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第二百話    これから

結局、夕食にと作ったのは、野菜炒めだった。ヴァシュロンと二人で作ったのだが、彼女がやったのはパンを焼いたことだけで、野菜を刻み、フライパンで料理をしたのは、俺だったのだが。


料理の香りのせいか、もうすぐ出来上がるというところで、パルテックとワオンが起きてきた。ワオンは本当に腹が減っているのか、嬉しそうに羽をパタパタと動かしている。


「さ、簡単だけれども、皆で食べよう。お腹すいているだろ?」


俺はワオンとパルテックを交互に見ながら口を開く。パルテックはとてもうれしそうな表情で黙って頭を下げた。


腹が減っていたためか、その日の食事はとても美味しく感じた。ヴァシュロンも笑顔で、いつも以上によく喋った。


食事もひと段落付き、ヴァシュロンたちは館に帰ることになった。彼女は一応、この屋敷に住むことになるが、それについては色々とやらねばならないことが残っている。それに、王都からの召喚もある。それら諸々の進み具合で、いつ結婚式を挙げるのか、この屋敷に引っ越してくるのかの時期を調整しなければならない。下手をすると、王都から戻ってきてからになるかもしれない。そうなると、数ヶ月先になる可能性もある。


「仕方がないわ、そんなこと。贅沢は言わないわ」


ヴァシュロンは、いつもの気の強そうな眼差しをじっと俺に向ける。その瞳には、ある種の決意が見て取れた。


二人は席を立ち、玄関に向かう。俺も見送るために後を追う。パルテックが深々と一礼をして、今日の礼を言い、これからのことをお願いした。その隣でヴァシュロンも殊勝に話に耳を傾けている。


「では、おやすみなさいまし」


「ゆっくりやすんでね。おやすみ」


「ああ、よい夢が見られますように。おやすみ」


パルテックが先頭に立ち、玄関から出ていく。彼女の姿が消えた瞬間、ヴァシュロンが突然俺のところに戻ってきた。


「うっ」


ほっぺにキスをされてしまった。驚く俺に、彼女は意地悪そうな笑みを浮かべながら、ウインクをした。そして、慌ててパルテックの後を追いかけた。


「……」


俺はキスされた頬を左手で押さえながら、呆然と二人が去っていった玄関を眺める。何だろうか、この何とも言えない嬉しさは。愛される喜びというやつだろうか……。


「にゅ~」


ワオンが俺をじっと見つめている。その愛らしい姿に、思わず笑みが漏れる。


「ごめんごめん。さ、風呂に入って、寝ようか。ワオン」


「ンきゅ」


ワオンを抱っこして、ダイニングに向かおうとする。そのとき、再び玄関の扉が開いた。


「ごめんください」


ひょっこり現れたのは、何とウォーリアだった。彼は大きな箱を抱えながら、俺に笑顔を向けている。


「ああ、ウォーリアさん。どうしました?」


「この度はご結婚、おめでとうございます。心から祝福いたします」


「ありがとうございます」


「それで……。是非こちらをお贈りしたいと思いまして……」


「ああいや、お気持ちだけで……。村の皆さんもお祝いは気持ちだけでと言うことで、品物は持って帰っていただいたのです」


俺の言葉に、ウォーリアは驚いた表情を浮かべる。


「いえいえ、これだけは、これだけは、是非、お納めいただきたいのです。ちょっと失礼します」


そう言って彼は、ダイニングに行ってしまった。俺はワオンと顔を見合わせる。


「受け取ってやりなさいよ」


背後から声がする。振り向くと、クレイリーファラーズが立っていた。


「朝から一心不乱に作っていたのです。まずは出来栄えを見てはいかがですか?」


そう言って彼女もスタスタとダイニングに行ってしまった。


仕方がないので、俺もダイニングに向かう。すると、そこには、箱から純白のドレスを出そうとしているウォーリアの姿があった。


「是非、この花嫁衣裳、お納めください。私が精魂込めて作りました」


見ると、美しい光沢を帯びた見事なドレスだ。


「実は先ほど、ヴァシュロン……。奥様をお見掛けしまして、花嫁衣裳を作ったことをお伝えしたのです。そうしましたら、ご領主様のお許しを得たら、受け取りたいと言われました」


「……ありがとうございます。素晴らしいドレスですね。こちらは、受け取らせていただきましょう」


「ありがとうございます!」


彼は満面の笑みを浮かべながら、深々と一礼をした。そして、ドレスをまるで、宝物を扱うように大切に畳み、箱の中に仕舞った。


「では、お納めください」


「あの、ウォーリアさん。これはあなたのお店で預かっていただけませんか? いや、実は、彼女と結婚式を挙げることについては、色々と調整が必要でして……。すぐにというわけにはいかないかもしれないのです。最悪、数か月先という可能性もありまして……。そうなりますと、この屋敷に置いてしまうと、ドレスが痛んでしまわないかと……」


俺の話を聞きながら、ウォーリアは大きく頷いている。


「なるほど、ごもっともです。それでは、私の店でお預かりいたしましょう。もし、お時間をいただけるのであれば、ご領主様の衣装もお作り致します」


「いいですよ、そんな」


「いいえ。ご領主様には、言葉には尽くせない御恩をいただいております。是非、やらせてください」


そう言って彼は、ドレスの入った箱を大事に抱えて帰っていった。


「さて、すみませんが、ちょっと座っていただけますか?」


ウォーリアを見送る俺の背後で声が聞こえる。見ると、クレイリーファラーズがテーブルの椅子に腰かけた状態で、右手を差し出しながら俺に着席を促していた。


「ちょうどいい。あなたとは、話し合わねばならないことがあるのです」


そう言って俺は、彼女の前に座った……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「下手をすると、王都から戻ってきてからになるかもしれない。そうなると、数ヶ月先になる可能性もある。」 先延ばしにしていたら、またあの兄に適当に婚約者を押し付けられるとは考えないんだ。
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