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第二百五十六話 変わった!?

クレイリーファラーズは、腕を組みながら俺を睨みつけている。そんな下らないことで、アルマイトの許に行くのはイヤだと突っぱねたのが、怒りをさらに加速させたらしい。


そのとき、クレイリーファラーズのお腹が鳴った。


「……早くお昼が食べたいな。デザートはスイートポテトがいい。そう考えているでしょ?」


クレイリーファラーズの眼が見開かれる。図星のようだ。


「できれば、お昼からは街に出て買い物したいと思っているでしょ?」


「……」


「あなたの考えていることなんて、俺には手に取るようにわかります」


「で、あれば、話は早いじゃないですか。あの……」


「断る」


「まだ何も言っていないでしょ!」


「シーズの屋敷ではなく、街に近い宿屋で過ごさせてくれ。毎日シーズの屋敷には通って、俺たちの様子は見に行くから……。そんな感じのことを言おうとしていたのでしょ?」


「……スゲェ」


クレイリーファラーズはパチパチと拍手をしている。そんな彼女に、俺はさらに言葉を続ける。


「断る」


「お風呂とお手洗いが使えないのはやっぱり不便なのですよ~。わかりますでしょ? この苦しみが」


「それなら、あるじゃないですか、ちゃんと」


「男女共用というのがイヤなのですよ」


「知らん、そんなこと」


「かわいい天巫女ちゃんがこんなに困っているのに……助けないなんて……泣いちゃいますよ?」


「前にも言ったと思いますけれど、あなたの笑顔は素敵ですけれど、たぶん、泣き叫ぶ瞳はもっとキレイだと思うのですよ」


「私の辞書には、汚い、エロいジジイとお風呂とお手洗いを共用するという文字はないのです!」


「じゃあ、捨てちまえよそんな辞書」


「変わりましたね……」


「何が?」


「あなたは、変わってしまいました……」


「何の話ですか!?」


「この世界に転生した頃のあなたは、優しかった……。私の言うことは何でも聞いてくれましたし、なにより、私にとっても優しかった……。あのときのあなたはどこに行ったのです?」


「あのねぇ……。俺は全く変わっていません。むしろ、変わったのはあなたですよ?」


「私? 私は変わっていません。まあ、少しきれいになったくらいでしょうか」


「なんて強気な……。まあいいや。この世界に来た頃は、あなたは頼もしかった。俺が戸惑っているときに、そっと手を差し伸べてくれた。思い出すなぁ……。何て頼もしい人なんだろうと思ったものですよ。それが今はどうです? わがままでだらしなくて……。今のあなたが置かれている状況、あなたに向けられる態度は、あなたが作り出したものですよ?」


「ひっ、ひどい……天巫女ちゃんに向かって、お世話になった天巫女ちゃんにそんなことを言うなんて……」


「天巫女らしくしなさいよ。天巫女って、そんなだらしなくて、ワガママな人ばっかりじゃないでしょ?」


「まあ、性格悪いヤツは多いです。ぶりっこして色目を使う野郎たちばっかりですよ。見たでしょ? あの、ボーヤノヒ。神様に、ジジイに色目を使っているあの野郎のことですよ。あんなヤツばっかりですよ。そんな性格の悪い女たちの中で、私みたいな真面目な天巫女は珍しいのですよ」


「そう変わらない気がするけれどなぁ……」


「何ですって?」


「とにかく、ここは王都です。俺の屋敷じゃない。あなたのワガママは通らないと思ってください」


「ケチ!」


「何とでも言え」


そんな話をしていると、馬車はシーズの屋敷に到着した。


馬車から降りると、執事のブリトーが恭しく出迎えてくれた。彼は俺たちを案内しながら、アルマイト様のお屋敷はどうでしたかと話しかけてくる。


「はい。このワオンの体調を気遣ってくれまして、お薬までいただきました。とても、ドラゴンを愛しておられるようですね」


「あのお方は、王都にいる仔竜たちにとって、なくてはならないお方です。もっとも、王都とは言え、仔竜の数は少のうございますが」


「ちなみに、王都には、何匹仔竜がいるのです?」


「現在のところ、三匹です」


「たった、三匹ですか?」


「それだけ、飼育が難しいのです」


ブリトーは俺たちの部屋の前まで来ると、クルリとこちらに向き直り、再び満面の笑みを浮かべながら、口を開いた。


「さて、つい先ほど、奥方様の衣装合わせが完了いたしました。ちょうど今、衣装をお召しになっておいでです。それはそれは、おきれいなお姿でございます。どうぞ、ご覧ください」


そう言って彼はこちらを向きながら、器用な手つきで扉を開けた。


……絶世の美女がそこにいた。


髪を結い上げ、化粧を施した美女……。純白の衣装がまぶしい。どこかの女優と言っても十分通用するような美しさだ。元々がキレイな女性だが、何というか、磨き抜かれたと言ってもいい美しさを纏っている。彼女の周囲だけ、空気が違っているように見える。


「あ、おかえりなさい。どうだった? ワオン、大丈夫?」


俺に気づいたヴァッシュがにこやかに話しかけてきた。その笑顔もとびっきりに美しかった。思わず、固まってしまった。


「どうしたのよ?」


「いや、キレイだヴァッシュ。本当に……本当に……本当に、キレイだ……」


自然と涙が溢れだしていた。俺は、生まれて初めて、感動の涙というものを流した。

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