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第二百八十三話 弁護

「ひっ……ひどい……ひどすぎる……ひどすぎるっ!」


クレイリーファラーズが顔を真っ赤にしながら泣いている。何て上手な芝居なんだ。迫真の演技じゃないか。まるで、本当に絶望の淵に叩き落されたみたいだ。


ふと、神様の後ろに控えている美人天巫女と目が合った。彼女は俺を見て、にっこりと微笑んでいる。


「まあ、これからは一人の女性として……」


「イヤです! じゃあ、じゃあ、じゃあ、それじゃあ、神様にも責任を取ってもらわないと!」


俺などまるで眼中にないかのように、二人は会話を進めていく。仕方がないので、しばらくその行方を見守ることにする。


「責任? 儂が何で責任なぞ……」


「私を天巫女に任命したのは、神様でしょう? その任命責任はどうなるのでしょうか?」


「喧しい。聞いたような口を叩くでない」


「何とか、何とか、何とか、それだけは、見逃してください」


「ダメじゃ」


神様は、手に持っていたノートを閉じて、それを後ろに控えている天巫女に渡す。そして、両手を合わせると、まるで印を結んでいるかのようなポーズを取った。神の手が、美しい緑色に染まった。


「お願い、お願いです、お願いですぅ!」


クレイリーファラーズが涙目で俺に取りすがってきた。おっ、意外に……。いや、いつものクレイリーファラーズだ。


「あなたからも! あなたからもジジイ……神様に何とか言ってください! ほらぁ、あるでしょ? 私がいないと生きていけないとか、私がいないと生きていけないとか……」


「いや、選択肢になってませんやん」


「冷静なツッコミはいいですから! 何とか神に言ってください。ちょっと待って! ちょっと待ってください! 彼が、彼が神様に話があるそうです。その話を聞いてから、判断してください!」


神が怪訝な表情を浮かべて、俺に視線を向けてきた。相変わらず手許は緑色に光ったままだ。


……さて、どうするか。ふと、クレイリーファラーズを見る。彼女は両手を合わせて俺を拝んでいる。そんなに能力を奪われるのがイヤなのか? あれ? 何か、ブツブツ言っている。


「……お願いします。これからは、言うことは何でも聞きます。迷惑かけません。悪いことをしたことは謝ります。おイモもたくさん食べます。今よりももっとかわいい天巫女になります。これからは真面目になります。絶対、絶対に恩に着ます。あなたの助けになりますから。どうか、今回だけは。今回だけはお願いします」


何か、どうでもいい内容が含まれていた気がするが……。まあ、これだけ必死になるクレイリーファラーズも珍しい。俺は、小さなため息をついて、神様に視線を向けた。


「あの……今、天巫女の力を奪うと言われましたが、それは、あまり効果がないように思えるのですが……」


「効果がない? どういうことじゃ?」


「能力を奪っても、今の生活とあまり変わらない気がするのです」


「ふぅん?」


「クレイリーファラーズがどれだけの能力を持っているのかは知りませんが、俺が把握している限り、彼女は鳥を使役する力と、頭の中に直接話しかけてくる能力、そして、顔を近づければ、その人のスキルを把握する能力。あとは……『宝龍眼』ですか? ヴァッシュを眠らせたような、人の心を操る能力……くらいなものでしょう。その『宝龍眼』は、余程至近距離にならなければ発揮できないようですし……。そう考えると、彼女の持つスキルで助けられたのは、頭に直接語りかけてくるそれと、鳥を使役する能力くらいです。それって、絶対必要なスキルですか? なくても、ほとんど影響はないと思うのです」


神はスッと天を仰いだ。少し、何かを考えているように見える。やがて彼は、再び俺に視線を戻した。


「一つ聞く。クレイリーファラーズに助けてもらったと感じた、一番の記憶は?」


「ええと……」


「あるでしょ! ほら、あんなことやこんなことやあのことまで! ホラ、あれですよアレ!」


「うるさいな、ちょっと黙っていてくれ」


俺の言葉に、クレイリーファラーズは目をギュッと閉じてペロリと舌を出した。今、アンタは瀬戸際なんじゃないのか? 言ってみれば俺は、アンタの生殺与奪を握る一人なんだ。そんな俺にこんな態度を取るとは……。何を食ったら、そんな考え方になるんだ?


そんなことを思いながら、彼女との思い出を探ってみる。……役に立った、と心から思えた思い出が、見当たらない。


「一番の記憶と言えるかどうかはわかりませんが、転生して、右も左もわからなかった俺に、この世界のことを教えてくれたのは、間違いなくクレイリーファラーズです。彼女がいなければ、きっと俺は死んでいたでしょう。それに……妻と、ヴァッシュと結婚することができたのも、言わば彼女のお蔭でもあります」


神様はううむ……と唸ると、腕を組んで考え込んでしまった。そんな彼を、クレイリーファラーズは顔を歪ませながら睨みつけている。やめなさいよ。大人しくしていなさいよ。


「ウム。確かに、クレイリーファラーズの能力は、その大半があってもなくてもどうでもいいものばかりじゃな。わかった。能力を奪うというのは、やめることにする」


「やったぜベイビー!」


クレイリーファラーズの大声が響き渡る。だから、大人しくしていなさいって!


「ただし、『宝龍眼』は没収する」


神様はそう言うと、どこからともなく大きな杖を取り出し、それで、結構な勢いをつけてクレイリーファラーズの頭を叩いた。彼女は声を出すこともできずに、頭を押さえて悶絶した。


「まあ、こんなもんでええじゃろう」


神様は俺を見て、にやりと笑う。その姿に俺はゆっくりと頷いた。

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