第二話 激怒
その女性は相変わらず美しい笑みを俺に向けている。一体どういうことなのか説明して欲しいが、動揺とコミュ力不足のために、言葉がなかなか出てこない。だが、彼女は俺がこうした状況になるのは織り込み済みであったかのように、やさしく諭すように話しかけてきた。
「わかります。驚いちゃいますよね、いきなり死んだなんて言われたら」
俺はコクコクと頷く。
「でも、これは事実なのです。ここは天界。多くの神々がおわします世界です。人は死ねばまず、魂はこちらの世界にやってきます。そして、神の審判を受け、その後、どの生き物に生まれ変わるのかが決まります」
……死後の世界って、マジであったんだな。生まれ変わる……いわゆる輪廻転生ってやつだ。あれも、本当のことだったんだな。
何だか狐につままれるような感覚になる。そんな俺の様子を見て、理解したと思ったのか、女性はゆっくりと右手を挙げる。すると、目の前に青く光る道が出来た。
「さあ、ご案内します。私の後に、付いてきてください」
俺はゆっくりと彼女の後を歩いて行く。
しばらく歩くと、俺と同じように死んだと思われる人々が、集まっているのが見えた。なぜ、死んだ人たちだと思ったのか。いわゆる年寄りばっかりだったからだ。30人くらいいただろうか、全員に、俺と同じように白いローブを着た女性たちが付いていた。中には暴れているジイさんもいたが、不思議なことに女性がその背中に触れると、途端に大人しくなっていた。
「それでは、参りましょうか」
俺をここに連れて来てくれた女性が、笑顔で話しかけてくる。俺は彼女に連れられて、白い道をさらに進んでいく。そして、しばらく歩くと目の前に、頭が禿げ上がり、口ひげを湛えた、いかにも神様ですと言いたげな老人が現れた。彼は俺を見るなり、ゆっくりと口を開いた。
「ああ……喋らんでよい。そなたのこれまでの行いは、すべてここに記されておるでな。ええと……」
老人はゆっくりと手に持っていた分厚い本を開いて、そこに目を落とした。パラパラとページをめくる音が聞こえてくる。そして、その動きをピタリと止め、じっと本の中身を確認していたが、突然彼はスッと顔を上げ、俺を睨みつけた。
「青海一馬、とはそなたか!」
なぜ、怒っているんだ? いや、確かに俺は大した人生を送っていない。両親にも散々迷惑と心配はかけた……そんなことを思っていると老人は、後ろを振り返り、大声で叫び出した。
「クレイリーファラーズを呼んで来い! すぐにだ! 青海一馬が現れた。 早く呼べ! すぐにだ!」
老人は再び向き直ると、厳しい表情を浮かべながら、俺を睨みつけた。
……一体、どうしたんだ? 何がどうなっているんだ?