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第二百五十四話 欲深い

アルマイトは、クレイリーファラーズの失礼な振る舞いにもかかわらず、優しい笑みを向け続けている。


「ドラゴンは、無駄になるところがありませんからね。それだけに、人間をはじめとして、色んな種族から狙われます」


「そうなのですか?」


驚く俺にアルマイトは、スッと視線を向けてくる。


「一番有名なのが、ドラゴンの肉です。とても、美味です」


「確かに、そうですね」


「体表を覆う皮で盾や鎧を作ると、強力な防具となります。その、ワオンちゃんのフェルドラゴンの羽で作った鎧やローブなどは、相当な高値で取引されています」


「聞いたことがあります」


確か、その話はクレイリーファラーズから聞いたことがある。ふと彼女を見ると、目が$マークになっている。


「同じように、ドラゴンの骨は、剣などの武器の材料となります。血液は薬に、その他、歯、爪、血管に至るまで、すべてのものが利用できるのです」


「なるほど。そうであれば、ドラゴンで儲けようとする者も出てくるでしょうね」


そう言って俺は、クレイリーファラーズに視線を向ける。彼女はなぜか口笛を吹いている。何だよ、それは。


「その通りです。そのため、ドラゴンはあらゆる種族から狙われる運命にあります。多くのドラゴンが狡猾で繊細であるのも、それが理由の一つです」


アルマイトは真剣な表情を浮かべている。少し、雰囲気が変わってきている……か?


「ただ、私は、ドラゴンと人間は共存できないだろうかといつも考えるのです。彼らは人間よりもはるか昔から生きている種族です。寿命も長い。我々とは比べ物にならない程の知識や知恵を持っているはずなのです。種族の中には、人語を操れたり、人化したりすることができる者もおります。そうした種族を介して、我々とドラゴンが交流できたらと思うのですが……」


「人語を話せるドラゴンがいるのですか?」


「ええ、おります。私はまだ、お話したことはありませんけれど」


「はああ」


アニメや小説の世界そのままだ。まあ、ドラゴンがいる段階で、人語が話せるドラゴンがいるだろうなと薄々は思っていたけれど、こうして改めて聞くと、やはり驚いてしまう。


「ですから、私はできるだけ多くの仔竜を救うのです。そうしていれば、いつに日か、ドラゴンたちは私に心を開いてくれると信じているのです」


「なるほど。とても高い志ですね」


「いいえ。単に、欲が深いだけです」


そう言ってアルマイトはカラカラと笑う。


「さて、長い時間お引止めしました。王都にいる間、ワオンちゃんの体調が悪くなるようでしたら、いつでもお越しください」


「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます。お礼は……」


「結構です。ドラゴンのお蔭で、十分な収入がありますから。それよりも、フェルドラゴンという希少種の仔竜が見られただけで、十分な報酬です」


「……」


この人は本当にドラゴンのことが大好きなのだな。そう思わせる笑顔だった。


さて、帰ろうかと思ったそのとき、クレイリーファラーズがドラゴンの首をペタペタと触っている。こりゃ、勝手に触るんじゃないよ。


「ドラゴンに興味がおありなのですか?」


アルマイトが踵を返して、クレイリーファラーズの許に歩いて行く。彼女は、ジロジロと首を眺めながら、小さな声で呟く。


「首の傷は鋭利な刃物で切り裂かれているようですね」


「そうですね。よくおわかりになりましたね」


「何かに食いちぎられたのであれば、傷がグチャグチャになりますでしょ? このドラゴンの傷は、真一文字に斬られています。ひょっとして、人間が狩ったものでしょうか?」


「そうですね。私もそう考えています」


「湖の底で暮らしているドラゴンをどうやって狩ったのでしょうね?」


クレイリーファラーズの質問に、アルマイトは少し顔を歪める。


「おびき寄せて? であれば、どうやっておびき寄せたのでしょうね? 水から顔を出した瞬間に、スパッと首を刎ねたのでしょうか?」


「まあ……」


「ということは、胴体は、水の中ということでしょうか。だとしたら勿体ないですねー。そこが一番大事なところなのに」


クレイリーファラーズは、さも残念と言った表情を浮かべている。そして、さらに言葉を続ける。


「可能なら、沈んでいる胴体を取れないでしょうか?」


「それは……難しいでしょうね」


「やっぱり……。残念」


「いえ、胴体はすでに持ち去られていると思います」


「ええっ!? どういうことです?」


「おそらく、この首を持っていくことができない、何らかの理由があったのでしょうね」


「持っていくことができない、何らかの理由?」


「これは、あくまで私の推測ですが、この首を放置することで、アッシェルドラゴンをおびき寄せようとしているのではないかと思うのです。ドラゴンは家族や一族の絆が強い。仲間が殺されたことを知らしめることで、多くのドラゴンをおびき寄せて一網打尽にしようとしているのかもしれません」


「まあ、効率的と言えば効率的ですよね。ただ、そんなに多くのドラゴンを狩れるだけのスキルがあれば、の話ですけれど。ただ、であれば、この首だけのドラゴンはどうして狩られたのでしょう? やっぱりおびき寄せられたのでしょうね。どうやっておびき寄せたのか、興味があるわぁ」


……アンタまさか、ドラゴンを狩ろうって思っていないだろうな? やめなさいよ、そんなこと。


ふと見ると、アルマイトが唇を噛んでいた。どうしたんだ、一体?

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[一言] アルマイトが首だけのアッシェルドラゴンの身内と推測。
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