第十三話 土魔法
「あ、スキルやステータスは、修行することで習得することができます。魔法使いになりたいのなら魔導士に弟子入りするとか、剣術使いになりたいのであれば、剣の師範に弟子入りするとかすれば、割合身に付きやすいですよ。興味があれば、どうぞ」
魔法の説明に飽きてきているのか、クレイリーファラーズの言葉に抑揚が無くなってきている。とはいえ、スキルを新しく習得することは可能であるらしい。師匠に付く……スキルの習得は、転生前の世界とやり方自体はあまり変わらないようだ。
スキルの習得について、クレイリーファラーズにいくつか質問をしてみるが、結局、スキルの習得やステータスの上昇については、適性があると習得が早く、ステータスの上昇は経験値に比例するというのが一般的なようだ。
「さてと……。では一度、外に出て魔法を試してみましょうか。と、いっても土魔法なので、泥んこ遊びで終わりでしょうけど」
俺は苦笑いを浮かべながら、頷く。
外に出て、手ごろな場所を探す。屋敷の近くで魔法をブッ放すと、エライことになる可能性があるらしいのだ。確かに、魔法を使ったことのない奴が、いきなり魔法を使うのだ。何があるかわかったものではないだろう。
「ええと……この辺りでいいですかね?」
クレイリーファラーズは、辺りをキョロキョロと見廻している。俺は、まあ、いいんじゃない? と、コクコクと頷いた。
「まずは、土を出してみましょうか。手を開いて地面に向けてください。そして、掌から土が出るイメージをしてみてください」
土……土が出るイメージ……。土……黒くて……粘り気があって……そんな土が……掌から……出ろっ!
ドチャッ
何か出た。足元を見ると、泥のような、真っ黒い何かの塊が落ちていた。
「さすがLV5ですね。もう発動しましたか。この調子で他のことも試していきましょう」
淡々とクレイリーファラーズは口を開いている。その後俺は、彼女の指示に従いながら、石を出し、岩や土を硬化させて錬成するなど、土魔法として使えるスキルを確認していった。
「では、最後に、掌を土に当ててください。おそらく、その土がどんなものであるのかが分かると思います」
俺は跪き、掌を大地に当てる。すると、俺の脳裏に色々な情報が浮かび上がってきた。
「おおっ! 何だこりゃ! 土の情報が……。なるほど、耕作には適していないのだな。……地盤が固いうえに養分が少ないから、作物は育ちにくいんだ。ほう、ほほう」
「あと、地面を掘るイメージをすれば穴が作れたり、土を集めて山なんかを作ったりすることもできますよ」
おお、なるほど、と、俺は穴を掘るイメージをしてみる。すると、少しずつ地面に穴が開いていく。魔力を込めるイメージをすると、その穴が大きく、深くなっていく。次いで、地面の土を集めるイメージをしてみると、土が集まって大地が盛り上がり、山が出来ていく。
「すげぇ! 面白れぇ、これ」
「……やっぱり、泥んこ遊びになりましたね。他にもいろいろな使い方があるでしょうから、自分で使ってみることをお勧めします。さて……もうすぐすると日が暮れますね。あ、そうそう、日が暮れる前に、村長の所に行きましょうか」
「村長の所?」
「ええ、収穫のことを頼むのです。頼む……というより、命じると言った方が正しいですか。明日から、この村の土地の作物を収穫してもらい、屋敷に納めさせるのです」
「収穫?」
「この村での収穫物は、基本的に領主に税として納めねばなりません。農民たちは農民たちで、自分たちの畑を持っていますが、それは領主から借りている土地です。そこで採れた作物を自分のものにできる代わりに、領主自身が持っている畑の収穫を行わねばなりません。また、戦争などが起これば、彼らはすぐさま兵士として徴用できます」
「マジか……」
「ええ、領主としての権限は割かし強いですよ? それこそ、希望すれば町の娘を自分の妾にすることもできますし、店の商品を貢がせることもできます。まあ、あまりやり過ぎると、不幸な未来がやってきますが」
「いや、俺はそんな悪代官になるつもりはない」
「アクダイカン……。まあ、悪い為政者になるつもりがないのであれば、それはよいことです。ちょうどいいではないですか、村長の所に行くついでに、村で色々と必要なものを買いましょう。この村は意外といろんな店があります。見に行くといいですよ」
「あの……でも、俺、お金が……」
「ほら、ヴィーニ……ええ、あの布袋です。その中にあるデルヴィーニの一つに金貨が入っていたはずです。それを渡せばいいと思います。ええ、1枚で十分ですよ」
俺はクレイリーファラーズに勧められるままに屋敷に戻る。そしてヴィーニの中を確認する。そして……あった。デルヴィーニの一つに、金貨が詰まっているやつがあった。俺はその中から金貨を5枚ほど取り出し、ポケットの中に入れる。
「1枚で十分ですよ?」
「いや、非常用に持っていくんだ」
「ふぅん」
そんなことを言いながら、俺たちは丘を下り、村長の家を目指していく。そして、ほどなくして到着した俺たちは、再び村長と面会した。彼は相変わらず慇懃な態度を崩さず、その一方で、俺の言葉や振る舞いから本心を探り出そうとするような雰囲気を醸し出したまま、やんわりと口を開いた。
「どうでしょうか。お屋敷の様子は」
「ええ、何とかなりそうと言えば、なりそうです。聞けば、あのお屋敷は村の方が交代で管理してくださっていたと聞きました。ありがとうございます」
「いいえ、お礼を言われることなどしておりません。領主さまの持ち物ですから、当然のことです」
「いや、それでも、ありがたいことです。ところで、一つお願いがありまして……」
「お願い、ですか?」
「ええ。あの……よかったら、でいいんですが、明日、収穫をしていただけないかなと……」
「収穫……ああ、いや、問題はありません。では、明日、収穫をさせていただきましょう」
村長は恭しく礼を言って、明日すべての作物を収穫することを約束してくれた。
その帰り道、村にある店を色々と見て回った。村とはいえ、数多くの建物が建っていて、店の種類も多い。宿屋を始め、衣服を売っている店、食料品店……沢山の店があった。この世界にも冒険者はいるようで、彼らが立ち寄るギルドもあった。
店を物色していると、腹が減ってきた。どこかに飯を食うところはないかと思っていると……あった。大きなビヤホールのような建物だ。恐る恐る中に入ると、バーカウンターのようなものが見え、その中には髭面の、ダルマのような体格の男がいるのが見えた。
彼は俺を見るや、店中に響き渡るような大声を出した。
「見たところ、アンタぁ貴族様だな!? 貴族様はこの店には入れねぇんだ! 帰ってくれ……帰れぇ!!」
男のあまりの剣幕に思わず体が硬直する。見ると、店の中にいた客全員が俺を睨みつけているのが見えた。
……一体、どうしたんだ!?




