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第三百二話   そんなことが!

「え、ちょっ、なっ、うわっ!」


シーアは驚いた表情を浮かべながら、部屋の中に入ってきた。その瞬間、俺は部屋の扉を閉める。


「一体どうしたのです?」


「どうした、と言われても……」


「何だか、とても無理をしているように見えますが……」


俺の言葉に、シーアは俯いてキュッと唇を噛んだ。


どうも、彼の振る舞いが不審なのだ。落ち着きがないし、眼の焦点もあっていない。まるで、俺たちから早く離れたいと思っているかのようだった。まあ、それはそれで構わないのだが、どうしても俺は、この人から話を聞いておいたほうがよいと思ったのだ。


『ナイスプレーです! ナイスですね~。私もちょっとおかしいなと思っていたのですよ。この人はとてもおっとりした人で、こんなにおしゃべりをする人ではないのですよ。きっと何かがあったのでしょうね。全部、洗いざらい吐かせちゃいましょう』


クレイリーファラーズの声が頭の中に響き渡る。いや、そう思っているんだったら、早く伝えなさいよ。俺はチラリと彼女に視線を向ける。ヤツは小さくガッツポーズをしていた。


俺は視線を戻し、再びシーアを見つめる。


「ここには、俺の家族や仲間しかいません。俺はあなたの味方です。俺が味方ということは、ここにいる全員があなたの味方です。もしかして、ニタクから何か、言われたのですか?」


俺の言葉に、シーアは驚いた表情で顔を上げる。


「やはり……。いえ、シーズの兄がそう言っていました。そして俺に、シーアを助けてやれと言われました。だから俺は、真っ先にここに来たのです」


「兄さまが? ……そんな」


「事実です」


シーアは再び俯いた。ニタク、シーズ、シーア、そして俺であるノスヤの関係性がいまいち呑み込めないまま話をしているので、シーアにとっては目の前の俺が別人のように映っているかもしれない。だが、その言い訳は後からどうでも説明できる。俺はじっとシーアを見つめる。


「ノ……ノスヤ……お前を、殺すように」


「え?」


「ニタク兄さまから、お前を殺すように言われたんだ……」


「……」


シーアは体を震わせている。俺は言葉を失った。まさか、俺の命を奪えと命じていたとは、予想もしていなかった。シーズはニタクのやることだから、ロクなことはないと言っていたが、本当にロクなもんじゃなかった。


シーアはそれから、ポツリポツリとこれまでのことを話し出した。


王都で俺やシーズが陞爵したことや、舞踏会での活躍……。それは素直に兄として喜んでいたらしい。ユーティン子爵家の家格が上がったことは嬉しかったと言うのだ。


だが、昨日、突然ニタクが彼の前に現れた。ニタクはもうすぐ俺がここに来ることを告げ、逗留している間に殺してしまえと言ったのだそうだ。責任は私が持つ、と誰が聞いても信じないような言葉を吐き、やり方はお前に任せると言って、すぐさま王都に帰ったそうだ。


「察するところ、ニタク殿は本気でご領主の命を取る気はなさそうじゃな」


ハウオウルが、ホッホッホと柔和な笑みを浮かべながら、まるで諭すように口を開く。彼の振る舞いは、何だか緊張した空気を和らげてくれる。


「こう言っては失礼じゃが、シーア殿にご領主を殺せるとは思えん。そんなスキルがあるのであれば、むしろ、ニタク殿を先に殺しておる。そうではないかの?」


ハウオウルはそう言ってカッカッカと笑う。俺たちも思わず笑みがこぼれる。


「まあ、これは一つに嫌がらせじゃな。実の兄に命を狙われたとあっては、ご領主の心も傷つこう。それに、シーア殿は自分に忠実に従うことも確認できる。ニタク殿にとっては、一石二鳥じゃと考えたのじゃろう」


「……それって、何か、小さくないですか?」


「そうじゃな。度量の狭いというより、気が小さいのじゃろうな」


呆れてものも言えないとはこのことだ。あのニタクという男はそれなりのオッサンだった。だが、やっていることは小学生レベルの話だ。まともな大人のやることではない。それに、このシーアという人はノスヤと仲が良かったのだという。弟の昇進を喜ぶような優しい人なのだ。そんな人が、兄から弟を殺せと言われたとき、この人の心はどれだけ傷ついただろうか。俺はニタクという男に、怒りを覚えていた。


シーアは相変わらず俯いたままだ。そんな彼に俺は、かける言葉が見当たらなかった。そのとき、頭の中にクレイリーファラーズの声が響き渡った。


『無理もありませんね。このキーングスインは、農作物の収穫が乏しくて、台所は常に火の車です。この人は、実家のニタクから少し援助を受けていますし、借金もあります。ニタクはそれをタテに、この人に対して尊大に振舞っているのです。この問題を解決するためには、このキーングスインを富ませ、はやくニタクの支配から脱出させなければなりません』


……なるほど。そういうことか。あれ、どうした? 今日は割とまともじゃないか。そうだよ、いつもそんな感じでいてくれればいいんだよ。そんなことを思いながら、俺はクレイリーファラーズに視線を向ける。


彼女は両手を胸の前で組みながら、顔を赤らめていた。


……まさか、アンタ、シーアに惚れたんじゃないだろうな??

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[良い点] ある時は食っちゃ寝 ある時は鳥使い ある時は極稀にデキる女 その正体は!? 恋多き天巫女クレイリーファラーズ!
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