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第二百四十九話 今、何時? まだ早い?

「……騒いだら、殺すからの、お嬢ちゃん」


気が付けば、体が縛られていた。その上、何か、猿轡のようなものがなされていて、クレイリーファラーズは声を上げることができなかった。


男は何やら呻き続けている。まるで獣のようだった。荒々しい息遣いをしながら、彼女の服を乱暴に脱がしていく。襲われるのだと悟った。どうしようもない。どうやら男はハウオウルらしかった。


やっぱり、私の体を狙っていたのだ……。そう思うと同時に、涙が溢れてきた。こうなることは予想していたのだ。で、あるにもかかわらず、それを防ぐことができなかった。悔しさが、涙となってにじみ出ていた。


部屋割りのときに、もっと強硬に主張しておくべきだった。安全な奥の部屋で寝るべきだったのに……。あの部屋は唯一鍵がかかる。ジジイが魔法を使えるとはいえ、鍵まで開けることはできないはずだ。あそこで寝てさえいれば……。ノスヤと小娘の夫婦こそ、この部屋で寝るべきだったのだ。


男の手が、乱暴に上着を脱がしていく。クレイリーファラーズの胸が露わになる。


……誰か、助けて。


そう心で願ったとき、猿轡が外された。口に何やら柔らかいものが押し付けられる。唇を奪われたのだ。それだけは拒みたかったが、どうしようもなかった……。


「ハッ!」


気が付けば、薄暗い部屋が見えた。シャンデリアが目に入った。口にはまだ、何か、柔らかいものが押し付けられている。


……これって、私の?


押し付けられていたのは、クレイリーファラーズの腕だった。ゆっくりと腕を動かして、大きく息を吸い込む。そのとき、寒さを感じた。


「……」


パジャマの上着がめくれあがっていて、乳と腹がむき出しになっていた。クレイリーファラーズは乱れた息を整えながら、服を検める。


「……夢か。ビックリして、腹が出ちまったじゃない」


以前に比べて腹が出てきてしまっている。以前からそんな気がしていたが、やはり腹が出ている。それもこれも、あのジジイのせいだ。夢の中に出てきて乱暴した挙句、腹まで出しやがった。


「ぜったいに……許さねぇ」


クレイリーファラーズは小さな声で呟く。


周囲を見廻してみるが、この部屋には時計がない。一体今、何時だろうか。窓もないために全く分からない。彼女はライトの魔法を出す。出そうとする……出そうとして……いや、出るはずだが……出なかったために、一旦、部屋の外に出た。


玄関……と表現するには広くて立派すぎるホールには、赤々と明かりが灯っている。だが、窓がないために、ここでも時間はわからない。


「……チッ」


クレイリーファラーズは思わず舌打ちをする。自分のプライベートを優先して、窓のない部屋をあえて選択したツケが、まさかこんな形で返ってこようとは思わなかった。自分のだらしのない生活……ではない、あのスケベジジイが興奮してちょっかいを出してこないようにと考えたのだ。だが、実際はともかく、夢の中でちょっかいを出されてしまった。クレイリーファラーズにはぶつけようのない怒りが、沸々と心の中に湧き上がってきていた。


ふと、手洗いに行きたくなった。新品のきれいなトイレだ。そこならば、確か窓があったはずだ。


「しゃーないですね。そこでこもってスッキリして、心を落ち着けながら、今何時ごろか調べましょうか」


そう言って手洗いに行こうと歩を進めたが、ふと、その動きを止める。目の前には、ハウオウルの部屋があった。


「まさか、あのジジイ。お手洗い使ったんじゃないでしょうね」


憎しみを込めた声で呟く。昨夜は一番風呂に入ったので、その後は誰が入ったのかはわからない。ちなみに、自分から一番風呂に入れてくれといったのではない。皆が勧めるから、どうぞお入りくださいと言うから、入ってやったのだ。手洗いに行って風呂に入り、すぐに寝た。そのため、自分が使った後に誰が風呂と手洗いを使ったのかは、知らないのだ。


だが、確実にパルテックもハウオウルも使っているだろう。ババアの後で使うのは我慢できる。だが、あの不潔なジジイの使った後の風呂や手洗いを使うのは……イヤだ。


そう考えた彼女は、奥の部屋に視線を向ける。あそこには、風呂と手洗いが備え付けられている。早々にあの二人は部屋に入ってしまったので確認はできていないが、こちらとそう変わりはないはずだ。あの二人が使ったものであれば、我慢はできる。


「ちょっと、様子を見てみましょうか」


そう言うと同時に、抜き足差し足忍び足で廊下を進んでいく。ちゃんとランプのような灯りが煌々と照っているため、歩きにくいということはない。


扉の前に着き、ドアノブに手をかけようとしたそのとき、小さな声が聞こえてきた。クレイリーファラーズは、聞こえてくる音に、全神経を集中させる。


「……ンっ。……ンっ。……クッ。……ンっ」


甲高い声……。たどたどしくはあるが、呻き声のようだ。


……まさか、ハッスル真っ最中!? 夜中……ですよね? まだ、ですか? 若いわねぇ……。いや、それは、いくら何でも。


そっとドアノブに手をかけ、ゆっくり、ゆっくりと扉を開ける。すると目の前に、少し大きめなバスケットが見えた。何やら毛玉のようなものが、ゆっくりと上下していた。


「……ンっ。……ンっ。……ンっ。……ンっ。」


先ほど聞いた、小さな、甲高い声が聞こえる。そのとき、毛玉がゆっくりと起き上がり、こちらに振り向いた。


「……きゅ?」


「……チッ。バカ竜が。紛らわしい声出してんじゃねぇよ」


クレイリーファラーズは、ゆっくりと扉を閉めた。

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