表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/396

第三百話    風光明媚?

王都を出発して二日、馬車が突然止まった。


窓から周囲を伺うが、周囲はまだ、森が見えるのみで、街には到着していないらしい。


一旦、外に出てみる。そこには実に風光明媚な景色が広がっていた。


「うわ~すごいな」


思わず声を上げる。そこには、大小様々な川が縦横無尽に走っている光景があった。


「噂には聞いていたけれど、まさに水郷地帯ね」


隣でヴァッシュの声が聞こえる。彼女は険しい表情でその景色を眺めている。そのとき、後続の馬車の姿が見えた。どうやら、俺たちの馬車が先行しすぎていたので、山を登ったところで待機していたようだ。


馬車が停まると、クレイリーファラーズが飛び出すようにして出てきた。彼女は顔を真っ青にしながら、アタフタと周囲を見廻し、すぐに草むらに向かって走っていった。ああ、お手洗いを我慢していたのだなと思っていると、俺の耳に不快な音が聞こえてきた。


「ヴエッ! ヴェッ! オロロロロロロ~。ゲハッ! ゲハッ!」


しばらくすると、口元を拭いながらクレイリーファラーズが現れた。


「やっべぇ~。マジでヤバかった……。あとちょっと遅かったら、ぶちまけるところだったわ」


「何をやっているんですか?」


「ちょっと、酔っただけです。それはそうです。あんなに揺れるんですもの。そりゃ酔うってもんですよ」


「そんな乗り物酔いする人には見えなかったので意外ですね」


「基本的に私は酔わないのです。今日だけは例外です」


「酔わないって……。よく自分自身に酔っているじゃありませんか」


「ハア?」


……虫けらを見るような眼だ。自分で言っておいてなんだが、何だかイライラする。いや、いかんいかん。ここは冷静にならねば。


「ところで、体調はどうです? 大丈夫ですか?」


「ええ。出すものを出したので、スッキリしました。少しお腹がすいているくらいです」


「それはよかった。街までまだ少しかかりそうです。着いたら食事にしましょうか」


「それは賛成です。いいですね、わかっていますね」


「……では行きましょうか。顔色も良くなっているみたいで、よかったです。真っ青な顔をしていたので、お手洗いが我慢できないのかと思っていましたら、割合、それよりも深刻な事態だったとは恐れ入りました」


「そうだ、私、トイレにも行きたかったんだわ。思い出した」


クレイリーファラーズはそう言うと、再び茂みの中に入っていった。俺は呆れながらヴァッシュに視線を向ける。彼女も、仕方ないんじゃない、と言わんばかりに、小首を傾けてみせた。


「ヴァッシュは大丈夫?」


「……大丈夫よ」


「よかったら、ここで……」


「お気遣いありがとうございます」


彼女はそう言ってペコリと頭を下げた。


山を降りると、さらに驚くべき景色が広がっていた。何と、ここ、キーングスインの人々は、道をほとんど歩かない。船で移動するのだ。


麓から道は続いているのだが、そこには馬車しか通っていなかった。道が狭く、馬車同士が交差するのもやっとなくらいであるためか、人の姿は見当たらなかった。その代り、馬車道の左右には川が流れており、そこには人々を乗せた船が行き交っていた。その中には、物売り専用の船もあるようで、物資を載せた船が売り声を上げていた。


「いや~のどかな景色だね」


思わず声が漏れる。車窓からは入り組んだ川が見え、まさに水の都と言って差し支えない光景が広がっていた。こういう景色は俺は大好きだ。何だか気分がウキウキしてくる。


だが、目の前に座るヴァッシュは、相変わらず厳しい表情を浮かべている。水や川が嫌いなのだろうか。


一方のワオンは、俺の膝の上に立ち、前足を窓に掛け、尻尾を振りながら車窓の景色を楽しんでいる。彼女は俺と同じく、川が好きなようだ。


しばらくすると、川を行き交う船の姿は見えなくなり、周囲は湖のような風景となった。一体これはどうしたことだと思っていたそのとき、馬車が停まった。


「到着しました」


馭者の声と共に、扉が開かれる。降りてみて驚いた。何と、湖の真ん中に城が立っていたのだ。どうやら、あそこにもう一人の兄であるシーアがいるようだ。


「ほほぅ。これはまた、見事なものじゃな」


ハウオウルが馬車から降りながら、そんなことを呟いている。世界中を旅している彼だが、ここ、キーングスインに来るのは初めてのようだ。


俺たちの目の前には、一本のつり橋がかかっている。ここを渡って城に向かうようだ。


「それじゃ、行きましょうか」


俺たちは迷うことなく、つり橋を渡り始めた。


このつり橋は、正直に言うと結構怖かった。歩いていると左右に揺れる。その上、風が吹くとさらに大きく揺れるのだ。そうなると足が止まる。お陰で、ものの数分で着くだろうと考えていたところが、三十分近い時間を要してしまった。


ようやく橋が終わりに近づいたとき、大きな門が見えてきた。堅牢そうな門だ。俺たちが橋を渡り終えると同時に、その門がゆっくりと開いた。


「中に入ったら、すぐに食事ですからね。出すものをすべて出したので、お腹がすいているのです」


クレイリーファラーズが小さな声で呟く。その言葉に俺は、苦笑いを浮かべるしかなかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ