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第二百四十六話 大儀であった

……お腹が痛い。シクシクとした痛みが襲ってくる。早くこの場を離れたい。


俺は今、鎧を装備した兵士たちに囲まれている。その数およそ五十。俺の周りを、槍を天に突き立てた兵士たちが整然と整列している。ものすごい威圧感だ。


四公爵家筆頭のシンセンの屋敷……。軍人の家らしく、玄関から物々しい警備態勢が敷かれていた。何よりも怖かったのが、警備をしている兵士たちだ。ある一点を見据えたまま、微動だにしない。まるで、蝋人形かと思ったくらいだ。


で、部屋に入ると、兵士たちがどこからとも現れて、俺たちを囲んだというわけだ。どれほど不気味であったか、わかってもらえるだろうか。


ちなみに、四公爵家のことについては、この屋敷の廊下を歩きながら、クレイリーファラーズが教えてくれた。何でも、国王の一族の中で、もっとも血が濃いのだそうだ。言ってみれば、一番親しい親戚と考えてよいそうだ。


その中で、このシンセン公爵家は、王国の軍事を司る家であり、軍の総司令官を勤めている。これは、ヴァッシュの父と同じなのだが、実際は比べ物にならない程、このシンセン公爵の方が地位は上なのだそうだ。軍事力を握っているため、この公爵が本気を出せば、クーデターなど朝飯前。つまり、すぐにでも国王の座に就くことができるのだ。言ってみれば、この国のNo.2と言って過言ではない。


つまりは、この人をしくじると、あとがマジで面倒なことになる。


そこまで考えると、お腹がキリキリと痛み出した。無事にここを出られますようにと、心の中で祈りを捧げる。


そのとき、鈴のような音が鳴り響いた。その途端、周囲を囲んでいた兵士たちが、一糸の乱れもなく、正面に向き直った。ザッ、ザッ、ザッときれいに音が揃っている。どれだけ訓練を積んだのだと思わせるほどの、統制の取れた動きだった。


正面の、一つ高くなった場所に、静々と一人の男が歩いてきた。齢、40代中盤と言ったところだろうか。渋い、ナイス・ガイだ。金髪がよく似合う。


その彼の肩に、何やら乗っている。猿……か?


「シンセン・ワーン・リリレイスだ。見知りおけ」


顎をクイッと上げ、傲慢不遜な態度だ。この人は……怖い。思わず、ワオンを抱いている腕に力が入る。


「本日は……」


「キシャーァ」


自己紹介をしようとしたところに、突然、奇声が上がったかと思うと、公爵の肩に乗っていた猿が空を飛んだ。一目散にこちらに向かってきた。


「キシャー! キシャー! キシャー!」


まるで蝙蝠の化け物のような体躯をした生き物が、俺の周囲を飛び回っている。そのあまりの異様な風体に俺は恐れおののき、ワオンはガタガタと震えている。


「うわっ!」


「キシャー!」


突然、蝙蝠の化け物が俺の肩に止まった。そして、大きな口を開けて、ワオンに噛みつこうとした。その瞬間、俺は右手の掌を化け物の顔の前にかざして、土魔法を発動させた。


「ベシャァァァァー!!」


顔中を泥だらけにして、化け物は床に落ちた。この土は粘り気を持たせてある。ちょっとやそっとじゃ取れないものだ。俺の足元で必死にもがいているが、泥を落とすことができない。


「キェアー。キェアー。キェアー」


まるで助けを求めるように、化け物は公爵の許に向かって走っていった。両手の翼をパタパタと動かしているが、泥が纏わりついて飛べないらしい。


「キュルルルルルー。キュルルルルー」


まるで泣きそうな声で、公爵の足にまとわりついている。白いパンツが泥で汚れてしまっている。だが彼は、そんなことは一切気にすることなく、無表情のまま俺に話しかけてきた。


「ワイバーンたるゲーアをこのようにするとは……。なかなかではあるな。だが、貴様の腕に抱かれているそのドラゴンは何だ。震えているではないか。ドラゴンの誇りは、ないのか。弱きドラゴンだ……」


「お言葉ですが、この仔は、とても頭のいいドラゴンです。それに、愛嬌があって、いつも俺たちを癒してくれます。俺は、この仔に、乱暴さは求めていません」


……思わず口をついてしまった。いや、そう言うつもりじゃないんだ。いや、怒らないでください。ね? ね?


公爵は眼を見開いている。明らかに怒っている表情だ。こっ、殺される……かも……。


「フハハハハ! ドラゴンに雄々しさを求めぬというのか! 面白い男だ! 見たところ、貴様の抱いているのはフェルドラゴンのようだが、どうだ?」


「そ、そのようです」


「飛べるのか?」


「いえ……それはまだ……」


「飼って、何年になる?」


「まだ、一年……二年くらいですか」


「二年間、貴様がずっと育てたのか?」


「はい……」


「大儀である!」


突然、公爵が大声を張り上げたため、体が震える。ビックリするじゃないか……。


公爵は俺たちを眺めると、満足そうな表情を浮かべた。


「二年間も仔竜を育てているのだ。心配はあるまい。だが、アルマイトには一度、診てもらうがよい。余からも伝えておく」


アルマイト? 一体誰だ? 戸惑う俺を残して、公爵はくるりと体の向きを変えると、スタスタとその場を後にした。彼の後ろを、ゲーアと呼ばれた小さなワイバーンが、ヒョコヒョコと追いかけて行った。


「……何なんだ、一体?」


俺は呆気にとられながら、公爵の後姿を見送る。そのとき、クレイリーファラーズが小さな声で呟いた。


「フェルディナント……。やっと見つけた、私のフェルディナント……。フェルディナント……」


何を言っているんだ、アンタ。夢を見ているんじゃないよ。あっ、公爵が足を停めた……。振り返った! こっちを見ているじゃないか……。どうするんだよぉ……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何をやってんだ、クレイジーさんや
[一言] いつからフェルディナントが一人だと錯覚していた!? とか思ったり。 クレさんや、それ多分、脳筋ナントやで。
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