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第二百八十七話 おはよう

気が付けば、すでに朝になっていた。あれ、いつの間に?


体が重い。そして、瞼も重い。もう少し寝ていたい。あと五分……。ゆっくり寝返りを打つと、目の前にヴァッシュの顔が飛び込んできた。ぼんやりとその寝顔を見つめる。


……やっぱり、かわいい。


そうだ。昨日の夜は、風呂に入って出てきたら、すでにヴァッシュは眠っていたのだ。なんだかすごく幸せな気持ちになりながらベッドに入り、しばらくその寝顔を眺めていたんだ。


俺の記憶は、そこまでで途切れている。どうやら、そのまま眠ってしまったのだろう。


ふと気が付くと、さっきまで俺の隣で寝息を立てていたヴァッシュの姿がなくなっていた。あれ? どうしたんだ? お手洗いにでも行ったのだろうか。


ゆっくりと体の向きを変える。人の気配はない。ワオンが眠っている籠が目に入るが、ワオンもまだ、眠っているようだ。


重い体に力を籠めるようにして起き上がる。あたりを見廻してみるが、彼女の姿はない。


「……ヴァッシュ~」


名前を呼んでみるが、返事がない。どうしたんだ? 浴室で顔でも洗っているのだろうか?


俺はベッドから出て、浴室に向かう。湯浴みの最中かなと思いつつ、注意深く扉を開けるが、中には誰も居ない。お手洗いかなと思いながら、その場を離れる。


「ヴァッシュ?」


手洗いの外から名前を呼んでみるが、やはり返事はない。ゆっくりと扉を開けるが、やはり、誰も居ない。


「あれ? ヴァッシュ? どこに行った?」


キョロキョロと部屋を見廻してみるが、その姿はどこにもない。


もう、起きてダイニングに行ってしまったのか? そう考えた俺は、部屋の扉を勢いよく開けた……。


「うん?」


気が付くと、ヴァッシュの寝顔が目の前にあった。あれ? ここは……ベッド?


「夢、か?」


一旦起きたはずだよな? 一体どこからが夢で、どこからが現実だったんだ? そんなことを考えながら、ヴァッシュの寝顔をじっと見つめる。


「ううん……」


突然、彼女がゴロンと体勢を変えて、俺に背中を向けてしまった。きれいな顔が見られずに残念だ。でも、昨日のヴァッシュはとっても頑張ってくれたのだ。せめて、ゆっくり寝かせてやろう。俺は彼女の首の下に、自分の腕を滑り込ませて、腕枕をしてやる。


「……痛い」


「ご……ごめん……」


慌てて腕を引き抜き、起き上がる。彼女は毛布を体に巻き付けるようにして、くるまってしまった。俺は呆然とその姿を眺める。


ふと見ると、籠の中からワオンが首だけを出して、キョロキョロとしている。彼女も今、目覚めたようだ。


「ワオン、おはよう。朝食にするか」


「きゅー」


ピョンと籠から飛び上がるようにして出てきて、俺の足元で体をすりすりしている。何ともかわいい。


浴室で顔を洗い、服を着替えて、ワオンを抱っこする。ヴァッシュは……まだ眠っているようだ。このまま寝かせておいてやろう。


部屋を出てダイニングに向かう。そこには、ハウオウルとパルテックの姿があった。それに、見慣れない紳士が控えていた。


「おおご領主、遅かったの」


「すみません、寝過ごしてしまいました」


「まあ、昨日はずいぶん大変じゃったからの」


時間を聞くと、もう十時前だった。一体何時間寝たのだろう。


「あの……姫様は……」


パルテックが俺たちの部屋を見ながら、心配そうな表情を浮かべている。俺は、まだ眠っていると目で伝える。


「オホン」


咳払いが聞こえた。ハウオウルたちの対面に座っていた男が立ち上がり、スッと腰を折った。


「お初にお目にかかります。私は、カーネと申します」


「カーネ……さん?」


「はい。シーズ様より命じられまして、統監様の今後のスケジュールを調整に参りました」


見るからに仕事のできそうな風貌だ。シーズからの命令とあるところをみると、ヤツからそれなりに信頼されているのがわかる。おそらく、相当に仕事ができるのだろう。


彼は懐から一枚の地図を取り出すと、テーブルの上に広げた。


「これが、統監様がお治めになる西キョウス地区の地図です。極秘の書類になりますので、取り扱いにはご注意ください」


彼はそんなこと言いながら、この王都と西キョウス地区に広がる領地のことを端的に説明していった。


「シーズ様も言っておいででしたが、なるべく早くに、各領地を廻られまして、統監が変わったことを伝えた方がよろしいかと存じます。その計画は私の方で作成いたしたく存じますが……」


「そうですね、お願いします」


「どこか、優先的に参りたいところはございますか?」


「いえ、特に……」


「承知いたしました。シーズ様からは、統監府をラッツ村に置きたいとご希望されていると伺いました。で、あれば、ラッツ村は、最後に致してもよろしゅうございますか。各地をご覧になったうえで、最終的にお決めになられてもよろしいかと存じます」


「そうですね」


カーネと名乗る男は、一旦、計画書を作成してまいりますと言って、その場を後にしていった。


「あれ? そう言えば、クレイリーファラーズの姿が見えませんが……?」


「ああ。あのお嬢ちゃんな。部屋から出てこんのじゃよ」


え? もう朝十時なのに? 朝食も食べずに? あの、クレイリーファラーズが、朝食も食べずにひきこもっているのか??

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