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第二百三十二話 いざ、王都へ

「遅くなりました」


レークがいつもの笑顔で俺たちの前に現れる。彼女の笑顔は本当に癒される。その後ろでは、パルテックさんとハウオウルの他に、ヴィギトさん夫婦も姿を見せている。


「丘の下に、馬車を停めています。いつでも出発できます」


「ありがとうな、レーク」


彼女の頭をワシャワシャと撫でる。レークも嬉しそうな表情を浮かべている。


「そっちの準備は大丈夫なの?」


ヴァッシュの声が聞こえる。それに対してパルテックはゆっくりと頭を下げる。


「ええ。必要最低限のものだけを持って参りましたから。そんなに時間はかかっておりません。それに……レークちゃんも手伝ってもらいましたので……」


見ると、彼女の手にはピクニックに行くようなバスケット一つだけが握られている。その隣では、ハウオウルがにこやかに微笑んでいる。


「先生も、準備はよさそうですね」


「準備も何も、儂の持ち物はこのカバンとこの杖だけじゃ」


そう言って彼は、体の前に下げた小さな肩掛けかばんをポンと叩く。彼の準備も万端のようだ。


「朝食は……。皆、済ませてきたのか?」


「セルフィンさんが作ってくれました」


「セルフィンさんが?」


「はい。今日のお弁当を頼んでいたのですが、持ってこられたついでに、朝食も届けてくれたのです」


レークはにこやかに話をしながら、少しずつクレイリーファラーズの許に寄って行き、彼女に小さな声で呟く。


「ちゃんと、大盛りのお弁当も拵えてもらいましたから、安心してください」


クレイリーファラーズは一切表情を変えず、ただ、グッと親指を立ててみせた。


「じゃあ、準備は完了かな。ヴァッシュは大丈夫か?」


「ええ。問題ないわ」


「じゃあ、出発するか。ワオン」


「きゅ~」


トコトコと俺の足元にやってきたワオンを抱き上げる。そして、レークとヴィギトさん夫婦に視線を向ける。


「じゃあ、レーク、ヴィギトさん。留守の間、屋敷の管理をお願いしますね」


「ええ。お任せください。いつ戻ってこられてもいいように、ピカピカにしておきます」


この屋敷は、俺が戻ってくるまでの間、ヴィギトさん夫婦が泊まり込むことになっているのだ。俺たちの寝室を使ってもらっても構わないといったのだが、二人は頑として首を縦に振らず、結果的に空いている部屋で住むことになったのだった。


そんな二人に俺は、深々と頭を下げる。


「じゃあ、行こうか」


皆を連れて外に出る。丘の下には、二台の馬車が停まっていて、その周囲には村人たちが集まってきていた。


「ご領主様、行ってらっしゃいませ!」


皆口々に、行ってらっしゃいと言ってくれる。少し騒動になるのではないかと思われるような盛り上がりぶりだ。


「では、行ってきます! 行ってきます! 行ってきます!」


俺はワオンをレークに渡して、馬車のステップの上に乗り、集まった人々に手を振ってこたえる。皆、笑顔だった。本当に、俺の王都への旅を祝福してくれているのが、よくわかった。


俺は再び地面に降りて、馬車の扉を開ける。


「ごめんあそばせ」


そう言って、クレイリーファラーズが乗り込んでいく。いやいや、アンタのために扉を開けたんじゃないんだが……。だが、その様子を見たヴァッシュは、スタスタと後ろに停まっている馬車に向かって歩いて行く。その彼女に、集まった人々が「行ってらっしゃい」や「お気をつけて」と口々に声をかけている。ヴァッシュも笑顔で皆に応えている。


「ほい、儂らは先に乗り込むぞい」


ハウオウルはウインクをしながら、馬車に乗り込んでいく。俺は笑顔を返して、ヴァッシュの後を追う。


「ちょっと、ちょっと、何よ!」


クレイリーファラーズの絶叫にも似た声が聞こえてくるが、聞こえないふりをする。そして、ヴァッシュに追いつくと、すぐさま馬車の扉を開ける。


「ありがとう」


笑顔で彼女は馬車に乗り込む。


「ご領主様!」


振り返ると、レークがワオンを俺に渡そうと腕を伸ばしているところだった。


「おいで、ワオン」


「きゅ~」


俺の胸に飛び込むようにしてワオンが抱きついてくる。その彼女を、大事に抱きかかえる。


「それじゃレーク、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ!」


ペコリと頭を下げるレークを見ながら俺は馬車に乗り込み、扉を閉める。それが合図だったかのように、二台の馬車は同時に動き出した。


「行ってきます! 皆さん、ありがとう! ありがとう!」


両手を挙げて見送ってくれる村人たちに、全力で手を振る。何だか涙が溢れ出てくる。どんどんと村人たちが遠くなり、馬車は森の中に入っていく。


「……泣いているの?」


心配そうにヴァッシュが話しかけてくる。俺はゴシゴシと袖で涙をぬぐいながら、言葉を返す。


「何か、自然に涙が溢れてきてね。あんなに笑顔で見送ってくれるなんて……」


「それは、あなただからよ」


「え?」


「みんな、あなたのことが大好きなのよ。だから、あんなに喜んでくれるのよ」


「そうか?」


「とても、あなたは慕われているわ。……ほら」


ヴァッシュが外を指さす。それと同時に、馬車が停まる。窓から見るとそこは、ティーエンの家だった。玄関の前で、ティーエンとルカの夫婦が俺たちの馬車を見つめていた。


「ティーエンさん、ルカさん、行ってきます!」


「行ってらっしゃい! ラッツ村のことは、心配しないでください!」


「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


馬車が再び、動き出した……。

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