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第二百十三話  大人と子供

「マジで?」


口をすぼめ、目を見開いた状態で、クレイリーファラーズは黙ってしまった。彼女の考えていることは、手に取るようにわかる。


「そうですか。しょうがないですね。今まで抑えていたものが爆発……せずに、いや、一旦は爆発したのか。でも、それが不発だったと。う~ん。それじゃ、対策……をしましょうか」


「対策?」


「このままじゃヤバいでしょ? 自分でどうにかできるのなら、好きにすればいいです。でも、どうにもならないんじゃないですか?」


「うっ……」


「でしょ? 手がないわけじゃないですよ? でも、タダ、というのはねぇ……。そうですねぇ……おイモ、何を作りたいですか?」


「……」


「いいですよぉ? 一生使い物にならないままでよければ。あなたの自由です。で、何を作ります? 大学芋とか大学芋とか、大学芋とか?」


「断る」


「え?」


「あなたのことです。大体の答えは察しがつきます。どうせ、精力のつくものを食べろ……みたいな答えでしょ?」


「なっ、そっ、ううっ」


……図星かい。その答えを返されたら、マジで行動に移すところだったわ。


「あの……おイモも、効果があるんですよぉ」


「初めて聞いたわ」


「本当ですよ。砂糖は精力剤の一つなのですよ。ですからここは、いつも以上に甘~い甘~い大学芋を作ってですねぇ。あ、大丈夫ですよ。あなたたち夫婦みたいな甘さはいりませんからね」


……何でドヤ顔をしているんだ? それ、上手いこと言っているか? 面白くない……全然面白くない。てゆうか、何をもって俺たちが甘い新婚生活を送っていると言っているんだか……。


「まあ、あまり考えすぎないことですね」


俺の表情を見て何かを感じたのか、彼女は突然真面目な表情になった。その様子に、俺も姿勢を改めて、彼女の言葉に耳を傾ける。


「上手くやろうとすればするほど、上手くいかないものです。考え方を変えた方がいいかもしれませんよ?」


「考え方?」


「あなたのことです。上手にしよう……うまくまとめよう……。そんなことを考えていたのではないですか?」


「いや、そんなことは……」


「隠さなくても分かります。経験もないのに、そんなことを考えるからプレッシャーになるのですよ。別に、上手くやらなくていいじゃないですか。だって、経験がないのですもの」


経験ないって言葉が多すぎないか、と思ったが、言っていることに間違いはなさそうだ。


「それよりも、考え方を変えるのです。例えば……」


彼女はスッと天井に視線を泳がしたかと思うと、目をキラキラさせて俺に視線を向ける。


「あの子、確か15歳でしたっけ? 15歳ですよ、15歳! JCですよJC! 日本だったら完全にアウトですよ? 手を握っただけで、ヘタをすれば人生が変わっちゃう……。そんなJCにあんなことや、こんなことができるのです。そう考えますと、興奮しますでしょ? もう、あなたが好みの女に仕込めばいいのです。ね? そう考えると、色々と妄想が膨らんで……あれ?」


俺は無言のまま踵を返して、キッチンを出て行った。もう、あの天巫女と喋るのは、よそう。


俺がキッチンを出ると、ちょうどヴァシュロンとパルテックが寝室から出てきたところだった。俺のすぐ後ろを、クレイリーファラーズが追いかけてきた。ヴァシュロンは一瞬、彼女を睨みつけたが、やがて真面目な表情で口を開く。


「いらっしゃい」


クレイリーファラーズは、居心地が悪そうにマゴマゴしていたが、やがて、よく通る声で話しかけてきた。


「もう、大丈夫でしょうか? 何かお手伝いができることがあればと思って来たのですが?」


「特には、ないわ」


「じゃあ、今日はこのくらいでお暇しましょうか」


「待って」


「何でしょう?」


「彼のことが心配なのでしょう? よかったら、パルテックと一緒に来ればいいわ」


「何の話でしょう?」


「あくまで提案よ。パルテックは私が心配みたいなの。私も心配だしね。だから、しばらく食事はこの屋敷で摂ることにしたのよ。よかったら、あなたもどうかなと思って」


『この女、あなたのことを愛してないですよ。とんでもない女狐だわ』


頭の中で彼女の声が響き渡る。クレイリーファラーズは目を見開いて俺を睨みつけている。


『だってそうでしょう? 好きな男と一緒にいるんですよ? 一日中ハッスルハッスルしたいに決まっていますでしょう? こんなババアが四六時中一緒にいたら、できるものもできないじゃないですか! 間違いなく、あなたを拒否っていますよ!』


……ゲスい。何てゲスいんだ、この人は。こんな人じゃなかったと思うんだけれどな。何が彼女をこんな風にさせたのだろう。


そんな悲しみを感じながら俺は、静かに口を開く。


「特に、一緒にいる必要はないかもしれませんね」


俺の言葉にクレイリーファラーズは全力で首を振る。


「せっかくのお誘いですから、受けないのは失礼になりますでしょ? 伺います。朝と夜に伺います。たまに、お昼過ぎにも伺うかもしれませんが……。どうぞそのときには、仲良くしてくださいませ!」


そう言って彼女はスタスタと屋敷を後にしていった。


「素直じゃないわね」


そう言って、ヴァシュロンはクレイリーファラーズの背中を眺めていた。彼女の方が、数段大人だ。


「さ、気を取り直して、やりましょうか」


「やるって、何をだ?」


「決まっているじゃない! ダンスの練習よ!」


厳しい口調とは裏腹に、ヴァシュロンの表情はとても嬉しそうだった……。

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