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第二百六十八話 論功行賞

部屋にぎっしりと詰め込まれた男女の視線が、俺たちに向けられる。どうやらここはステージの上らしい。一段下がったところに人々がいる。ちょうど俺たちと正対している格好だ。


「どうぞ、こちらへ」


どこからともなく、タキシードのような服を着た男性が現れ、俺たちを案内する。すぐ近くに椅子がある。そこに座れと言っているようだ。仕方がないので、そこに座ることにする。


会場内の人々は、相変わらず俺たちに視線を向け続けている。どこに視線を向けても、誰かしらと目が合う。中には、扇子のようなもので口元を隠して、ヒソヒソと囁き合っている者もいる。きっと、俺たちのことを値踏みしているのだろう。ああ……お腹が痛くなってきた。


こんなときに、ヴァッシュに手を繋いでもらうと少しは落ち着くのだけれど、彼女はじっと座ったままのようだ。ようだ、というのは、俺が隣に顔を向けられないからだ。チラリとでもヴァッシュを見ようものなら、きっと、何だアイツはとなるに決まっている。いや、根拠はないが、そうなるような予感がしてならないのだ。だから、顔は正面を向いたまま、必死で目だけを動かして、彼女の姿を捕らえようと頑張ってみる。……残念ながら、顔は見えない。辛うじて、ヴァッシュのスカートと、そこから伸びる真っ白い足、そして、スカートの上で組まれたきれいな手だけが見えた。


「……大丈夫よ」


小さな声だが、確かに、ヴァッシュの声が聞こえた。よし、何だか、大丈夫な気がする。俺は心の中で彼女に礼を言う。マジで愛している。


「さて、この度は……」


突然、男の大きな声が響き渡って、体がビクンと震える。何だよいきなり。ビックリするじゃないか。


ふと視線を向けると、そこには、いかにも偉いですといった格好の男が、両手を広げながら話をしていた。杖こそ持っていないが、その風貌はまるで、スーパーゼ〇スそのものだ。


「……我がリリレイス王国は、長年の仇敵であるインダーク帝国と和平を結ぶことに成功した。本日はその功労者に対して功績をたたえ、陛下の特別な思し召しをもって、労に報いるものである」


男の話が終わるや否や、会場から大きな拍手が起こる。まるで、リハーサルを重ねてきたかのようだ。ほぼ、一糸乱れぬタイミングのよさだ。


男は満足そうに頷くと、クルリと後ろに向き直り、恭しく一礼した。目の前には分厚いカーテンがかけられていたが、それが、まるで緞帳のようにスルスルと上がっていき、そこには、宰相、メゾ・クレールが立っていた。ヴァッシュが立ち上がる。それにつられて俺も立ち上がる。彼女は宰相に向き直って、ゆっくりと頭を下げた。俺もそれに倣って頭を下げる。


……一体、いつまでこの態勢を取らなきゃいけないんだ?


宰相は何も言葉を発せず、無言のままだ。その代り、何やら紙のこすれるような音がたまに聞こえてくる。どのくらい頭を下げていただろう。時間にすると三十秒くらいだろうか。宰相の優しげな声が響いた。


「面を上げられよ」


ヴァッシュが頭を上げる。俺も一緒に頭を上げる。いつの間にか宰相の前には、お盆のようなものを持った男が片膝をついて控えていた。宰相は盆の上から一枚の紙を取り出すと、それを恭しく押し頂き、そして、ゆっくりとそれを広げた。


「この度の功績、朕は大いに満足である。功績のありし忠臣たちに、朕をして特に褒章を取らせることとする」


宰相はそこまで読むと、じろりと皆を見廻した。その視線は冷たく、何だか背中がゾクリとするものだった。


「まず、ポナパ・レール・フェルオン男爵」


「はっ」


名前を呼ばれた男が、一歩前に進み出た。ちょうど、俺たちの対面にその男は控えていた。俺たちは舞台の上手側に控えているが、フェルオン男爵は下手側に控えている格好だ。


「貴殿は、王国の食糧不足に対して、多大なる支援を行い、王国を救いしこと、朕をして大いに喜ばしめた。よって、現在のシャリターン地区に加えて、エストロー地区も、その領地に加えることとする」


会場内からどよめきが起きる。一体、何が何だかさっぱりわからない。耳を澄まして聞いてみると、「直轄地を」や「1.5倍」といった言葉が聞こえてくる。どうやら、直轄地の一部を加増されて、領地が1.5倍に増えたということなのだろう。


「静粛に」


宰相の声で、人々のざわめきが一瞬で消え、静寂に包まれる。宰相は再び周囲を見廻して、さらに言葉を続けた。


「続いて、シーズ・ヒーム・ユーティン男爵」


「ハハッ」


シーズの名前が呼ばれた。ヤツは一体どこにいるのかと思ったら、何と、盆を持って宰相の傍に控えていたのが、シーズだった。あまりに格好がいつもと違うので、気がつかなかった。彼は宰相に向き直ると、片膝をついたままの姿勢で、宰相の言葉を待っていた。


「そなたのこの度の働き、朕は誠に満足である。特に、飢えたる民を救いしことは、感嘆の極みである。よって、新たに侯爵の位を授け、今後は農業の促進および開墾地の拡大を担当し、国家経済の立て直しを命ずる」


「ハハッ、身命を賭して」


シーズは体が折れるのではないかと言うくらいに、頭を思いっきり下げている。


「そして、最後に、ノスヤ・ヒーム・ユーティン」


「は、ははっ」


突然俺の名前が呼ばれたので、驚きのあまり声が裏返ってしまった。そんな俺に構うことなく、宰相は言葉を続けた。


「そなたの、この度の働きは大いに称賛するものであり、朕は大いに満足である。そこで、そなたが治める現在のラッツ村をはじめとする周辺の十ケ村の領地については……」


宰相はそこで言葉を切り、一呼吸置いた後、ゆっくりと口を開いた。


「それらを没収する」


……没収? え? 他に領地を与えられるんじゃないの? なに、これ?

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