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第三百十六話  エイビーの町

兄、シーアの治めるキーングスインを出発してからすでに一週間が経った。実のところ俺たちはまだ、ラッツ村には帰れていない。それどころか、行程の半分くらいまでしか進んでいなかった。


これには訳がある。俺たちは、当初予定していたキーングスインからラッツ村に至るルートではなく、敢えて大回りをして村に向かっていた。それは、俺が治める西地区をできるだけ見ておきたいと思ったからだ。


むろんそれは、シーズも同じことを言っていたのだが、何よりその決断をさせたのは、キーングスインを実際に見た経験だった。


元々、シーアの治めるキーングスインは、肥沃な土地ではないとは聞いていた。だが、実際に見てみると、その土地は大いなるポテンシャルを秘めていることがわかった。俺は土魔法が使える。もしかしたら、他の土地も、ポテンシャルを活かせずにいるかもしれないのでは、と思ったのだ。


この俺の提案に、ヴァッシュは何も言わなかった。ハウオウルもパルテックも然りだ。クレイリーファラーズは、イモを食べさせてくれれば何でもいいと言っていた。そのため彼女は、毎日イモを食べている。イモは美容にいいと聞く。しばらくすれば、お肌が潤い、少し若返るんじゃないだろうか。知らんけど。


そんなこんなで今、俺たちは領主の館に招かれている。これで四つ目だ。


これまで訪れた土地の領主は、手放しで俺たちを迎えてくれた。もう、大歓迎と言ってよかった。まあ、自分たちを監督する者を迎えるのだ。当然と言えば当然なのだろうけれど。


どの領主も目敏かった。俺たちの動きを見張っているんじゃないかと思うほどに準備が整えられていた。大体、俺たちのペースは、一日かけて移動し、大抵は夕方近くになると領主の館に到着する。その日は一日そこに滞在し、翌日は視察を兼ねて町や畑の見学、そして、その次の日には出発する……といったものだった。この日も一日移動していたのだが、ここの領主は他の領主とはレベルが違った。もうすでに、己の領地の境に人を派遣していて俺たちを出迎え、館に案内するという歓迎ぶりを見せたのだ。他は全部、領主の屋敷近くまで来て迎えが来ていたのだが、こんなに早く迎えを寄こすとは、正直言って驚いた。


そこはエイビーと呼ばれる土地で、鉄を中心に、金、銀、銅などの鉄鋼資源が豊富に産出されるのだと、迎えに来た者が言っていた。ということは、この土地は、リリレイス王国の武器や防具の原材料となる鉱石を産出しているだけでなく、金や銀も獲れるとなれば、この国の台所までも支えていることになる。まあ、この国の屋台骨を支えている、という言い方は大げさかもしれないが、間違いなくこの西キョウス地区にとっては重要な拠点となるだろう。ただ、鉱物資源が豊富と聞いて俺は一抹の不安を覚えていた。


「どうしたのよ、浮かない顔をして」


「……浮かない顔に見えたかい?」


「見えたわ。何だか、行きたくないみたい」


「いや、そんなことはないよ。ただ……」


「ただ、何よ」


「鉱物資源が豊富に撮れるということは、水や土地が汚れていないかなと心配になったんだ」


「どうして?」


「う~ん。何だろうな、幼いころに、そんな話を聞いたことがあるんだ。確か、銅が豊富に撮れた土地があって、そこで銅を精製するときに使った水を川に流したら、その川がとんでもなく汚れて、町や村の人がひどい目にあったんだ。で、それを見かねた男が国に抗議したんだけれども、全く聞き入れてもらえなくて、川はさらに汚れたんだ」


「それで、どうなったの?」


「確か、その男は皇帝に直訴したんだ。で、ようやくその願いが聞き入れられたんだけれども、確か村は廃止されて、そこに遊水地を作ることで決着したんだと思う。すまない、詳しいことは覚えていないんだけれども」


「……へえ。鉱物が獲れる土地ではそんなことが起こっているの? 知らなかったわ。じゃあ、これから行くエイビーの町も、川が汚れている可能性があるわね」


「そうだな。そうではないことを願ってはいるけれど……。できるだけ、水は飲まないようにした方がいいな。水は俺が出すから、安全が確かめられるまで、その水を飲むことにしよう」


「……わかった」


ヴァッシュはそう言って視線を窓の外に向けた。そこには、のどかな草原が広がるばかりだった。


それからしばらくして、馬車は大きな屋敷の前に着いた。驚くほど栄えた町だった。王都に勝るとも劣らないほどの規模で、人々が犇めいていた。途中まではのどかな田舎の風景だったのが、突然、風景が町に一変したので、かなり驚いた。


領主の館は何と三階建てだった。この世界で三階建ての建物は珍しい。おそらく鉄骨を組んで頑丈に仕上げているのだろう。それなりの技術力も備えているようだ。


「やあ、統監様。ようこそ我がエイビーへお越しくださいました。私はこの館の主、エイビー・トノロと申します」


そう言って挨拶してきた館の主は、真面目で優しそうな雰囲気を漂わせた男だった……。


コミカライズ第二話、公開されました! 是非チェック下さい!


https://comic-boost.com/content/01260001

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