくていい。ちょっと待っていてくれ」


そう言って俺は立ち上がり、玄関に向かった。


外ではリエザが馬車に向かって何やら声を荒げていた。どうやら、俺に金を貸してくれと頼めと言っているらしい。だが、あの将軍の気質からして、そんなことをするとは思えない。


「……これは統監様。お見苦しいところをお目にかけました」


俺に気づいたリエザが恭しく一礼する。俺は少し会釈をして、馬車に近づいた。


将軍は一点を見据えたまま固まっていた。何か試案をしているかのようでもあり、呆然としているかのようでもあった。俺には気づいているはずだが、こちらに視線を向けてくる気配はない。


「あなた……」


思わずリエザの言葉を手で制した。そして、将軍に向かって口を開く。


「お金の件ですが、こちらは承知しました。ただし、お聞きになられたかもしれませんが、優秀なドワーフを紹介していただきたいのです。もし、紹介いただいた暁には、その紹介料として、金貨百枚をお支払いいたします。いかがでしょうか」


ゆっくりと将軍の顔が俺に向いた。


「そのようなことは……」


「いえ、本当に俺たちはドワーフの技術が必要なのです。金脈があるのは確実なのです。問題はその金脈を覆っている硬い岩盤を砕かねばならないこと、さらには、そこから掘り出した金を精製して取り出さなくてはなりません。しかもそれは、土や水を汚さない方法でなければなりません。そうした技術を持っているのがドワーフたちです。俺はどちらかと言うと、金を取り出すよりも、土や水を汚さない方法に興味があります」


「まあ……金よりも土や水が大事……そう仰いますの?」


リエザが驚いた表情を浮かべている。お前、何を言っているのだと言わんばかりの顔だ。まあ、普通はそうなるよね。


「はい。恐らくではありますが、エイビーの地下に埋蔵されている金の量は、莫大な量だと考えています。それらを掘り出して精製すれば、俺もこの国も莫大な利益を得ることができるでしょう。しかしながら、やり方を間違えれば、エイビーの町の土や水は汚染されます。一旦汚染されてしまった土や水が元に戻るには百年単位の膨大な時間がかかると考えています。また、そこに住む者たちの体にも、健康にも影響が出るでしょう。こう言っては笑われるでしょうが、俺はそこまでして金を掘り出す必要はないと考えています。ですから、金の産出量はおそらく当初予想していたよりも落ちることでしょう。ですが、百枚の金貨を作るだけの量はあると信じます。すみませんが……」


「ハッハッハッハッハ!」


突然、男の笑い声が響き渡った。見ると、将軍が大きな口を開け、仰け反るようにして笑い声を上げていた。


「よいだろう」


「……え?」


「面白い、考え方だ」


「あ、ありがとうございます」


「嫌いではない」


「はあ……」


「ドワーフを寄こそう」


「……」


そう言うと将軍は満足そうに頷き、目を閉じて天を仰いだ。リエザがさも、申し訳なさそうな表情で俺に頭を下げた。


「誠に恐れ入りますが、これにて帰国いたします。統監様には手厚いおもてなしをいただきまして、感謝の言葉もございません」


「……いいえ、そんな」


「ご覧の通り、口の重い主人でございますが、一度約束したことは必ず守るお方でございます。必ず、近日中にはドワーフを紹介申しますので、今しばらくのご猶予を」


「わかりました。楽しみにしています」


「ヴァシュロンを、よろしくお願いいたします」


「はい、任せてください」


リエザは再び一礼すると、将軍の乗る馬車に乗り込んでいった。そして、付き従っていた武官たちも、俺に一礼すると、自分たちの馬車に乗り込んでいった……。

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これも偏に、読者の皆様のおかげでございます。厚く厚く御礼申し上げます!

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