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第二百九十一話 アルマイト再び

昼食を食べた俺たちは早速、王都に繰り出した。まずは、竜医のアルマイトさんの許に向かう。


「アラアラ~ワオンちゃん、お久しぶりですぅ」


俺たちが訪れると、すでにアルマイトさんが待っていた。彼は、両手で拍手をしながら俺たちの許に歩いて来た。


彼は両手を俺たちの前に差し出す。どうやらワオンを抱っこしたいようだが、彼女はプイッと顔を背けてしまい、俺の胸に顔をうずめた。


「恥ずかしがっていますね~。何と可愛い仔竜ちゃんでしょう」


アルマイトさんの表情がとろけそうだ。この人は本当にドラゴンが好きなのだろう。


「ワオンちゃんの体調は、どうですか?」


「ええ。頂いた薬は毎日飲ませています。特に問題はないと思うのですが、またこれから長旅に出ますので、その前にアルマイトさんに診ていただこうと思いまして……」


「ええ、ええ。もちろんいいですとも~。とてもよいお心がけだと思います」


彼は上機嫌で俺たちを屋敷の中に案内した。


相変わらず、ガランとした工場のような作りだ。以前のように、ドラゴンの首が置かれてはいない。アルマイトさんは、机の前で立ち止まり、ワオンを俺から受け取る。


「はいはい、ちょっと、ごめんなさいね~」


彼はそう言いながら、ワオンの首筋を撫でる。彼女の動きがピタリと止まる。


触診……というのだろうか。アルマイトさんは、ワオンの体に手を当てて、念入りに調べているようだった。少し眉間に皺を寄せて、小首を傾けながら小刻みに頷いているところを見ると、心音でも計っているのだろうか。


「はい、お疲れさまでした~」


アルマイトさんの声と共に、ワオンがピョンと跳ねるように動き出す。彼女は小走りに俺の許に駆け寄ってきた。


「きゅ~」


「おおワオン、お疲れ様。どうでしょう、彼女の様子は?」


「ええ、栄養状態も問題なく、至って健康です。よかったですね~」


両手を胸の前で合わせながら、満面の笑みでアルマイトさんは頷いている。彼の姿を見ると、何だか幸せな気持ちになってくる。彼は、少しお待ちくださいと言って、奥の部屋に下がっていった。ふと見ると、クレイリーファラーズがウロウロと部屋の中を物色している。


「ウロウロするんじゃないよ」


「別に? 部屋の中を見させていただいているだけです」


「ドラゴンの何かが落ちていないかを探しているんじゃないでしょうね。金目のものがないか探しているんじゃないだろうな?」


「しっ、失礼な! 私がそんなことをする人に見えますか? 失礼な! 金目の物を探すだなんてはしたない! そんなことを私がするはずないじゃないですか! 本当に、本当に、失礼な人だわ!」


クレイリーファラーズはプリプリと怒りながら、俺たちの傍にやってきた。うん、きっと、図星を突かれてしまったんだな。そうでなければ、あんなに怒るはずはないのだ。


「やあ、お待たせしました」


再びアルマイトさんが笑みを浮かべながらこちらにやって来た。手には、二つの紙袋を持っている。


「ええと……こちらが、栄養剤です。ええ、この間お渡ししたものと同じものです。三日に一度くらいの感覚で食べさせてあげてください。それと、もう一つは、傷薬です」


「傷薬って……? ドラゴンですから、あまり傷は受けないかと思うのですが……」


「いいえ。外傷のことではありません。内臓の傷を治すための薬です。仔竜はまだ、内臓が弱いですから、食べ物によっては、内臓が傷つくことがあるのです。その場合、食べなくなってしまいますから、そのときに、この赤い薬を飲ませてください」


「ありがとうございます。何から何まで……。何とお礼を言っていいか……」


「いいえ! お礼を言うのは、私の方です。普段であれば、見ることすらできない希少種を、こうして診察できるのです。このくらいは何でもないことです」


アルマイトはキラキラと目を輝かせながら、両手で俺の手を握った。


「ワオンちゃんの様子が少しでもおかしくなったら、いつでも連絡をください。世界中、どこにいても、万難を排して駆けつけますから」


「ありがとうございます」


「ワオンちゃん、また、お会いしましょうね」


「きゅ~」


ワオンはあまりいい顔をしていない。まあ、いきなり急所を突かれて、色々と体を調べられたのだ。アルマイトさんにいい印象はないのかもしれない。だが彼は、相変わらず笑顔を浮かべたままだ。


「もう、お立ちになりますか?」


「はい。近々王都を出発するつもりです」


「そうですか……。私にできることがあれば、何でも言ってください。ああそうだ、侯爵におなりになったのですね。何のお祝いもしていませんね」


「いいですよ。ワオンを診ていただくだけで、十分です」


「あの……一つお尋ねしてよろしいでしょうか?」


ヴァッシュが申し訳なさそうな表情で話しかけている。アルマイトさんは彼女に視線を向ける。


「主人が治める地区に、色々と本を持っていきたいと思っているのですが、どこか、良い本が揃っている店はありますでしょうか?」


アルマイトさんの表情がさらに明るくなる。彼は両手で拍手をしながら、大喜びで口を開いた。


「それはよい心がけです。よく私にお尋ねくださいました。ええ、よい本屋を紹介いたしましょう!」


彼の言葉に、ヴァッシュの表情も明るくなった。

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