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第二百六十七話 いざ、城へ

「ワオン、おいで~」


「きゅっ」


ワオンを抱っこして部屋を出る。ホールに向かうと、そこにはハウオウル一人がソファーに座っていた。


「あれ、シーズは?」


「おお、さっき、出ていったぞい」


彼は大儀そうに立ち上がり、ゆっくりと俺たちを眺める。


「まさに美男美女。似合いの夫婦じゃな」


思わず俺はヴァッシュと顔を見合わせる。そんな俺たちを見て、ハウオウルはカッカッカと豪快な笑い声をあげた。


「お前さんたちの姿を見て、貴族たちが腰を抜かすじゃろう。楽しみじゃな」


「そんな……」


「儂も、パルテックさんも舞踏会には参加できる。何かあればすぐ助ける。じゃから、お前さんたちは何も心配せんでもええ」


「ありがとうございます」


「それでは、ご案内いたします。シーズ様は先にお城に向かわれました。ささ、どうぞ。表に馬車を待たせてあります」


「わっ、わかりました」


舞踏会は夕方からのに、えらく急かすんだなと思いながら、ヴァッシュを見る。彼女は当然と言った表情でブリトーに視線を向けている。化粧も済んで、衣装も改めているのに、この先お城で何があるのだろうか。あ、きっと、そこで色々な貴族たちと話をするのだろうな。そう考えると、何だかお腹がシクシク痛くなってきた。


「さ、行きましょう」


不安を感じる俺に構うことなく、ヴァッシュは俺の腕を少し引っ張る。もう、なるようにしかならない。覚悟は決まった。じゃあ、いくか。そう思った瞬間、扉が開く音が聞こえた。


「ひょっとまってくらはい」


クレイリーファラーズが右手にサンドイッチを持ち、口をもぐもぐ動かしながら現れた。彼女は周囲をぐるっと見廻すと、口の中のものをゴクリと飲み込むとさらに言葉を続けた。


「わたひの……ああ、舌がヤケドして上手く喋れないわ……。私の化粧と髪のセットをお願いします」


「別にいらないだろう」


「いるんです! いるに決まっているでしょ!」


「いや、アンタは」


「ノスヤ様、承りました」


後ろに控えていたライムネイルが、笑顔でこちらを見ている。そんな、何だか悪いですよ、そう言うとしたそのとき、クレイリーファラーズがパタパタと小走りに彼の許に向かっていった。


「では、よろしくお願いしますね。メイクは濃すぎず、自然な感じでお願いします。髪の毛は、くせ毛を何とかしていただければ大丈夫です。……ええ。後ろで結んじゃいましょう。ポニーテール、わかります? ええ、それでいっちゃいましょう。純情そうに見えればこちらのものです」


最後に彼女の本音が出てしまっている。ライムネイルは、承知しましたと言って、頭を下げている。俺は申し訳ないという気持ちを込めて、彼に向かって頭を少し下げる。


「ハハハ。ご心配には及びません。こちらのお方も、美しくしてご覧に入れます」


そう言ってライムネイルは、連れていた女性を促し、クレイリーファラーズを伴って寝室へと向かっていった。角を曲がる直前、クレイリーファラーズが突然こちらを振り返った。


「変身した私の姿を見て、ビックリするなよ?」


そう言って彼女は廊下の奥に消えていった。


「ホッホッホ、随分とうれしそうじゃの、あのお嬢ちゃん」


「先生……」


「何じゃぞい?」


「申し訳ありませんが、ライムネイルさんに言伝をお願いしてもよろしいでしょうか」


「ほう、ええぞい」


「彼女の化粧と髪の毛……五分で終わらせてくださいと伝えてください」


「五分? そりゃまた短いのう」


「いいえ。口紅を塗って、髪の毛を縛るだけですから、そんなに時間はかからないと思います。それに、先生たちもお城に出発するのではないですか?」


「まあ、儂らは昼過ぎにここを出ればええ。時間はたんとある」


「そうは言っても、パルテックさんも着替えをしなくてはならないのでは……」


「いいえ、私のことは気になさらないでくださいまし。このような年寄りでございます。別に化粧をせずとも大丈夫です」


「先生」


「何じゃぞい」


「クレイリーファラーズの化粧を早く終わらせて、このパルテックさんの着替えや化粧もお願いしますと、ライムネイルさんに伝えてください」


「……フフフ。承知したぞい」


「それでは、行ってきます」


そう言って俺は部屋を後にした。


執事のブリトーに案内されて玄関を出て、馬車に乗り込む。すぐに馬車は動き出したが、そのとき、ヴァッシュが俺の手を少し強めに握ってきた。


「……ありがとう」


「え?」


「パルテックのこと」


「ああ。折角なんだ。パルテックさんにもおしゃれをしてもらった方がいいと思って」


「その気持ちが、とっても嬉しいわ」


そう言ってヴァッシュはまたさらに、手に力を込めた。結局彼女は、城に着くまで俺の手を離さなかった。


程なくして、馬車は城に着いた。鎧兜を装備した兵士たちが、整列して俺たちを出迎えてくれている。何とも仰々しい限りだ。


「ノスヤ・ヒーム・ユーティン様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらに」


上品な老紳士が、俺たちの前に立って案内する。例によって、城の中は迷路のようになっていて、歩いては曲がり、歩いては曲がりを繰り返す。そして、どのくらい歩いただろうか、突き当りに扉が見えた。老紳士は扉の前で振り返り、スッと一礼すると、優しい口調で話しかけてきた。


「それでは、こちらからお入りください」


扉が開く。俺はヴァッシュと腕を組みながら中に入った。すると、そこには予想もしなかった光景が広がっていた。


何と、正装した男女が、大きな部屋の中にひしめき合っていたのだ。一体、これは、何だ……?

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