表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
249/396

第二百五十話  一夜明けて

「きゅ~」


「……おお、ワオン、おはよう」


俺とヴァッシュが起きた、ちょうどいいタイミングでワオンが近くまでやってきた。相変わらず可愛らしい。


「ちょっと待ってな。顔を洗ってくるよ」


「せっかくだから、ワオンもお風呂に入れてあげたら?」


「ああ、そうしようか」


ヴァッシュがベッドの中から話しかけてくる。シーツで顔の半分を覆っていて、まだ、眠そうな表情だが、これはこれで可愛らしい。


ワオンを一旦、ヴァッシュに預けて、俺は先に風呂場に行く。確か、昨日は部屋に入ってすぐワオンは寝てしまったのだ。よほど疲れていたのだろう。ベッドの上に置いた数秒後には眠りについていたのだ。


部屋には、彼女が眠るのにちょうどいいバスケットが準備されていた。これもシーズの指示なのだろうか。そんなことは知らないはずだが、知っていたとすれば、かなり怖いことだ。そんなことを思いながら、ワオンを中に入れ、入り口に置いたのだった。


ちなみに、なぜ入り口に置いたかというのは、風呂と手洗いが、入り口の扉のすぐ前にあったからだ。風呂に入っているときに、ワオンが目覚めたら一緒に入れてやるつもりだったのだが、結局目覚めなかった。それで……俺はヴァッシュと一緒に風呂に入った後、彼女をお姫様抱っこしてベッドに運んだ。そう、つまりは単に、俺が回収し忘れていたのだ。ちなみに、ベッドに運んだあとのことは、想像にお任せする。まあ、そういうことなのだが、そこまでエライことはしていない。それだけは、声を大にして言っておく。


パジャマを脱ぎ、風呂桶に湯を張って体を洗う。俺一人だから、入浴はすぐに済む。ある程度体を洗い、タオルで拭いて最後にクリーンの魔法をかければ、それで終わりだ。一旦、湯を流して、再び盥にお湯を張る。そして、風呂場を出て、ワオンを呼びに行く。


「きゅ~」


ベッドから飛び降りて、俺に駆け寄ってくるワオン。その彼女を抱き上げて、そのまま風呂場に連れて行く。


ラッツ村で売っている石鹸……。ヴァッシュもお気に入りのヤツでワオンをゴシゴシと洗ってやる。とても気持ちよさそうな表情を浮かべている。


十分にきれいにしてやって、頭から湯をかけて泡を洗い流してやる。盥の湯を捨てて、ワオンの体を拭いてやっていると、ヴァッシュが入ってきた。


「私も汗を流すから、お湯を張ってちょうだい」


「ああ、体を洗おうか?」


「汗を流すだけだから、いいわ。それに、時間もないし……」


ヴァッシュが顔を赤らめながら口を開く。確かに、時計は七時半を指していた。八時の朝食まであまり時間がない。俺は湯を張ってやると、ワオンを抱っこして風呂場を出た。


ヴァッシュはものの五分も立たないうちに風呂から上がってきた。いそいそと身支度を整えて、ホールに向かう。


「おはようございます」


「ああ、おはようさん」


「おはようございます」


「……」


入り口の前に備え付けられたソファーに、ハウオウルとパルテックが座っていた。俺が挨拶すると、ハウオウルはにこやかに片手を挙げて挨拶をするが、パルテックは立ち上がって、恭しく頭を下げた。全く対照的なこの二人が、何ともおかしい。


一方のクレイリーファラーズは、自室のドアの前に腕を組みながら立っていた。昨日、部屋を変わらなかったのをまだ根に持っているのか。俺が挨拶をしても、ブスッと無言のままだ。まあ、放っておくことにしよう。


昨日はよく眠れましたか……などと話をしていると、執事のブリトーが朝食をもって現れた。まるで、ホテルのルームサービスのようにワゴンを押してやってきた。彼はにこやかに朝の挨拶をすると、見事な所作で料理が盛り付けられた皿をテーブルの上に置いていく。


「本日のメニューは、スクランブルドエッグに、カルオム牛を薄切りにしたソテー。サラダとデザートにはバイエロをご用意いたしました」


「おお、バイエロか。これは美味いぞい」


ハウオウルが嬉しそうな声を上げる。後で俺も食べて見たが、いわゆるグレープフルーツのようなものだった。ちなみに、ハウオウルはこれに砂糖を大盛りにかけて食べていた。


「では、ノスヤ様、お食事を部屋までお持ちします」


「ああいや、俺たちもここで食べますよ。な、ヴァッシュ」


「ええ。皆で食べたほうが美味しいですわ」


ブリトーは笑顔を見せて、俺たちの皿をテーブルの上に並べていく。皿でいっぱいになってしまったが、これはこれでいいものだ。


シーズ家の朝食は、とても美味しかった。特に肉料理が絶品だった。いい肉を使っているのはわかったが、これだけ柔らかく仕上げているのは見事だったし、コクのあるソースも絶品だった。これは皆、大満足だった。


『おかわり。肉、おかわり。肉、カモーン。ソースつゆだくで』


突然、頭の中にふざけた声が響き渡った。言うまでもなく、クレイリーファラーズだ。大人しく食べているなと思っていたが、最後にやっぱりきたかという感じだ。


俺はチラリと彼女に視線を向けると、ヤツはさも当然といった表情で頷いて見せた。仕方がないなと思いながらブリトーに視線を向けると、彼は両手を胸の前で合わせた格好で、口を開いた。


「さて、本日の予定ですが、シンセン将軍閣下からお話があったかと思いますが、アルマイト先生の許に参ります」


「すみません、その、アルマイトというお方は……どういったお方ですか?」


「研究者でございます。竜……ドラゴンの研究者でございます」


ドラゴンの研究者? と、いうことは、ウチのワオンを連れて行くってことか? それって、何かの実験台にされるんじゃないだろうな……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ