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第二百六十一話 たまたま

「どこへ行くんです?」


出し抜けに聞いてみた。クレイリーファラーズはチラリと俺を見たが、すぐに視線を外した。


「別に」


あなたには関係ないでしょ、と言わんばかりの言い方だ。あまり、よろしい感じではない。


「今日は夕方に舞踏会の本番があります。色々準備もあるでしょうから、あまり出歩かないでください。ちなみに、どこに行こうとしていたのです?」


「お昼までには帰って来ます」


「だから、どこに行くのかと聞いているのですよ」


「ちょっと、王都見物です」


「王都見物? ここ最近、ずっと外出しているようですけれども、一体どちらへ?」


「そんなことまで、報告しなければいけませんか?」


「まあ、気になるじゃないですか」


「プライベートなことなので」


「プライベートぉ?」


俺の言葉に全く反応を示さず、クレイリーファラーズは淡々と食事を口に運んでいる。どうやら、言う気はないようだ。仕方がないので、奥の手を使うことにする。俺は立ち上がり、ドアの前に置かれた鈴を鳴らした。


「お呼びでございますか」


すぐにメイドがやってきた。俺は彼女に、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが、と言って耳打ちをする。


「……はい。……はい。……ございます。……え? ノスヤ様が? いえ、そのようなことでしたら、私どもが。……それは……申し訳ございません、私は存じません。……はい。でしたら、執事のブリトーにそのように申しておきます」


そう言って彼女は深々と一礼して、その場を後にした。


クレイリーファラーズは、ジトッとした目で俺を眺めている。てゆうか、まだ朝食を食べるのか。明らかにペースが落ちてきている。もう、お腹一杯なんじゃないだろうか。そんな彼女を見ながら俺は、元に座っていた場所に腰を下ろす。


「……何か?」


「……別に」


俺は頷いてあらぬ方向に視線を向ける。


「何じゃご領主。さっき、メイドに何を言っておったんじゃ?」


ハウオウルが話しかけてくる。俺はゆっくりと彼に向き直る。


「先生、本日のご予定は?」


「予定? お前さん方が主役の舞踏会があるんじゃ。どこにも出かける予定はないぞい。儂が知っている貴族たちには全員会うことができた。皆に、ご領主のことを頼んでおいたぞい」


「ありがとうございます、先生。心強いです。そのお礼……というわけではないのですが、ちょっとオヤツを作ろうと思っているのです。先生も是非、食べていただければ嬉しいです」


「おお、ご領主の手料理か。そりゃ楽しみじゃ。で、何を作る気じゃ?」


「大学芋です」


「ダイガクイモ?」


「ぶっ!」


キョトンとするハウオウルと、むせているクレイリーファラーズ。二人の対比が面白い。


「ほら、あの、おイモを砂糖で固めたやつですよ。思い出しました? そう、あれです。いえね。ヴァッシュが朝食を食べていないじゃないですか。一応、ブリトーさんにサンドイッチを作ってくれるよう頼んでおきましたけれど、彼女自身も疲れがたまっていると思うのですよ。ラッツ村なら、タンラの実を食べてもらって疲れを取ってもらうのですけれど、ここではなかなか手に入りません。ですので、せめて、ちょっと甘いものを食べてもらって、王都での疲れを癒してもらおうと考えたのです」


「おお、それは結構なことじゃ。奥方も喜ぶぞい」


「はい、ありがとうございます」


俺は恭しく頭を下げる。チラリとクレイリーファラーズを見てみると、彼女はフォークをぎゅっと握り締めた状態で、俺を睨みつけていた。


「……何か?」


「……お昼には帰って来ます」


「それは、さっき聞きました。行ってらっしゃい」


「私の分も」


「断る」


「取っておいてください。別にあれは冷めても美味しく食べられます」


「断る」


「ひどいわ! 私におイモを食べさせないなんて!」


「食べたきゃ、どこに行くか言うんだな」


「おイモを人質にとるなんて……」


「そうでもしないと、あなたは喋らないでしょ? というより、疚しいことがなければどこに行くのかくらい言えるかと思うのですが」


「ぐぐぐ……」


「やっぱり、言えないんですね? ……はい、わかりました。では、言わなくて結構です。その代り、あなたの大学芋は作りません。食べられません」


「……をとりに」


「何だって?」


「ドレスを取りに」


「ドレス?」


「舞踏会用のドレスを取りに行くのです」


「何ですって? 舞踏会用のドレスって、ウォーリアさんが作ってくれたじゃないですか」


「……あれ、ちょっと生地が縮んでしまって」


「生地が縮む⁉ どういうこと?」


「お腹周りが、少しだけキツくなってしまって……。いや、別に、着られなくはないんですけれど、できればもう少しゆったりしたほうがいいかな……なんて思いまして。で、王都を巡っていたら、たまたま馬車が停まったところが、ドレス屋さんだったのです。で、たまたま扉が開いていたので、入ってみたら、たまたま私にぴったりのかわいいドレスがあったので、まあ、その、たまたま購入したというわけです」


そう言って、クレイリーファラーズは、テヘヘと笑ってペロリと舌を出した。

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