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第二百三十一話 戸惑い

「一体、どういう思考回路を通ったら、その言葉が出てくるんだ? 普通の人間じゃ、その言葉はすぐに思い浮かばないと思うぞ?」


呆れる俺に、クレイリーファラーズはフフンと鼻を鳴らす。


「私に意地悪をすると、痛い目にあう、ということです」


「まあ、そう言うことにしておこうか。ただ、ヴァッシュに変なことを吹き込みやがったら、死ぬまでオヤツ抜きにするからな?」


「……チッ」


舌打ちしやがった。何と、お行儀の悪い天巫女だ……。


「どうかしたの?」


キッチンから戻ってきたヴァッシュが不思議そうな表情を浮かべている。俺は何でもないと言って、テーブルに乗っている皿を片付けようとする。


「待ってください。まだ、残っているでしょ!」


クレイリーファラーズが、俺の手から肉が盛り付けられていた皿を奪い取る。もう肉は食べつくしているが、一体何をするつもりだろうと思っていると、彼女は皿に残っている肉の切れ端を集め、それを口の中に放り込んだ。さすがのヴァッシュも、その光景に目を丸くして驚いている。


「うえい! ごちそうさま!」


ドン、と皿をテーブルに置く。まるで横綱クラスの食いっぷりだ。俺は呆れながら皿をまとめ、キッチンに持っていく。


さっさと洗い物を済ませてダイニングに戻ってくると、ヴァッシュが寝室で何かごそごそとやっている。


「どうしたんだ?」


「荷造りをしているのよ。必要最低限のものは持っていかないと……」


「ああ、好きなものを持っていくといいよ」


そう言って俺は地下室に向かい、神様からもらった大袋、ヴィーニを取ってくる。それを、ドンとテーブルの上に置いて、ヴァッシュに声をかける。


「この袋に入れるといい。何でも入るから」


クレイリーファラーズがギョッとした表情を浮かべる。その直後、頭の中に、彼女の声が響き渡った。


『ダメですよ! 小娘にヴィーニのことをバラしちゃ!』


「あなたが天巫女だというのは、伝えてあります」


「ほへ?」


「何ちゅう顔をしているんです。ヴァッシュは神様のことを覚えていますから。神様からもらったアイテムの話をしても大丈夫でしょう」


「ジジイ……記憶を消すのを忘れたわね。耄碌していますね。もう、消滅しちゃえばいいのに」


「ええと……神様の……何?」


ヴァッシュが目を白黒させている。そんな彼女に、俺は笑顔で声をかける。


「これこれ、これなんだ。別名、『神の手』と呼ばれるクリスチャン・ヴィーニという袋だ。この中に何でも収納することができるから、好きなものを持っていくといい。例えば……」


俺はヴィーニを持って寝室に行き、ヴァッシュの服を手当たり次第に袋の中に入れていく。


「え? ちょっと……本当に入っているの?」


「入っているよ、ほら」


俺は先ほど入れた服をヴィーニから取り出して、ベッドの上に並べていく。ヴァッシュはぽかんとした表情浮かべていたが、やがて、ゆっくりと天を仰いだ。


「まるで、手品かなにかを見ているようだわ……」


ヴァッシュは首を振りながら近づいて来て、恐る恐るヴィーニを手に取る。そして、ゆっくりと中を覗き見る。


「……何もないわ」


「ああ、それは……」


クレイリーファラーズに視線を向けると、これまたキョトンとした表情を浮かべている。え? 知らないのかよ? その瞳からはそんな感情が読み取れる。


「……知らないですよ」


「マジっすか?」


「マジで、知らないです」


「簡単な話です。彼女は契約していませんから」


「契約?」


「ヴィーニとテルヴィーニの中身は、神と契約した者でなければ見ることはできません」


「俺は神と契約した覚えはありませんが……」


「それはそうでしょう。強制的に契約しましたから」


「はぁぁぁぁ」


思わず声が漏れる。まあ、確かに、ここに転生させられるときに、スキルなどを付与してもらった。きっと、あのときに契約していたのかもしれない。


「これって、つまり……」


おずおずとヴァッシュが質問してくる。俺は笑顔で答える。


「神様がくれたものなんだよ。とても便利なものでね。重宝しているんだ」


「うわぁぁぁ」


まるで飛びのくようにして、ヴァッシュがその場から離れる。


「神から下賜されたものだなんて……」


不思議そうな表情を浮かべる俺に、ヴァッシュは呆れたような表情を浮かべる。


「神から下賜された『神器』はいくつかあるけれど、どれもが大国の皇帝が所有していて、代々受け継がれているものよ。お城の地下深くの宝物庫に厳重に管理されているものなのよ。それを、こんなにぞんざいに扱うなんて……」


「いや、そこまでのものでは……ね?」


クレイリーファラーズは首を傾げていたが、やがて、ゆっくりと頷いた。


「あなたたちと話をしていると、私の感覚がおかしくなりそうだわ」


「まあ、俺も最初は戸惑ったけれど……そのうち慣れるよ」


「そんなものかしら」


「まあ、これはこれとして」


突然、クレイリーファラーズが口を開く。一体何を言い出すのかと固唾を呑んで彼女に視線を向ける。だが、その口から発せられたのは、何とも拍子抜けする言葉だった。


「ヴィーニを無くさないように気を付けてください。無くしたところで、普通の人には中身は見えないですから、心配はありませんけれども、無くしたら色々と不便ですから」


ヴァッシュは再び、呆れたような表情を浮かべた。そんな俺たちの会話の終わりを告げるように、レークの元気のいい声が玄関から聞こえてきた。

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