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第百四十八話 激怒する天巫女

「何をやっているんだ、お前?」


俺の質問にデオルドは顔を背けたまま答えない。俺は村人たちにこの男を縛り上げるように命じて、まだ足に噛みついているワオンの背中をやさしく撫でる。


「ワオン、もういいぞ。ご苦労だった」


俺のその言葉で、ようやくワオンは齧り付いていた男の足から離れた。彼女の口の周りが血で汚れてしまっている。俺はクリーンの魔法をかけてきれいにしてやり、そのままワオンを抱っこした。


「で……お前は何しに来た? 確か、ケンタッ〇ーフライドチキンでビッグ〇ックを買ってこいとお願いしていたが、持ってきたのか?」


俺の言葉に、デオルドはなおも答えない。そのとき、村人の一人から声が上がった。


「おい! あの木……何だ?」


村人数人が走っていく。その方向に視線を向けると、彼らは畑を囲っている柵の前で足を止めた。そこには何と、紫色の、いかにも毒々しい色をした木切れがロープで巻き付けられていた。


もしかしたら爆発するかもしれない……。そんな俺の心配をよそに、村人たちは縄を解き、その木を俺の許に持ってきた。


「いったいこれは何だ? 何やら甘い香りがするが……」


「ノスヤ様! これをご覧ください!」


村人がデオルドの傍らに放置されていた布袋の中身を俺に見せてくる。そこには、先程回収した木と同じものが数本入っていた。俺は今回収してきた木もこの中に入れ、デオルドを引き立ててくるように村人たちに命じた。彼は乱暴に引き起こされて、まるで引きずられるようにして俺の後についてきた。詳しく診ないとわからないが、ワオンは相当深くまで噛んだようで、彼は足を引きずりながらヒョコヒョコと俺の後ろを付いて来た。


歩きながら俺は考えていた。このデオルドをどこに連れて行こうかと……。そのとき、騒ぎを聞きつけたティーエンたちがやってきた。


「ノスヤ様! 一体何事ですか?」


「ちょっと怪しい男を捕まえました。おそらく、というより、間違いなくインダークの人間です。しばらく身柄を拘束したいと思っているのですが……」


「では、避難所の空いている部屋に閉じ込めましょう」


「そうですか? 頼めますか?」


ティーエンはコクリと頷くと、デオルドを連行していった。俺は周りにいる村人たちに、ティーエンを手伝ってやってくれとお願いをして、一旦ワオンを連れて屋敷に帰った。


「……何ですか? こんな朝っぱらから」


不機嫌そうな様子を隠そうともせず、クレイリーファラーズはテーブルに座る。まあ、帰ってくるなり、いきなりハンモックを揺らすに揺らせて叩き起こしたのだ。さぞ驚いたことだろう。だが、この天巫女はこのくらいのことでなければ目覚めてくれないのだ。熟睡しているところから無理やり起こされたためか、顔がむくんでパンパンになっているが、敢えて何も突っ込まないことにする。


「ちょっとこれを見ていただけますか?」


俺はデオルドの傍らに落ちていた布袋を渡す。彼女は面倒くさそうな表情を浮かべながら、ゆっくりとその中を覗いた。


「うわぁぁぁっ!」


突然、クレイリーファラーズが声を上げる。一体何事かと俺は、ワオンと共にビクッとなる。


「こっ……これ……」


クレイリーファラーズが目をカッと見開いて固まっている。彼女がこんな表情を浮かべるのは珍しい。


「一体どうしたのですか?」


「てゆうかこれ、一体どこに生えていたのですか?」


「いいえ、生えてはいないです。夜明け前にワオンが怪しい男を捕まえたのですよ。その男が持っていた布袋がそれです。あと、同じような木が畑の柵に括りつけられていました」


「すぐに! すぐに! この村の畑のすべてを調べてください! そして、この木があればすぐに回収してきてください! 急いでください!」


ものすごい剣幕でクレイリーファラーズが怒鳴っている。あまりの迫力に、俺もワオンも言葉を失う。


「早く行け! 行けってんだよ!」


まるで追い払われるようにして、俺はワオンを抱きながら外に出た。


結局、村人たち総出で、畑の隅から隅までを調べてみたが、あの毒々しい木はどこにも発見されなかった。ワオンも鼻をピクピクと動かしながら調べてくれたが、それらしき木はないようだった。


そんなことをしていると、ちょうどお昼ごろになった。俺は村人たちにねぎらいの言葉をかけ、セルフィンさんの店で昼食のお弁当を受け取って屋敷に帰った。勝手口の扉を開けるとき、何故か俺は一度深呼吸をして気合を入れた。


「ただい……ま……」


恐る恐る扉を開けて中を見ると、クレイリーファラーズが腕を組んで仁王立ちをしていた。そして、彼女の前にあるテーブルを挟んで、ヴァシュロンとパルテックが並んで座っており、何故か二人とも申し訳なさそうに項垂れていた。さらには、二人の後ろにはヴィギトさん夫婦とレークが、心配そうな表情を浮かべながら立ち尽くしている。まさか、常に正論を吐くヴァシュロンが、クレイリーファラーズにやり込められたのだろうか。そんなはずはあるまい……。


そんなことを考えながら俺は、ゆっくりとダイニングに入る。と、その瞬間、クレイリーファラーズの怒号が屋敷内に響き渡った。


「テメェら! やっていいことと悪いことがあるぞ! どこまでテメェらは腐っていやがるんだ!」


俺を追い出したときと、全く変わらぬクレイリーファラーズの姿が、そこにあった……。

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