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第三百三十一話 押しかけてくる?

使者ダマルには、早々にお引き取りを願った。彼は返事をもらうまでここで待たせてもらう、などと物騒なことを言ってきたが、そこはヴァッシュが上手く対応してくれた。ただ、決定次第こちらから使者を送ると言う俺の言葉に対して、ダマルは三日後にもう一度参りますと言って去っていった。


三日後かい! と心の中で突っ込みを入れたのは言うまでもない。とはいえ、こんな悪人面した男が、この屋敷に居座られることを思えば、まだマシかという考えもなくはなかった。


とはいえ、それから俺は悩んでしまった。インダークの意図が見えないのと同時に、果たしてヴァッシュの父親を俺一人で対応してよいものなのだろうか。ここはシーズに相談したいが、それをしたところで、彼からの返事が間に合わない。あのシーズのことだ。お前は西キョウス地区の統監となったのだ。爵位も持っているのだ。一人で何とかしろと言ってくるような気もするし、対応したら対応したで、どうして私に相談しなかったのだと言ってくるような気もする。ただ、相手はインダークの軍事総司令官だ。話の持っていきようでは、何だかえらいことになりそうな気がする。やはりこういうことは、シーズに任せるのが一番なのだが……。八方ふさがり、とはこのことだ。


ヴァッシュに相談してみる。


「とりあえずシーズ様に報告だけはしておいたら? 三日後にダマルが来るとなれば、シーズ様の命令もご自身でおいでになるのも難しいけれど、それを報告しておくだけでも、心証は全然違うんじゃなかしら。それにあなたは西キョウス地区の統監よ。宰相様の言葉を忘れたの? この西キョウス地区に関してはあなたは全権を委任されているのよ。だから、すべてあなたが決めていいのよ」


……即答だった。そして、宰相の言葉を忘れていた。とはいえ、シーズは色々とややこしいので、すぐに使者を立てたのは言うまでもない。


それからはずっとこのことが気になって仕方がなかった。インダークは、コンスタン将軍は一体何をしにこちらに来るのだろうか。まさか、娘との結婚は認めん! などと言い出しはしないだろうか。確か、ヴァッシュは家出をしている状態だ。嫌がるヴァッシュを無理やり連れて行こうとする場面が、頭から離れなかった


■ ■ ■


「……どうしたのよ」


夜、寝ようとしているときにヴァッシュが小さな声で呟く。彼女を抱きしめている腕に思わず力が入る。ヴァッシュはうずめていた俺の胸から顔を出し、じっと俺を見つめた。相変わらずきれいな顔立ちだ。


「心配しなくていいわ」


「でも……」


「この村に来たいと言っているのは、お母様よ」


「ヴァッシュの……お母さん?」


「ええ。継母だけれども」


……そういえば、ヴァッシュの結婚を決めてきたのもその継母で、それがイヤで彼女は家を飛び出したのだ。


「その……継母さんがどうして俺の所へ?」


「きっと、あなたを見たいのだと思うわ。男として、領主として」


「……ダメじゃん」


「別にダメなことはないでしょ?」


そう言ってヴァッシュは起き上がった。小さいが形のよい乳房が丸見えだ。それに気づいたのか、彼女は少し戸惑ったような表情を浮かべながら、再び毛布の中に入ってきた。


「あの人は、貴族の間で有名人になりたいのよ。私が結婚を断ったせいで、お父様も含めて、ずいぶん恥をかいたことだと思うわ。その私が、リリレイス王国の統監の妻になったと聞いて、あの人は私たちから色々なものを受け取れると考えたのよ」


「色々なものを受け取る?」


「お金よ」


「金……」


「あの人は贅沢が好きだわ。……悪い人ではないのだけれども、いつも自由になるお金を常に欲しているわ。私の結婚を勝手に決めたのも、相手の財力と、結婚が決まったときに貰えるお祝いがあったからなのよ。きっと、あなたにもそれなりのお金を用意してくれと言ってくると思うわ」


「う……ん。そういうものは出すものかな?」


「普通は……ね。ただ、あの人にお金を渡すと、常に無心されることになると思うわ」


「……面倒くさいなぁ」


「……」


正直、金で済むならそれに越したことはないなと思っていた。テルヴィーニに入っている金貨は無制限に使える。多少高くても、金で解決するのであれば、御の字だなと思っていた。だが、これからずっと金を無心され、依存され続けるというのも問題だ。ということは、金を渡さずに毅然とした態度でお帰りをいただくという方向性になる。……一番苦手なことだ。


考えてみたが、どう見てもこの屋敷に金があるようには見えない。方向性で言えばその点で押していくしかない。ご覧の通り、田舎の屋敷でございまして、お金、というのはあまりないのです。その代り、野菜ならいっぱいありますので、どうぞ好きなだけお持ち帰りください。このジャガイモなんておいしいですよ……みたいな。


「そんなもので退いてくれるわけはない、か」


ふと見ると、ヴァッシュが静かな寝息を立てていた。そして……その眼からは、一筋の涙が頬を伝っていた……。

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