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第三百二十話  本気出すまでも……

「それって、土魔法の錬成で何とかなりませんか」


「錬成……。確かに、土魔法にはそうしたものはあるが、金を溶かす熱に耐えうる強度を出すには、相当の魔力とレベルがいるぞい。それに、規模もかなり大きなものを作らねばならぬが……」


「わかりました。うん、わかりました」


俺の言葉にハウオウルは不思議そうな表情を浮かべた。


しばらくすると、食事の準備ができたと言って、男が呼びにやって来た。皆で案内された部屋に向かうと、そこにはトノロが待っていた。彼は機嫌よく俺たちをもてなしながら口を開いた。


「本日は山の方まで参りましたので、山菜を摘んでまいりました。今宵はそれらをご賞味いただければと思います」


そう言って出されたのは、キノコ料理だった。グラタンのようなものの中に、小さなキノコ類が入っていて、これはこれで美味しかった。そして、この日はパスタが出たが、そこにもいろいろな山菜が和えられていて、これも美味しいものだった。


当初懸念した、土や水の汚れに関しては確たる証拠はまだないが、ワオンが上手そうに食べていたので、大丈夫だろうということになった。ドラゴンは繊細な生き物で、何か毒や害のあるものは絶対に口にしないし、そうした場所には寄り付きもしないのだとハウオウルが言っていた。何だか仔竜に毒味をさせてしまって、イヤな気分になるが、今回は素直にワオンに感謝することにする。


食卓には、昨日に引き続き肉も多く出た。どれも美味しかったが、特にクレイリーファラーズは肉ばかり食べていた。そんな彼女をパルテックが苦笑いを浮かべながら見守っている。


「あの……今日見せてもらった山のことですが……」


一応確認のために、トノロに金鉱脈のことを聞いてみた。すると、彼からは意外な答えが返ってきた。


「さすがは統監様。すでにご存じでしたか。確かに、あの山……ニーロ山と申しますが、あの山には金鉱脈があると昔から言われておりました。ですが……」


「どうしました?」


「その金鉱脈に辿り着く前に、硬い岩盤があるのです。フートーリという岩盤がこの辺りにはございまして、それを砕かねばならないのです。ですが、これが大変分厚い岩盤でございまして、なかなか砕くことができずに、今もって金鉱脈に辿り着けないのでございます」


「なるほど……」


「我々も色々な山師を入れて調査しました。おそらく、相当の埋蔵量があるということまでは把握しておりますが、ニーロ山の地下に走っております、ニーロ・フートーリ帯のために、頓挫しているのでございます。統監様の兄君に当たられますシーズ様と宰相、メゾ・クレール様にもご相談申し上げているのですが……」


なるほど、と俺は心の中で呟く。宰相やシーズが俺を西キョウス地区の統監に据えたわけがわかったような気がした。つまりは、シーアの治めるキーングスインの洪水対策をさせ、さらにここ、エイビーの金山開発を可能にさせたかったのだろう。その二つがクリアになれば、このリリレイス王国の基盤は盤石なものとなるからだ。


ただ、話を聞いていると、宰相もシーズも、そして目の前に座る領主のトノロも、これまで、本腰を入れてここの金山開発には着手していない。それは二人が、このニーロ山の金埋蔵量がそこまで大きな規模でないと考えているからだ。だが、俺の鑑定によると、この山の埋蔵量は二人の予想をはるかに超える量が眠っているのだ。


「金を掘り出すのには、どのくらいの労力が必要だとお考えですか?」


「私どもの試算では、百人の人夫で毎日岩盤を掘り出せば、一年程度あれば金鉱脈に辿り着くと考えます。ただ……。岩盤があまりにも硬いために、掘り出すための道具がすぐにダメになります。そうしたものを常に補充しながら掘り進めることになりますので、莫大な経費がかかってしまいます。で、あれば、鉄鉱石と銅を掘り出した方が効率が良いと考えております」


「なるほど。ニーロ・フートーリ帯は、そこまで硬い岩盤なのですね……」


そう言って俺は天を仰いだ。


食事が終わって部屋に戻ると、クレイリーファラーズに呼び出された。


「……わかっているよ。フライドポテトだろう? 今、芽を取って水に浸けてもらっているんだ。もうちょっとしたら仕事に取り掛かるよ」


「それは早くやっちゃってください。繰り返しますが、大量に、ですからね。私が呼んだのはその話ではないですよ」


「え? じゃあ、何です?」


「先ほどのあなたとトノロさんの話です。どうして私に相談してくれなかったのですか!」


「え? 有効な解決策があるとでも?」


「もちろんです。私を誰だと思っているのですか」


「ほ~う。そりゃ失礼しました。後学のために、解決方法を承りましょうか」


「何を言っているんですか。簡単なことじゃないですか。毎晩、寝る前に甘いものと脂っこいものを食べればいいのですよ」


「はあ? 何だって?」


「もしそれでお腹を壊してしまうというのであれば、食っちゃ寝をしておけばいいのですよ。コーラとポテチを食べ続けるのが一番効果的です。……あ、この世界にはコーラはありませんね、だったら、甘い飲み物でいいんじゃないですか」


「おい、一体何の話をしているんだ?」


「二キロ太りたいって話していたでしょ? たかが二キロなんてすぐ太れますよ。そんなの、本気出すまでもないですよ」


俺は目を閉じて天を仰いだ……。

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