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第二百八十二話 罪と罰

「どういうことですか!」


クレイリーファラーズの大声が響き渡る。あまりの絶叫ぶりに、思わず耳をふさいだほどだ。膝の上のワオンも目をギュッと閉じている。ヴァッシュは相変わらず眠ったままだ。


そんな俺たちをよそに、神様とクレイリーファラーズは話を続ける。


「お前には、罰を与える」


「ですから待ってください。重大な罪とは何ですか! 私は何もしていません!」


「わからんのか! それじゃ!」


「それって何ですか!」


「何もしなかったことが、重大な罪じゃろうが」


「意味わかんない!」


「お前なぁ……。お前は天巫女じゃろうが。天巫女たるお前は、儂に対して報告の義務がある。忘れたのか?」


「報告? しているじゃないですか!」


「バカ者! 半年に一度の報告しかしておらんじゃろうが!」


「だって、報告することなどありませんもの!」


「お前なぁ……」


神様はぐぬぬと言いながら、怒りの表情を露わにしている。その彼を、クレイリーファラーズは、侮蔑するような表情を浮かべながら眺めている。


「まず、お前の役目は、このノスヤ・ヒーム・ユーティンを見守ることじゃ。彼に何かコトが起こったときには対処し、それを神であるこの儂に報告することじゃ。忘れたのか!」


「忘れていません」


「報告しておらんじゃないか!」


「しています! それに……彼はもう、ノスヤ・ヒーム・ユーティンではありません。ノスヤ・ムロウス……」


「どっちでもええわっ!」


神様の怒号が響き渡る。顔が真っ赤に染まっている。


「お前は、毎日儂に対して報告する義務がある。それを怠っている。それだけならまだしも、お前は、役目を捨てて己が欲望を満たそうと図った。これは、重大な罪じゃ」


「……チッ」


神様に対して、舌打ちはひどい。うん、ひどいな。


俺の心配をよそに、クレイリーファラーズは、完全に不貞腐れたような表情を浮かべ、あらぬ方向に視線を泳がせている。驚くほどに悪い態度だ。


「重大な罪だと言われましたが、私はまだ、フェルディナント……シンセン公爵様に対して、何もしていませんけれど? 何か私がしたというのであれば罪になるのでしょうけれど、今のところ私は、何もしていません。そんな私でも、罪になるのですか?」


「そのシンセンという男に、お前は天巫女の力である『宝龍眼』を使ったじゃろうが」


「……し、証拠、は、あるの、ですか?」


「これじゃ」


神様は手に持っていたノートを差し出した。俺には白紙の紙にしか見えない。


「クリスチャン・オルチーオ。別名、神の眼と呼ばれるものじゃ。お前の行動がここにつぶさに記録されておる。これによると、お前は先ほど、シンセンという男に近づき……。いや、彼を近づけるように仕向け、その際に『宝龍眼』を使ったとある」


「記憶にございません」


「ほら、クレイリーファラーズさんが、ドラゴンちゃんに噛まれたときですよ」


神の後ろに控えていた美女が優しく、諭すような口調で口を開いた。なるほど、あのときか。


「……チッ、うっせぇな」


……聞こえていますよ。心の声を正直に口に出すのは、どうかと思うのですが?


俺の心配をよそに、クレイリーファラーズは再び神様を睨みつける。


「てゆうか、そんなものがあるのなら、別に私が報告書を提出する必要はありませんよね? 時間の無駄ですもの。報告書の提出を怠ったことは、罪にはならないでしょ?」


「バカ者! お前が報告をせんから、わざわざこれを持ち出したんじゃ。元々これは、神に対して敵対する者に使われておったものじゃ。一介の天巫女に使うべきものではないのじゃ!」


「わかりました。じゃあ、報告書については、明日から提出します。それでいいでしょ?」


「儂がわざわざ来たのは、その話ではない。己の欲望を適えるために、天巫女の力である『宝龍眼』を使ったことじゃ」


「ですから、それは……」


「動かぬ証拠はここにある」


「わかりました。謝ります。申し訳ございませんでした。二度とこのようなことは致しません。これでよろしいでしょうか?」


「いや、お前には罰を与える」


「謝っているじゃありませんか」


「謝って済む問題ではない。天巫女の力を……神から与えられた力を、己の欲望のために使うのは、天巫女として失格じゃ」


「じゃあ……じゃあ! ボーヤノヒはどうなのですか! あの女は、自分の好みの男を見つけると、その魂を奪って天界に召しています。あれは、罪に問われないのですか? どうして、私だけが罪の問われるのですか!」


「それに関しては今、調査中じゃ。とにかくお前は、天巫女として許せぬ」


「納得できません!」


「では、罰を言い渡す」


神様はスッと姿勢を正した。後ろに控えていた美女が片膝をついて畏まる。


「クレイリーファラーズ。お前に関しては、与えてある天巫女の能力すべてを没収することとする。……以上じゃ」


「ちょっと待ってください! それは、どういう意味です!」


「聞こえんかったか? 天巫女の能力を没収すると、儂は言った。つまりはじゃ。お前は今日から普通の人間になる。ただの人、というわけじゃ」


クレイリーファラーズが両手を握り締めて、ワナワナと震えている。それはそうだろう。カタギとして生きていくのは、この人は絶対に、無理だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒャッハー、神様最高っす
[一言] か、神様! クレさんから能力奪うと鳥使役が使えなくなるので、 ノスヤのためにも性格矯正くらいで何とか! 鳥使役が使えないクレさんなんて、 存在がグリーンピース並になってしまう!
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