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第三百八話   手は、ある

領地を与えられた貴族たちは、毎年必ず税を納めねばならない。その額は国王が決めることになっていて、領地の広さや作物の収穫高によって決められる。ちなみに、税は作物で納めても構わないし、金で納めても構わない。俺の場合は、御用商人のオウトを通じて税を納めている。毎年彼が作物を引き取り、納税額を引いた分を金で渡してくれている。


このキーングスインという土地は、農作物の収穫が少ない。その理由は、田畑が狭いということもあるが、一番大きな原因は、毎年のように起こる川の氾濫だ。それがために作物が育ちにくいのだ。


当然、シーアにも納税額が割り当てられているが、彼の場合、金に換えるべきものがほとんどないのだろう。確かに、川魚は美味いが、それを税として納めることは難しい。王都に運び込む前に腐ってしまう。干物にでもすれば別なのだろうが、そんな知識は彼にはないのだろう。


それに、シーアはユーティン子爵家から分家された身分だ。税や内政については、常に本家のニタクに報告せねばならない。つまりは、常にニタクの干渉を受ける状況にあるのだ。


別に、税が納められているのであれば問題はないのだが、彼の場合、それが難しい。本家としても、分家が税を納められないとなれば、子爵家自体にも傷が付く。それに、ニタクの管理能力も疑われることになる。ニタクとしても、少ない収入から、シーアの納めるべき税を補てんせざるを得ない状況なのだろう。本来ならば、もう一つの分家である俺の所に金を出せと無心するのだろうが、俺の場合はなぜか、本家に報告をしたのは、俺がラッツ村に来た時の一回だけで、その後はすべてシーズが管理していた。当然、報告もシーズの許に行っていたので、ニタクは全くラッツ村の納税状況はわからなかったのだ。


幸い、シーアは家来から慕われているようで、俺の時のように村長のような強欲な者はいないようだ。そういえば、あの村長はどうしているのか。まあ、全く興味がないので、どうでもいいのだが。


ちなみに、俺がこの西キョウス地区の統監になったことで、税の取り立てや管理も一任されることになっていた。きっとあのニタクのことだ。これまで貸し付けた金を返せとシーアに言っているのだろう。ヘタをすると、法外な利子を付けているかもしれない。


俺はゆっくり息を吐き出すと、ナイフとフォークをテーブルの上に置いた。


「わかりました。税のことについては、相談に乗ります。ただ……今の状況だと、これからさきの領地の運営は厳しいものがあると思います」


俺の言葉に、シーアはキュッと唇を噛んだ。


「いえ、別に責めているわけではないのです。できれば、この土地で多くの作物が採れるようにしていかなければならないと思うのです。それは、俺の仕事だと思っています。手はあるのです。ただ、できるかどうかはわからないのですが。ともあれ俺は、このキーングスインを見捨てるつもりはありません。それは、シーズ兄さんからも言われていることですので。俺は、全力で助けたいと思います」


シーアはスッと顔を上げると、驚いたような表情を浮かべた。


「お前は……本当に、あの、ノスヤかい? まるで、別人のようだ……」


「フォッフォッフォッ。ご領主はこれまで苦労を重ねてこられたのじゃよ」


ハウオウルが優しくフォローする。シーアは驚きの表情のままコクコクと頷いた。


「ところで、本家にはどのくらいの借金があるのです? いや、言いたくなければ、ここで言わなくてもいいです。ただ、俺にだけはその額を把握させてください」


「……」


シーアは最初、言いたくなさげに口ごもっていたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。


聞いて驚いた。彼はニタクに、日本円で数億円の借金を負っていたのだ。さらに突き詰めて聞いてみると、やはり睨んだ通り、本家からは法外な利子が付けられていた。その利子を無くしたとしても、本家には億に近い金額の借金が残っていた。


「……本家への返済は待ってもらうとして、問題は、今年の税ね」


ヴァッシュが周囲を見廻しながら口を開く。まさに、問題はそこだ。


「さっき、アナタは手があると言っていたけれど、何をするつもりなの?」


「それは、この後この土地を見て確認しようと思っているんだ。それができれば、この土地は作物が採れる土地に生まれ変わると思うんだ」


「一体何をしようとしているのかはわからないけれど、そういう話なら、私も行くわ。何かアイデアを出せるかもしれないし」


「そうだな、ヴァッシュ。三人寄れば何とやらって言うからな。色々と相談しながら考えよう」


「別にそんなことまでする必要はないんじゃないですか?」


突然クレイリーファラーズが口を開いた。一体、何を言い出すつもりだ? 彼女は驚く俺を横目に、少し胸を張り気味にして、さらに言葉を続けた。


「おイモを植えればいいのですよ。やせた土地でも育つおイモを。この土地をおイモで埋めて、一大産地にするのです。いい案だと思いません?」


……サツマイモって、洪水にも耐える作物だっけか??

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