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第二百八十一話 協力

やがて、クレイリーファラーズは視線を俺に戻した。いつになく、真剣な表情を浮かべている。


「協力……していただけませんか?」


「協力?」


「私とシンセン公爵の恋の仲立ちを、です」


「……」


思わず絶句してしまった。確かに、天巫女の能力を使えば、あの公爵の心は奪えるかもしれない。ただ、心を奪った後のことが、俺には全く見えてこない。


青白い顔を浮かべ、やせ細ったシンセン公爵が、クレイリーファラーズを抱きしめたまま動かない……。そんな光景になるのか? いや、あの公爵の体から発する雰囲気が、そんなことになるとは微塵も感じさせない。むしろ逆に、やせ細ったクレイリーファラーズが独房に閉じ込められ、オイオイ泣き暮らす……そんな光景がしっくりくる。


「別に俺は、構いはしませんが……」


「やった! そうこなくっちゃ! あなたにしては、物分かりがいいですね!」


思わず呟いた言葉に、思いっきり反応してきた。いや、俺は別にそういう意味で言ったのではないのだが……。


「では、明日にでも、公爵の許に行きましょう。ええ、公爵が飼っているあのバカドラゴンが私の腕を噛んだのです。きっと、彼も気にかけているに違いありません。傷の様子はどうだ、とか言って、近づいて来る可能性は極めて高いでしょう?」


「もし、近づいてこなかったら?」


「私が突撃するまでです」


「……勇ましいな」


「恋なんて早い者勝ちです。いい男は早くゲットしないと、他の女にとられるでしょう?」


「まあ、その考えは否定しませんが、本当に大丈夫で?」


「大丈夫に決まっています。どうしてあなたはそう、マイナス思考なのでしょうね。直した方がいいと思いますよ?」


「まあ、そうかもしれませんね。ただ、今まであなたは恋愛で成功したことがないのでしょう? その人が成功するとは思えないのですが……」


「一万回ダメでも、一万一回目は何か、変わるかもしれない、って誰かが言っていたでしょ?」


「謝れ。色んな意味で失礼なことを言っている」


「次こそは、何としても成功して見せます」


「……そうですか。あなたへの協力は、シンセン公爵と目通りする場をセッティングすればいいのですか? それは構いませんよ。俺もあの方とはもう少し話をしたいと思っていたところでしたし。それに、公爵の屋敷から、アルマイトさんの屋敷まですぐ近くです。帰りにワオンの様子も見てもらいたいですから」


「まあ、取り敢えず、は、それでいいでしょう」


「ただね、ほら、神様はどうするのです? 黙って見逃がしてくれますかね?」


「そこですよ。私がシンセン公爵と幸せな結婚をするとなると、あのジジイは絶対に黙ってはいないでしょう。そこで、あなたの口から、私の彼への愛が本物であることを語って聞かせてやってほしいのです。できれば、私との思い出をたくさん語って……」


「う~ん。人の倍以上食べて、股を広げて眠りこけている場面しか浮かんでこないけれど……」


「そんなことはないでしょ! ほら、いっぱいあるじゃないですか、私との思い出が……。二人で喜びを分かち合ったときのこととか……」


「あった? そんなこと?」


「ありましたよ、あったじゃないですか、ほら……」


「ゴメン、記憶にないわ。思い出そうとするけれど、あなたのグータラな姿しか思い出せないわ」


「もういいです……」


クレイリーファラーズは、明らかに落胆した表情浮かべながら、ため息をつく。そして、少し悲しそうな表情を浮かべながら、さらに言葉を続ける。


「本当は、私だってあなたとは別れたくはないのです。あなたの許を離れると、好きな時に好きなおイモが食べられなくなるのですから……。でも、彼……。フェルディナントへの思いは止めることができないのです。そこを理解していただいて、協力してほしいのです。わかります。私がいなくなると、色々困ることがあると思います。ですが、そこを曲げて協力してほしいのです」


「別にあなたがいなくなって困ることはないと思うのですけれど、まあ、どうしてもと言うなら、協力しましょう。ヴァッシュもダメとは言わないでしょうから」


俺は隣でスヤスヤと眠る彼女に視線を向ける。相変わらずかわいい寝顔だ。


「取り敢えず、明日にでもシンセン公爵の許に向かいましょう。それでいいですね? じゃあ、ヴァッシュを起こしてください」


「この大バカ者!」


突然、男性の声が響き渡った。ふと見ると、そこには絶世の美女を伴った白ひげを蓄えた老人が立っていた。これは……神様だ。


そりゃ、やっぱり聞いているよね。そんなことを思いながら、クレイリーファラーズに視線を向けると、彼女はまるで、汚いものを見るかのような表情を浮かべて、神様を睨みつけている。


神様はクレイリーファラーズを一瞥すると、スッと右手を挙げた。すると、後ろに控えていた美女が、一冊の本を彼に手渡した。


A4サイズといったところだろうか……。神様はその本をパラパラとめくると、ピタリとその動きを止めた。


「お前は天巫女として、重大な罪を犯した。その罪は償わねばならぬ」


神様の声に、まるで飛び上がるようにして、クレイリーファラーズが立ち上がった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 普通、考えたらわかるやん? まあ、そこがクレさんなんだけど。
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