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第二十五話 面接

「ごめんください!」


昼飯を食っていると、玄関で元気な声がした。何だと思って行ってみると、そこにはピンと立った、大きな耳を持った少年が立っていた。


「ギルドから来ましたヤサって言います! ええと……火魔法の家庭教師のクエストですが、すでに希望者が10名を超えました。一度、ご覧いただきたいとギルド長が言っています。どうされますか?」


「わかりました。すぐに伺います」


気が付けばクレイリーファラーズが俺の後ろに立っていた。しかも、俺の許可もなく、勝手に返事をしてしまっている。


「あのですね、俺の」


「暇でしょ?」


彼女はニヤリと不気味な笑いを俺に向けている。俺は思わず絶句してしまう。


「では、2時ごろにギルドにお越しください! お待ちしています!」


少年はぴょこんと一礼をして、屋敷を出ていった。



■■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「ギルド長のクライハンツです」


目の前に現れたのは、2メートルを超す大男だった。年の頃は40歳くらいだろうか。ニコリと笑うと目じりに笑い皺が数本刻まれて、愛嬌のある顔立ちをしている。だが、肉体は筋骨隆々であり、歴戦の戦士であろうことは容易に想像がつく。彼は俺を応接室のようなところに案内したあと、おもむろに口を開いた。


「本来は私がご挨拶に伺わねばならなかったのですが、ついつい忙しさにかまけてしまいまして、失礼しました。ご領主様のわざわざのお越し、歓迎いたします」


言っていることは、完全に社交辞令であることは俺も分かっている。そもそも、ギルドとは完全に独立した組織だ。冒険者の旅をサポートすると同時に、彼らを使って魔物を定期的に狩って町や村の安全性を保つ役割も担っている。当然、ヤバイ魔物が出れば、各ギルドと連携してその討伐に当たる。冒険者の、冒険者による、冒険者のための組織であるために、村の領主が赴任したくらいでは、ギルド長がわざわざあいさつに出向くことなどない。むしろ、彼があいさつに赴くとすれば、それは村長の所だ。この村周辺の魔物の討伐依頼を出しているのは、他ならぬ彼であり、ギルドにとっては最大の取引先になるからだ。俺のような、昨日今日領主になった男は、彼らの眼中にはないのだ。


「無理なクエスト出しまして、すみませんでした」


クレイリーファラーズが、俺をそっちのけにして、笑顔で応対している。ギルド長はどっかりと椅子に腰かけると、パラパラと手に持っていた紙に目を通し始めた。


「本日までに集まった希望者は、12名になります。冒険者のランクは、Bランクが1人、Cランクが8人、Dランクが3人になります」


説明によれば、Dランクの冒険者は、火魔法は扱えるには扱えるが、自分が扱うので精いっぱいの場合が多く、人に教える、ましてや初心者に教えるスキルのある人は稀なのだという。大抵は根拠のない自信をもっているか、ダメもとで応募している場合が多いのだそうだ。そこにいくとCランクの冒険者は、経験もそこそこあり、魔法に関する理論もきちんと理解している者が多く、初心者に教えるという点では、問題ないだろうとのことだった。


「Bランクの人は……一度、ご覧になってからお決めください。まあ、ご領主さまとの相性もあるでしょうから、Dランクの冒険者であっても、まずはお会いになり、お話をされることをお勧めします」


ギルド長はニコリと笑みを浮かべながら立ち上がり、俺たちを別の部屋に案内した。


そこはギルドの裏庭だった。だだっ広い草原が広がっている。そこに、12人の魔法使いが一列に並んでいた。しかも、何故か全員が男性だ。俺のイメージでは魔法使いというのは、ちっちゃい女の子で、いわゆる萌え系……というのを想像していたのだが、俺の目の前にいるのは、ガタイのいい奴もいれば、針金のように細い奴もいる。フードを被ったまま顔が見えないような奴もいる。そして、おじいちゃんもいる。よりどりみどりの男性たちだった。俺は思わず舌打ちをする。


「男性ばっかりなのですね」


いかにも残念、という雰囲気を醸し出しながら口を開く。ギルド長は俺の様子は一切気にしていないような感じで、淡々とした口調で話を返す。


「ええ、ご希望通り、男性だけを集めておりますから」


「え?」


俺はゆっくりと隣のクレイリーファラーズを見る。彼女は舐めるように並んでいる男たちをガン見している。……お前か、よけいなミッションをブッ込んだのは。なるほど、不気味な笑みを浮かべていたのは、このためだったのか。


俺は帰りたいという感情を押し殺しながら、並んでいる男たちに目を向けた。イヤなら断ればいいのだ。そして、「女性限定、性格重視、癒し系であれば尚可」という条件に変更するのだ。


そんなことを思いながら俺は、希望者一人一人の話を聞いていった。


……結果的には、全員が何だか微妙な感じだった。どいつもこいつも自信満々で俺にアピールをしてきた。中には巨大な火柱を作って、オレ、できるぜ、と自分の力を誇示する奴もいたくらいだ。その中でひときわ光っていたのが、エイビックと名乗る抜群のイケメンだった。クレイリーファラーズがこの男のときだけ、やたらと俺の方を向いて、この人採用しましょうと目で合図を送ってきていた。当然それはガン無視し、俺は一切彼女と目を合わせなかったが。


そして最後に残ったのが、白いひげを蓄え、朗らかな笑みを浮かべたおじいちゃんだった。彼はBランクの冒険者だった。能力的に言えば、この中では最も高いスキルを持っている。


「ええと……あなたは、ハウオウルさん?」


「儂から一つ、お聞きしてもよろしいかな?」


「はい、どうぞ」


「あなたは何故魔法を、しかも火魔法を学ぼうと思われたのかな?」


「生活のためです」


「生活?」


「魔法使いの方には気分を悪くされるかもしれませんが、火魔法を覚えれば、いちいち火を起こす手間が省けると思ったのです。そのため、そんなに高いLVの火魔法を覚えたいとは思っていません。屋敷のかまどに火が付くとか、暖炉に火が起こせるとか……そんな程度の魔法が扱えれば、十分なのです」


「それでは、火魔法で魔物を倒すというのではないと?」


「ええ、あまり興味がありません。俺は今、自分の畑で作物を育てようとしています。作物が丈夫に育つことが望みですし、美味いものを作って暮らしたいと思っていますので」


「で、あれば、水魔法も必要ではないかな?」


「ええ、将来的に扱えるようになればうれしいですね」


そこまで話をすると、並んでいる男たちが明らかに落胆しているのがわかる。なんだ、その程度なのか、百姓になるために魔法を覚えるのかよ……おそらくそんなことを思っているのだろう。それならそれでいい。また他を当たるだけだ。


そんなことを考えていると、突然、カッカッカ! と豪快な大笑いが聞こえてきた。ふと見るとそれは、先程の老人であり、彼は顎が外れるのではないかと思われる程に口を大きく開けていた。


「面白いお人じゃな。長いこと生きておるが、作物を育てるために魔法を覚えたいと言うお人は初めてじゃな。よろしい、儂が教えて進ぜよう。儂を雇いなされ。儂は火魔法と水魔法が使える。なに、1ヶ月もあれば両方ともに覚えられよう。報酬はそのままでよい」


老人はニコニコと笑顔を俺に向けている。ふと見ると、クレイリーファラーズが、コイツはダメだと言わんばかりに、眉間に皺を寄せている。俺はフッと息を吐き、ゆっくりと口を開いた。


「結構です」


クレイリーファラーズが眉間に皺を寄せたまま、小刻みに頷いている。その様子を横目で見ながら、俺は言葉を続ける。


「ハウオウルさんと仰いましたか。結構です。明日から火魔法を教えていただけますか。水魔法は、余裕があれば、教えてください」


クレイリーファラーズが固まり、動かなくなった。

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