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第三百三十二話 ダマル、黙る

そしてその三日後、ダマルは再び屋敷にやって来た。一旦インダークに帰ったと思いきや、彼はラッツ村の宿屋に滞在していた。そこで、俺やヴァッシュの話を聞きまわっていたらしい。


そうした話は当然俺の耳に入ってくる。よいか悪いかはさておき、みんな俺のことを清廉潔白で、最高の領主だと言ってくれたらしい。うれしいが、そこまで言われてしまうと、何だか面はゆい。


ダマルは何を探りたいのかはわからないが、彼が望む情報は手に入らなかったような気がする。たぶんだけれども。


ともあれ彼は、三日後にやって来て、返事を承りたいと言ってきた。


「コンスタン将軍とその奥方様がこちらにお見えになるのは、断る理由がありません。ただ……。ご覧の通り、狭い屋敷ですので、大勢のご家来がお見えになることは難しいですね」


そう答える俺の右手には、カンニングペーパーが握られている。これは前日、ご機嫌伺に来てくれたハウオウル先生のアドバイスを書き留めたものだ。彼は話を聞くと、あごひげを撫でながらしばらく考えると、コンスタン将軍夫婦だけで来るのであればお迎えすると言えばよいと言ってくれた。そして、その会談には自らも立ち会うとまで言ってくれたのだ。この先生がいれば、百人力だ。


「ご懸念には及びません。お見えになるのは、将軍閣下と奥様のみでございます」


ダマルの言葉に、思わずほう、と声を上げた。だが、その直後に彼はさらに言葉をつづけた。


「つき従いますのは、私ダマルをはじめとする武官三名でございますので、お手間は取らせません」


お前も来るんかーい、と心の中で呟いてみる。武官三名ということは、この男のほかにも二名の悪人顔男がやって来るということだ。いや、決してそうではないという人もいるかもしれないが、俺にはそう思えてしまうのだ。お腹が痛くなってきた……。


ヴァッシュは黙って彼の話を聞いていた。心中は複雑なものがあるのは、何となく気配でわかった。両親に会いたい気持ちもあるが、俺に迷惑をかけたくないという思いが渦巻いでいるのだろう。


日取りは一週間後、ということになった。ダマルはランチを食べながら……などと気味の悪い提案をしてきた。俺としては断りたかったが、ヴァッシュがそれぞれ昼食を持ち寄りながらであればいいと発言したところ、彼は怖い顔をして黙り込んだ。それはそうだ。馬車でこの村までやって来るのに、わざわざ弁当持参でというのも変な話だ。


「まあ、ご覧の通り田舎の街ですので、豪華な料理などのおもてなしはできません。俺たちが普段食べているような料理をお出しすることになると思います」


「いいえ、それで十分でございます。将軍閣下がお見えになるのは、あくまでお忍びでということになりますので……」


そう言うダマルの目はギラリと光っている。マジでイヤな予感しかしない。


そのとき、屋敷の扉が勢いよく開けられた。一体何だと思っていると、現れたのは何とクレイリーファラーズだった。しかもそれは、いつもの彼女ではなかった。顔がゆがみ切っているし、何より、右足を引きずって歩いていた。


「何だ貴様は!」


ダマルが立ち上がり、明らかに怪しい女に向かって口を開く。剣の柄にはさりげなく右手が添えられている。ある意味では一触即発の事態であるにもかかわらず、クレイリーファラーズは臆することなく、ゆっくりとキッチンに向かって歩いていく。


「おい、貴様!」


ダマルの前を通り過ぎようとする女に、彼はさらに声を上げる。右手が剣の柄を握っている。


「……っせぇよ。お前こそ誰だよ」


ダマルには一切視線を向けず、小さな声でまるで呟くようにして、クレイリーファラーズは口を開く。さらに彼女は俺たちに聞き取れないほどの小さな声で、ブツブツと何かを呟いていた。


「無礼な……。この女は何だ! この家の者か!」


ダマルがそう言って俺たちを睨みつける。顔の作り方が、クレイリーファラーズと同じだ。こう言ってしまうと、さらに彼の怒りを買いそうだが、類は友を呼ぶ、というのは本当なのだなと、心の中で妙に感心してしまった。


「ああ~クッソ……」


嘆きとも、諦めともつかない声が聞こえた。クレイリーファラーズは舌打ちをすると、左足を軸にしてクルリと回れ右をして、そのままケンケンで応接間のソファーまで行き、そこにドカリと腰を下ろした。


両手・両腕をソファーの上に乗せ、ふんぞり返ったスタイルのまま、首だけをこちらに向け、さらに口を開く。


「ビアライトを持ってきて」


「……ビアライト?」


「ヴィーニに入っているでしょ。持ってきて」


「そのビアライトって……?」


「わかんねぇかな! ほら、黄色の! バーッとやればパーッとなる。ザラッとした、あれよ、あれ。早く持ってきて」


「あの……」


「貴様ッ!」


あのなぁ、と言おうとしていたところに、ダマルが口をはさんできた。ダマルの目は吊り上がり、今にも彼女を斬りそうな表情を浮かべている。


「いい加減にせよ! ここは西キョウス地区統監様のお屋敷である! 貴様何者だ! 名を名乗れ!」


「ああ? さっきからうっせぇよ! アタシがここの主人だよ!」


クレイリーファラーズの言葉に、ダマルは目を見開いて固まった……。

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